私が光となれたなら   作:メイア・カルテシア

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いつの日かの記憶

(縄が……)

紫はやはり、何かしらの隠し球があったということを確信する。

 

(……焼き切れた(・・・・・)?)

魔理沙はその光景を見て、陽に何かしらの力があることを確信する。

 

魔理沙と紫、二人は縄がほどけるその瞬間を見て、陽に何か力があると判断した。

 

 

縄がほどけ、自由の身となった陽はすぐに立ち上がり、神社の外へと向かって走り出す。

 

 

早く……

 

 

少しふらついても、すぐにバランスをとって駆ける。

 

 

帰らないと……

 

 

 

それは、陽が鳥居を潜り抜けようとした瞬間のことだった。

 

「──うっ⁉」

何かが陽の動きを止めた。

 

 

「御札……?」

陽は自分の手足を縛るようにして動きを止めているそれを見た。

絡み付くように、その場に固定するように、御札は陽の体を縛っている。

 

 

「縺ゅi……」

思わず、顔を隠した彼女も声を漏らした。

 

「ま、念のためだったが……やっておいて正解だったな」

 

この御札を仕掛けた犯人──魔理沙はそう言った。

 

 

陽は御札を引き剥がそうとするが、上手くはいかない。

思いきり引っ張っても、それが引きちぎれる気配はない。

 

「うぅ……」

やがて陽は諦めるしかないことを悟った。

 

 

ごめん……みんな……私……

 

 

もうここまでなのだろう。

一度逃げ出したのだ。次はきっとそんなことはさせてくれない。

最悪、ここで殺される……

 

巫女の方だろうか、こちらに歩いて近づいてくる音が聞こえる。

きっと私はここまでなのだろう……

 

心残りはある。やり残したこともある。

別れも言えてない……

 

ごめんなさい……

 

今言えるのはそれだけ。

 

村の人に災いなきことを……

 

今願えるのはそれだけ。

 

 

音が近づく、すぐ後ろにいる。

私は目を瞑った。

 

痛くないといいな……

 

ただ、そんなことを思った。

 

 

しかし、暗闇の中いくら待っても痛みがくることはなかった。

その事を不思議に思い、恐る恐る目を開け、後ろを見る。

 

そこにいるのは腕を組んで私のことを見ている巫女の魔理沙ちゃん。

その目は相手を見定めているような、観察しているような……もはや罠にかかった獲物を見ているように感じる。

 

 

どういう感情で私のことを見ているのだろう?

そんなに私のことが気になるのだろうか?

やっぱり私、怪しいのかな?

 

それとも、そんなに面白いことになってるの?

そんなに見るほど滑稽な姿なの?

 

 

陽の姿はまさに罠にかかった狐そのもののようだった。

頭から生えている狐耳、髪は肩につくかどうかぐらい、服装は一般的な(ただし肩の辺りが出ていることを除いて)白と赤の巫女服、そしてモフモフしてそうな狐の尻尾。

薄い黄色の毛並みは彼女をより狐のように見せている。

 

言うなれば巫女に化けた狐が、バレて逃げようとしたところ、捕まってしまったというような光景。

ある意味滑稽な光景ではあるだろう。

 

 

ただし魔理沙の考えている事は違った。

先程陽が使った妙な技──それを踏まえて今後の陽の処遇を考えていたのだった。

 

 

 

「お前、帰るとこがあるのか?」

魔理沙は陽にそう聞いた。

「ある……と思う……」

しかし、返ってきたのはあやふやな答え。

 

「自分でわかってないのか?」

「うん……寝起きのせいか、あまり記憶が思い出せなくて……」

「で、でも…少しずつだけど思い出している……と思う」

何故だろう?どうして思い出せないのだろう?

陽自身、そのことが謎であった。

 

 

 

『ねえ魔理沙』

「ん?」

 

 

◆◇◆◇

 

 

『恐らく、この子が思い出せるのは自身に関する必要最低限の情報ね』

「必要最低限?」

 

あの後、顔を隠した女性──紫さんの提案で神社の中にある魔理沙ちゃんの家の縁側で話をすることになった。

 

『陽』

「ん?」

紫さんが呼ぶ。

 

『自分のことはわかるのよね?』

「うん」

 

『なら、どういう生活をしていたかは?』

「守り神として人助けをしていたことなら……」

『そう、ありがとう』

いくつか質問をされたので、それに答えたら紫さんはそう言った(書いた)。

 

「……それで、必要最低限ってなんだ?」

魔理沙は紫に説明を求めた。

『自分が何なのかや生きるために必要な知識といった、生きていくために困らない程度の記憶しかないのでしょう』

 

「あの、紫さん。私の記憶って戻るんですか?」

心配になった陽はそう聞いた。

「……」

『わからない。なぜ記憶がなくなっているのかもね』

「そう……ですか……」

その言葉に、陽は落胆した。

 

 

『でも、戻らないとは限らないわ』

「……えっ?」

『原因も不明なのよ、それがトラウマ由来か、頭に衝撃が加えられたせいか、それとも他の要因なのかもわからない』

 

『何かしらのきっかけが必要か、次第に思い出せるのかはわからないけど、思い出せないとは限らない』

『だから、そう悲観する必要はないわ』

「そう…ですか……」

落ち込む陽に紫は励ますようにそう伝えた。

 

その言葉に、少しだけ元気付けられたような気がした。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「紫」

魔理沙は真剣な声色でそう呼ぶ。

「お前、原因も大体わかってるだろ」

『なんの事かしら?』

陽には大事な話があるからと、席を外してもらっている。

 

「しらばっくれるなよ」

魔理沙は紫を睨む。

「……諤悶>繧上?縺」

 

『確実なことではないわよ』

「だったらお前の予想を聞かせろよ」

 

 

『私が思うに、記憶の欠如の原因はこの世界に来た影響』

「……つまりは、幻想入りの影響ってことか?」

『ええ』

 

『この世界に来るなんて、私か、他の力を持った存在が関与しているのが主』

『だけど、それによってここに来たのなら記憶障害の原因は能力か何かによる干渉だと思うけど』

「……だけど、それにしては思い出せる範囲が謎だな」

紫の予想を聞く魔理沙はそう言った。

 

『ええ、何か思い出されては不都合なことがあるのなら、その部分だけを消せばいい』

 

「記憶があること自体に問題があるのなら、いっそのこと全て消すはず……」

『だけど、あの子には自分というものが何かわかる程度の知識はある』

 

「……誰かの干渉によるものにしては、目的がわからない、か……」

『ええ、だから私としてはその可能性は低いと思うわ』

 

『なら、残るのはそれ以外の要因』

「なるほどな……なら、何で幻想入りで記憶を失うんだ?」

 

『そもそもとして、幻想入りの前例が多くないということは置いておくとして』

 

『恐らく、記憶が分散してしまっているというのが私の考えている説ね』

「記憶の分散?」

 

『ええ、幻想入りをする際に記憶をいくつかに分けられたのでしょう』

「……何で、そんなことを?」

『さあ?余程情報量が多かったとかじゃないかしら?』

「情報量……?あいつがそこまで長生きしてるような奴には思えんが……」

『あの子は精霊よ。見かけによらず意外と長生きかもよ?』

 

「……だとしても、何であいつは分かれた記憶を思い出せないんだ?」

『記憶の復元が上手くいっていないのだと思うわ』

 

『本当なら目覚めた時に記憶の解凍が終わっているところ、終わるより早く目覚めてしまったか、その処理が上手くいっていない可能性もあるわ』

 

「……そうだとして、あいつは記憶を取り戻せるのか?」

『恐らく可能。時間はかかるかもしれないけどね』

 

「……どれくらいかかるんだ?」

 

 

『その記憶次第だろうけど、自然に思い出すにはあの調子じゃあ数ヵ月は越えるでしょうね』

 

「す、数ヵ月……」

魔理沙は唖然とした。

「……何とか早める方法はないのか?」

──何故なら記憶がなく、一応不審者である陽を監視するのは自分の役目であろうことはわかっているからだ。

 

「……」

紫は回答を考える。

紫にとってもそれは難しい質問なのだろう。

『あの子にとって印象深い物や事があれば、もしかしたら早まるかもしれないわね』

 

 

『あの子が守り神をしていたというのなら、それに準ずる事をさせるとかね』

 

「例えば……?」

 

 

『それは、あの子に聞いてちょうだい』

「お前、そういうところは丸投げするよな」

魔理沙は紫に嫌味のように言った。

 

 

 

「…陽に聞け、ねぇ……」

外でボーッと空を見上げている陽の姿を見て、

「はぁ、長くなりそうだな……」

ただ、そんなことを呟いていた。




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