私が光となれたなら   作:メイア・カルテシア

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最近の外はセミがうるさいねぇ……


夜蟲

擬態──

それは一部の生物が持つ特徴の一つでもある。

外敵から身を守る

狩りのために有利な状況を作る

それはこれらの目的で行われることが多い。

 

落ち葉や花弁、地面等々……

それらは元からある自然環境の中に紛れたりするなど、擬態の仕方は様々。

それは一部の生物が進化の過程で手に入れた特性である。

 

 

 

 

ここで一つ、仮の話をしよう。

 

もし人間を狩るとなった時──

その時、一体何に擬態すればいいのだろうか?

 

 

 

周りにある風景だろうか?

まあ、それも一つの答えだろう。

 

 

 

しかし、もう一つ答えを挙げるとすれば──

 

 

『人間』だろうか?

 

 

 

────────

 

 

「はぁ……はぁ……」

危なかった……

あと少し遅かったら間に合わなかった……

 

 

陽は少女を抱き抱えて、少女を襲おうとしたそれ(・・)と距離をとっている。

 

 

 

「大丈夫、大丈夫。こっちにおいで」

そう言って、それはこちらを向く。

 

 

陽は咄嗟に火の球を作り、それに向かって放った。

「ぐっ……うぅ……」

火の球は直撃し、その体を燃やし始めた。

 

 

「隠れていて」

「お、お姉さんは……?」

「大丈夫、あれを何とかしたらすぐに迎えに行くから…」

 

 

「……うん、絶対……戻ってきてね……」

「分かった。必ず戻るからね……」

少女にそう告げ、隙ができている今の内にこの場から離れさせる。

 

 

それは燃える体に悶え苦しむような素振りをしている。体を大きく動かして火を振り払おうとするが、火はその体を燃やすのを止めない。

 

 

 

 

「──っ⁉」

やがて動きが落ち着いていき、とうとう動きがなくなった時のことだった。

 

 

──それの体が裂けた。

いや、正確に言うならそれの持つ人の皮が、まるでミカンの皮を剥く時のように剥がれていく。

文字通りの化けの皮が剥がれていく光景──

 

ある程度剥けたところで、それは焼かれている人の皮を破って抜け出す。

その光景はまさに脱皮そのものだった。

 

 

人の皮を突き破り、中から飛び出したそれは、焼かれている中身の無い人の皮から少し離れた場所に着地した。

 

 

「……」

陽はそれの姿を確認する。

それは先程の子供の姿でなければ、もはや人間の姿ですらなかった。

 

 

 

 

それを一言で表すとするならば──『蟲』

 

だがそれは一般的な虫らしく、地を這ってはいない。

それは人間のように、二足で立っている。

 

 

これほどまでに気持ちの悪い光景もそう無いだろう。

黒光りする外殻に、虫らしい多椀と鋭い爪、頭部も体も、虫としか言えないのに二本足で立っている。

 

 

それは耳障りな鳴き声を発して、こちらを威嚇している。

しかし、五月蝿いとは思えどもその威嚇が陽にちゃんと伝わることはなかった。

 

 

陽がその蟲に向き直った時だった。

蟲は背中の羽を広げ、こちらへと接近してきた。

 

 

耳障りな羽音と共に近づくそれを陽はかわし、再び火球を放つ。

 

「──⁉」

しかし、先程とは違い蟲はそれを腕で払い除けた。

 

 

蟲はすぐに陽との距離を詰め、その体に複数の腕で同時に殴る。

 

「──うっ!!」

胸部と鳩尾、その2ヶ所に同時に衝撃が走る。

しかし、陽は負けじと殴られながらも相手の頭目掛けて火を放つ。

 

陽は腹を押さえながら蟲から離れ、蟲は火を払いながら陽と距離を取る。

 

 

 

「うっ……」

(火が……効かない……?)

先程喰らった打撃──それは陽にとって接近戦は避けるべきだと判断できるものであったが、そういう訳にはいかない。

 

 

再び火球を放つも、蟲は容易く腕で払い除ける。

 

 

先程から続けている攻撃では決定打にはなり得ない。

あれを倒すためにはもっと火力が必要なのだが、即座に放てる技では火力不足であった。

今の己の力量を考えれば、あれを倒せるだけの火力を出すためには溜める時間が必要になる。

だが、あれがそんな時間を与えるとは思えない。

 

それに例え溜めれたとしてもあれに攻撃を当てるならば近づく必要がある。

あのスピードでは遠距離からの攻撃は避けられてしまう。

 

しかし、先程までのことを考えると近づいて高火力の技を当てることは難しい……

 

 

 

だけど、それは今の状態ならばの話……

私にはあれを倒せる可能性のあるものがある。

 

 

──記憶だ。

 

 

私の取り戻していない記憶──

それがあれば、もしかしたら……

 

 

まだ思い出せていない記憶を取り戻すことができれば、まだ、きっと勝機はあるはず……

 

 

 

そうこうしていると、蟲はまた陽に急接近し、打撃を繰り返す。

陽はそれをかわしながら合間に火球を挟んで気をそらそうとするが、蟲は意にも介さずに攻撃を続ける。

 

 

(止まらなっ……)

「──っ⁉」

そして遂に、陽はかわし切れずに攻撃に当たった。

蟲の振るった腕の先の鋭い爪が陽の腹を切り裂いたのだった。

 

 

幸い、傷は浅く致命傷にはならなさそうだが、それでも痛みが広がっていく。

「………」

陽は歯を食いしばって、痛みに耐える。

 

 

 

恐らく、普通ならここで逃亡の選択肢も考えただろう。

だが、陽は逃げるつもりなどなかった。

 

 

あの子を連れて逃げても、あのスピードでは追い付かれてしまう……かと言ってあの子を置いて逃げる訳にはいかない。

それに、この近くには人里がある。

放って置いたら、いつか人里を襲うかもしれない。

つまり、あれを野放しにしておく訳にはいかない。

 

新たな犠牲を出さない。

そのためにも、あれを倒す手立てを見つけなければ……

 

 

 

すると、蟲はこちらへ腕を伸ばす。

それと同時に黒い大群が蟲の周りに集まり、すぐに陽へと向かって飛んでいく。

陽へと向かい、飛んでいくもの──それは()だった。

そこら辺の羽虫から、蜂といった昆虫まで、その種類は様々。

それらを操るその姿はまさに虫の王のようでもあった。

 

 

陽は虫の大群へと火球を放ち、焼き払おうとする。

しかし、撃ち漏らした虫がこちらへ飛んでくる。

 

 

「くっ……」

陽は火を壁のようにして、それを防ぐ。

しかし、息をつく間もなく蟲が陽へと突っ込んで来た。

「……っ」

陽は間一髪でそれを避け、蟲の姿を捉えると、そこには丈夫そうな木の幹を噛みちぎっている蟲の姿があった。

その姿からは、あの顎で噛みつかれたら一溜りもないだろうということは目に見えてわかった。

 

陽は火球で蟲を攻撃するが、やはり効果は見られない。

 

 

 

陽は蟲と距離を取り、思考を巡らせる。

主に自身の記憶を辿って、倒す手立てを探す。

 

(何か、何か……)

しかし、いくら記憶を辿ってもその手立ては見つからない。

 

 

「……っ!!」

それどころか、思い出すことに集中していたせいで蟲に十分に意識を割けず、攻撃を喰らってしまう。

陽の体はそのまま木の下へ飛んでいき、叩き付けられた。

 

 

 

 

(ま……だ……)

 

「あっ……」

陽は立ち上がろうとしたが、次の瞬間には膝をついていた。

先程木にぶつかったせいか、疲労のせいか……それとも足にダメージが貯まっていたのか……

 

だがそれは──

 

それはまるで、己の非力さを表しているかのようだった。

 

記憶がなければあれに勝つこともできない己の弱さ、結局過去の記憶に頼ることしかできない自分。

 

 

(……何で……何でこんな時に思い出せないの……?)

陽は自分自身を恨んだ。

 

 

必要な時に戻ってこない記憶を

大事な時に思い出せない自分を

いくら恨もうと、怒ろうとも、記憶は戻ってはこない。

 

 

蟲はそんなことはお構い無しに攻撃を続ける。

咄嗟に足に力を入れて、突撃してくる蟲を避け、飛来する虫を焼き払い、蟲との距離を保つ。

こんなことがいつまで持つかはわからない。

きっとすぐに攻撃に当たる。

そして……

 

 

話のできる者が相手ならばどれ程よかっただろうか?

あれに何を言おうとも、攻撃を止めることも、ましてや人間を襲うのを止めるとは思えない。

 

逃げることはあの子を見捨てるということ。

陽にあるのは戦うという選択肢のみ。

 

蟲はこちらの戦うという意思にだけ呼応する。

敵意を向ければそれ相応の敵意を──

殺意ならば殺意を──

蟲はこちらへと返してくる。

しかし、こちらがそれらを向けなければいいという話ではない。

例え向けなくとも、あれはこちらを殺す気だ。

どう転んでも、戦う以外に道はない。

 

 

 

だから、どうか……

 

 

 

記憶を……

 

 

 

せめて、あの子を守ることのできる力だけでも貸して……

 

 

 

 

 

しかし、いくら願おうとも記憶は思うように戻ってはこない。

 

 

何で……?どうして?

何がダメだって言うの?

 

あの子を助けるためにも……ここであいつを倒さないといけないんだよ?

だから、力を貸してよ……

 

 

 

思い出させてよ……

 

 

 

 

それでも、記憶は戻ってこない。

もう無理なのだと思った。

きっとこのまま、何も思い出せずに死ぬのではないかと思った。

 

だったら……

どうせ殺られるなら……

 

 

 

ならばせめて……あの子が逃げられる時間だけでも……

きっとそれくらいなら、今の私でもできるはず……

 

 

時間稼ぎ、それならば今の陽でもできるだろう。

ならばと、陽はその身を挺して時間稼ぎを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う……

だけど、それを否定する自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

違う……

それを認めない自分がいた。

 

 

 

 

 

 

ダメ……

それを拒絶する自分がいた。

 

 

 

 

 

 

本当に諦めるの……?

ここで死んで……本当にいいの?

そう問いかけられた。

 

 

 

 

 

 

本当に、ここで死ぬの……?

 

 

 

 

 

 

その時だった。

『──生きろ』

頭の中に、そんな言葉が浮かんできた。

 

しかし、それが何の、誰の言葉なのかは分からない。

だけど……その言葉は、私にとって大切で……忘れてはいけないもののように感じた。

 

 

 

そうだ……

 

 

 

こんなところで死ぬ訳にはいかない……

 

 

 

 

 

あの子を家族の下に帰すって約束した……

 

 

 

 

 

あの子のところへ戻るって約束した。

 

 

 

 

必ず戻るって約束した!!

 

 

 

 

そのためにも、私は生きていなくちゃいけない……

こんなところで死んじゃいけない……

生きて……あの子を家族のところに送り届ける……

 

 

 

 

 

 

陽はまだ完全な記憶を取り戻していない。

そのため、今使っているのも護身用程度で残っていたであろう簡易的な技の記憶から引っ張り出してきたものばかり。

しかし、今必要なのは技の応用や、戦闘特化の技の記憶。

 

 

こうして戦闘をする中で、戦いに関する記憶が刺激されて、本当に少しずつではあるが思い出してきてはいる。

だが、このスピードでは自身がバテるのが先だろう。

 

 

 

記憶に頼ってばかりではいられない……やらなくてはいけないのは過去を思い出すことではなくて、今……私が考えること……

 

 

今ある記憶だけで、(あれ)を倒す……

 

 

力の抜けた足に再び力を入れ直す。

 

 

人の子を守るため、犠牲になってしまった者のため、この世界に居る人間たちのためにも、自分がここでやらなければならない。

だから、何としてでもあいつを倒す!!

 

 

 

飛んでくる虫に火球を放つ。

 

接近してきた蟲を避け、それにも火を放ち、蹴りを入れる。

しかし、その蹴りも外殻で防がれる。

 

やっぱり……固い……

 

やはりこんな攻撃では意味がない。

それに、あれが操ってる虫も厄介……

 

虫一匹一匹は大したことはないが、数が集まればそうはいかない。

 

 

だけど、私だけを狙っているなら……

 

 

陽は体の周りに火を出す。

陽がその火を強めていくと、それは次第に大きくなっていき、やがて陽の体を完全に包んだ。

 

 

虫はそんなことは気にせずに陽へと突っ込んで行く。

しかし、虫は陽の体に触れる前に火で焼き尽くされた。

 

(これなら……)

 

 

蟲はさらに密度を上げ、陽へ放つ。

「──⁉」

だが、虫は先程のように焼かれ──いや、先程よりも早くに焼かれた。

 

 

陽の火力はまだ上昇を続けていた。

それはまるで、このまま蟲をも飲み込もうとするほどに大きくなっていく。

 

 

蟲は警戒する。

新たに虫を飛ばすも、その全ては陽にたどり着く前に焼かれる。

 

このままでは己もこの火に飲み込まれる。

そう察してなのか、自身に火が到達する前に蟲はその火へと突っ込んだ(・・・・・)

 

 

 

一見自殺行為としか見えない行動──

しかし、蟲は分かっていた。

確かに火力は上がっていくものの、この火が己を焼き尽くすまでにはまだ火力が足りていないと──

 

これくらいの火力であれば、中に入ったとしてもしばらくは耐えれる。

ならばその間に火の中心へ向かい、発生源()を直に叩く。

 

 

蟲が火の中心へたどり着くのに、然程時間はかからなかった。

蟲はすぐに腕を振り上げ、力の限り殴った。

 

地鳴りが響き、次第に炎が避けていく。

そうして、陽の死体がよく見えるようになって──

 

 

 

 

 

 

「──⁉」

だが、そこに陽は居なかった。

 

 

 

 

 

 

「──飛んで火に入る夏の虫……だね」

その声と共に、陽は蟲の背後から現れた。

 

 

陽の手に、周りで燃えている炎が一瞬にして収束していき、収束を終えると、陽はそれを蟲へ放った。

 

蟲は背後に回り込まれたことを理解するのが遅れ、その攻撃を避けきることができなかった。

 

炎は一瞬にして蟲を包み込み、その体を焼き尽くさんとする。

 

 

 

蟲が言葉にできない叫び声を上げる中、火は容赦なくその体を焦がしていく。

 

 

 

 

 

 

必死に踠いていた蟲も、時間が経つにつれて動きが小さくなっていく。

 

 

やがて蟲の腕は力なく垂れ下がり、その体も地へと倒れた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

終わっ……た……?

 

 

 

蟲へ近づき、息をしているか確かめる。

「………」

恐る恐る蟲を覗き込む。

 

 

死んでる……よね……?

 

どれだけ見つめても蟲はピクリとも動かない。

 

 

 

うん、死んでる……

「はぁ……よかった……」

戦いが終わり、陽はホッと息をつく。

 

 

 

 

それにしても、かなり無茶をしたかもしれない。

 

 

あの炎を囮として、蟲の背後に回り込み全力で攻撃する。

成功こそしたが、どうしてもこれで仕留めきれるか心配になって、残っていた霊力を全てつぎ込んでしまった。

 

 

お陰で霊力はすっからかん、言うならガス欠状態だ。

 

 

人里に着くまでに何もなければいいのだが……

とにかく、今はあの子を探そう。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「あ……!」

森を歩いてあの子を探していると、そんな声が聞こえてきた。

私は声の聞こえた方を見る。

すると、木の影からあの子が顔を出しているのが見えた。

 

「だ、大丈夫……?」

少女は震える声でそう聞いた。

 

 

「うん、もう大丈夫だよ」

陽は優しく微笑んで、そう返した。

 

 

それを聞いた少女は木の影から出てきて、陽のところへ小走りで近寄って行った。

 

 

陽の姿を見た少女は心配そうな顔をした。

「ひどい怪我……お姉さん……大丈夫なの……?」

そう言われ、陽は自分のお腹を見た。

 

そこには、爪で引き裂かれた痕が生々しく残っており、服も傷の周りが赤く滲んでいる。

 

そういえばそうだった……

すっかり忘れてた。

 

「あ、うん。大丈夫だよ」

「本当……?」

少女は心配そうに聞き返す。

「うん、本当に大丈夫だからね」

 

いや、痛い。

思い出してからずっと痛い。

ズキズキするしジンジンするし、ヒリヒリもする。

うぅ……痛い……

でも、声に出したらダメだ……

心配させたらダメだ……

 

ぎこちなくも、陽は少女に笑顔を向けた。

 

 

「さ、お家に帰ろっか」

陽が手を差し出すと、少女はその手をとった。

「うん」

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「おーい、どこだー⁉」

少女とちょっとした談笑をしながら、人里へ通じる道を通って人里へ戻っていると、そんな声が聞こえてきた。

 

「?」

陽が誰だろう?と思っていると、少女が声を上げた。

「お爺ちゃん!!」

そう言った後、少女は声の聞こえた方へと駆けて行った。

 

「あっ……」

陽も少女の後を追うように、小走りでついていった。

 

 

「お爺ちゃん!!お爺ちゃん!!」

少女はそう叫んで、道の先に居た老人の下へと駆け寄って行った。

 

 

「……!妖夢……妖夢か⁉」

老人もそう言って、少女の方へ近づいていった。

 

 

「お爺ちゃん……」

少女は涙を流しながら老人の足に抱きついた。

「妖夢……よかった……無事で……」

老人も少女を抱き寄せ、少女の無事を安堵する。

 

 

「……」

陽は少し離れたところから、二人の姿を見ている。

 

よかった……見つかって……

 

陽も少女が家族に出会えたことを安堵していた。

 

「あの……」

すると、老人は離れたところに居る陽に話しかけた。

「ありがとうございます」

老人はそう言いながら頭を下げた。

 

「い、いや……別に、頭を下げなくても……」

「いえ、この子とこうしてまた出会えたのはあなたのお陰です。本当にありがとうございます」

老人は再び頭を下げるが、陽はそれに対して何か言うことはできなかった。

 

 

 

「この子は生まれつき体の弱い子でして……」

「ですが、今日は珍しく体調が良くて……普段外に出られない分、思いきり外を楽しんでほしくて外に連れ出したのですが……」

「目を離してしまった時にはぐれてしまって……私のせいで、大変ご迷惑をお掛けしました」

 

 

「お爺ちゃん……ごめんなさい…私が勝手に離れたから…」

「いや、妖夢を外で満足に遊ばしてやることもできん儂の責任じゃ……妖夢は悪くない」

老人は少女に優しくそう言った。

 

 

「ほら、助けてくれたお礼を言いなさい」

「……あ、ありがとう……ございます……」

老人に促され、少女は陽にそう伝える。

「私からも、改めてありがとうございます」

 

「いえ──」

陽はその一言を言った後、しゃがんで少女と目線を会わせる。

「もう一人で勝手にどっか行っちゃダメだよ」

そう伝え、陽はその場を後にしようとする。

 

 

「あ、あの……」

「?」

背を向け歩き出そうとした時、少女が呼び止めた。

「ありがとう……助けてくれて……」

 

 

 

 

「……私も、お姉さんみたいに……なれるかな?」

 

 

 

「……えっ?」

陽は突然のことに目を丸くして、少し照れた。

「……うん、なれる。妖夢ちゃんは優しいから、きっとなれるよ」

気持ちを抑え、冷静を装ってそう言う。

 

「……うん……私、お姉さんみたいになりたい。誰かを助けられるようになりたい」

「フフッ、それは楽しみだなぁ」

 

 

 

「じゃあね、妖夢ちゃん。元気でねー」

陽はそう言って、手を振りながらその場から去っていく。

それに対し、老人は頭を下げ、少女は手を振って、陽の姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

「あっ、魔理沙ちゃん……」

森の方へ戻ると、その入り口の辺りに魔理沙が立っていた。

 

「……」

魔理沙は少しの間陽を見つめた後、陽の横を通り過ぎて行った。

 

「?」

不思議そうな顔で陽が魔理沙のことを見ていると──

 

 

「お疲れ」

 

 

魔理沙は振り返って一言、そう言った。




迷子には気をつけましょう。
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