「う……うぅ……」
重い目蓋を開けると入って来たのは見慣れぬ天井。
ここはどこだろうか?
そんな疑問が出てくる。
あの時、後ろから声がしたと思ったら突然気を失った。
あの後、誰かが気を失っていた私を運んでくれたのだろうか?
人里も近かったし、ここは人里の中の家だろうか?
それにしても、何故だか長い間眠っていたような気がする。
数日ほど眠ってしまっていたのだろうか?
そうだとしたら、迷惑をかけてしまったかもしれない。
とりあえず起きよう。
そう思い体を起こしたのだが、何だか体が重い。
疲れているのだろうか?
もしかして疲労のせいで気を失った?
そんな可能性が脳裏に浮かんできた。
魔理沙ちゃんの言う通り、もう少し休むべきだっただろうか?
ふと、自身の体を見た。
「………?」
まだ視界はぼんやりとしているが、それでもその光景は不思議に思った。
目に入ったのは赤い服と私の足だけで、掛け布団のようなものは見当たらない。
床……?
陽がいたのは布団の中などではなく床の上。
まるで、ここで気を失って倒れたようにも見える。
少し気がかりではあるが、そんなことよりも何だか焦げ臭い。
何かが焼けているような……
料理をしているという感じはしない。
少なくともいい匂いとは言えない臭い。
いったい今はどういう状況なのだろうかと疑問に思う。
何度か瞬きをして、目を慣らす。
顔を擦って頭を起こす。
「……えっ?」
頭を擦った手を見て、思考が止まった。
何気ない行動のはずだった。
なのに……
その手が赤かった。
「──血……?」
何故手に血が付いているのか、とそんな疑問がすぐに出てきた。
頭から血が出ているのだろうか?
それとも、鼻血?
もしかして………いや、そんなわけ………
考えれば考えるだけ嫌な予感がしてくる。
「はぁ……はぁ……」
何故だか呼吸が荒くなる。
嫌な予感がしてならない。
違う……そんなわけないよね……?
ふと、自身の背後が気になった。
怖いもの見たさというものだろうか?
いや、それとは何か違う気がする。
頭をそちらに向けようとするが、首がなかなか回ってくれない。
仕方なく、体を曲げて後ろを見ようとする。
手が震えている。
足が震えている。
体が震えている。
体が怖がっている、本能が怯えている。
それを見るのを拒絶している。
怖い
見たくない
見てはいけない
そう思っているのに、何故か体が動いた。
そしてそれが、目に入った。
「あっ──」
わかっていた。
わかっていたはずだ。
そこに何があるのかなんて……
なのに、認めたくなかった。
違う
知らない
私は知らない
そんなこと知らない
知らないはずなのに……
「はぁ……はぁ……」
冷や汗が止まらない。
いや……違う……そんなわけがない……
まだ決まった訳じゃない……
目の前の黒いそれが何か決まった訳じゃない。
私がやったと決まったわけじゃ……
私のせいじゃ……
視界の端で、何かが光った。
見ると、そこには割れた鏡があった。
その鏡は陽のことを映している。
否定したかった。
私じゃないって信じたかった。
なのに……
なのに……
鏡に映る自分は血塗れで、そして……
──笑っている。
その時だった。
全部、思い出した。
直感程度でしかなかったものが確信となり、自身の体が覚えていたものが、頭の中に記憶として入り込んでくる。
「はぁ……はぁ……」
息がさらに荒くなる。
その光景が鮮明に蘇ってくる。
その時の感触が明確に戻ってくる。
焼いた
燃やした
殺した
潰した
引きちぎった
殴った
蹴った
殺した
燃やした
焼いた
殺した
引き裂いた
焼いた
殺した
殴った
蹴った
潰した
燃やした
焼いた
殺した
殺した
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した
焼き殺した、頭を潰した、体を引きちぎった、また殺した……
赤い
手が、服が、視界が……
周りの全てが赤くなっていく。
赤く、赤く、赤く……
赤く染まっていく
赤く、赤く、赤く、赤く、赤く、赤く……
赤く染まっていく、何もかもが、真っ赤になっていく。
生暖かい赤い液体が飛び散って、赤い肉塊を黒くなるまで焼き尽くして、冷たくなったそれを無視して、何もかもを踏み荒らして、また殺す相手を探して……
全部、壊して……燃やして……殺して……
何人?
数える必要なんてない
どうして?
理由なんていらない
何で?
気にする必要はない
「どうして?何で?違う……私……殺そうだなんて……違う……私……私……」
いつの間にか、涙が出ていた。
泣く権利なんて無いのに……
「うぅ……」
気持ち悪い
「はぁ……はぁ……」
気持ち悪い
「うっ……おぇ……」
「はぁ……はぁ……」
「ごめんなさい……」
こんなことしても何も解決できないのに……
「ごめんなさい……」
こんなことしかできない……
「ごめんなさい……」
謝っても意味ないのに……
「ごめんなさい……」
こんな謝罪に価値なんて無いのに……
しても無駄なのに……
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
死んだ人が戻ってくる訳がないのに……
私が殺したのに……
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──」
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「はぁ……はぁ……」
こんなことしても意味がない。
行かないと……
償わないと……
早く……
早く……
震える足でそこから逃げるように立ち去る。
扉を開けると焦げ臭い臭いが入ってくる。
扉の先に広がっていたのはまだ煙の立ち上る、燃える家に既に焼け落ちた家の跡の数々。
村……?人里じゃない……どこかの集落……?
その場所に見覚えはない。
いや……関係ない……殺したことに変わりはない。
これも……私がやった……
いっぱい……殺した……
ふらつく足で、森へと進む。
『やめて……殺さないで……』
『許して……許して……』
『お願いします……命だけは……』
『違う!!私はやってない!!』
『許してください……言う通りにしますから……』
『お願いします……もうしませんから……』
『もう人間に手出ししませんから……』
『お願いします……どうか、子供だけでも……』
『何で?何で?』
『やめて!!殺さないで!!』
『嫌だ……死にたくない……』
言葉が……
私に向けた言葉が、頭の中でこだまする。
憎悪を、恐怖を、怒りを孕んだ言葉が私に浴びせられる。
慈悲を乞うた言葉も、私は聞かなかった。
聞く耳なんて持とうとしなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい──」
耳を塞いでも、いくら謝っても消えてはくれない。
何度も、何度も繰り返される。
その度に罪悪感が重くのしかかる。
足は一歩一歩、先へ進んで行く。
体が重い……
疲労じゃない重さを肩に背負って、ゆっくりと歩みを続ける。
頭が痛い
足首を何かが掴んでいるような気がする。
「許して……」
その言葉が口から漏れ出た。
私を許してくれる人なんて、何処にいるのだろうか?
魔理沙ちゃんだって……許してはくれない……
許しては……
そう……だね………
許してくれるはずがないよね……
魔理沙ちゃんの守りたいものを、私がめちゃくちゃにしたんだ。
ごめんなさい……
謝る権利なんて無い。
そんなことは分かっている。
でも、謝らずにはいられない。
謝っていないと、落ち着かない。
「うぅ………」
さっきから頭が痛い……
それに、意識が朦朧としてきた……
「はぁ……はぁ……」
私は、どこへ行っているのだろう?
何も考えずに進んでいたけれど、どこへ向かっているのだろう?
どこかへ導かれるように進んで行く。
このまま進んでもいいのだろうか?
体は私の意思関係なく、勝手に進んで行く。
「はぁ……はぁ……」
何だか……疲れた……
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「…………」
少し進んだところで足が止まった。
「………?」
私はそこで変な感覚がした。
まるで今ここで目を覚ましたような……変な感覚がした。
それに、何か忘れているような……
少し考えるが思い出せない。
いや……そうだ、やらないと……
私には別にやるべきことがある……
何か他にあったような気はするが、忘れるくらいならどうでもいいことなのだろう。
私はそう割りきることにした。
そんなことよりも、私が守らないと……
私にはその使命があるはずだ……
私が人間を救わないと……
そのために邪魔な奴を排除しないと……
そうだった……
何で忘れていたんだろう?
いや……それよりも、私何してたんだっけ……
直前の記憶がない。
それに……何で泣いてるの?
不思議に思ったが、とりあえず涙を拭く。
今さっきまで向かっていたであろう方向へと再び歩き出す。
特に理由はない、ただ何となく。
「………殺さないと」
もっと、もっともっともっと……
「皆殺しにしないと……」
これは間違っていない。
これは正しいこと。
そう……私は正しい。
私こそが正しい。
妖怪も……霊も……そんなものはみんな悪だ……
私の理想に反する悪
平和を乱す罪人
吐き気を催す醜悪の塊
殺すのに理由は要らない。
同情する必要もない。
それを邪魔する奴は殺せばいい。
妖怪を守るなんて……そんな奴は殺したって構わない……
──でしょ……?
……そうだよね?
うん……
自分自身に問いかけ、再確認する。
何も間違っていない。
人間は……私の言う通りにしていれば幸せだよね。
私に守られていればいい……
人間は非力で、か弱い存在なのだから……
そんな人間を私が救ってあげるのだから、代わりに私の言うことを聞いてくれてもいいよね?
ほんと……感謝してほしいなぁ……
正さないと……この世界を……
必要ないよね……妖怪なんて……
うん、そうだった。
私のやるべきことを思い出せた。
それにしても……
「殺しそこねちゃったなぁ……」
もう少しであの妖怪の子供を殺せたのに……
まさかいきなり気を失うなんて……
「休み無しで殺ってたらそうなるか……」
反省しないと……
次は気を付けないと……
『魔理沙ちゃん』
突然、その言葉が頭に浮かんだ。
「……?魔理……沙……?」
何故かぼんやりとする記憶を辿って、その名前の人物を思い出す。
そういえば、魔理沙ちゃんって……
いや、今はいいか……
とりあえず魔理沙ちゃんのことは後回しにしよう。
まずは……
ここらの妖怪どもを掃除しないと……
陽?は少し久しぶりな感じがしますね……
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