童磨を心から泣かせたいから頑張る   作:ルヴレ

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目的のためなら手段を選ばない


どんなに手を汚そうとも

 

 

「あれ……? 私、何してたんだっけ」

 

 見たことのない天井。夕凪は、モゾモゾと布団から起き上がる。すると、腕に鈍い痛みを感じて、顔を顰めた。

 そこで、夕凪は思い出す。そうだ、手がたくさん生えた鬼を、夕凪は天元と共に倒して、それから痛みと出血のせいで気絶したのだ。

 

「ぎゃあああ!! お、起きたぁぁ!!」

「ん? 誰?」

「て、天元さまぁぁ! 空賀さん、起きましたよ!」

 

 耳がキンキンする声だ。声の元を辿れば、可愛らしい女性が、ドタバタ走りながら部屋を出て行った。

 夕凪は、それを寝ぼけながら見守る。

 

 ……見たところ、天元は夕凪を助けてくれたのだろう。それなら、狙いはなんだろうか。基本的に、人間は欲深い生き物だ。夕凪と共闘してくれたのも、助けてくれたのも、恐らく何かしらの理由がある。そうでなければ、助けることにメリットはない。

 夕凪は、思考に耽った。

 

 それから少しすれば、天元と三人の女性が、夕凪が寝ていた部屋に入って来た。

 

「…………てんてん。ここどこ?」

「此処は、俺の家だ。お前、何があったのか覚えてるか? 天元様に、ここまで運ばせたんだぞ?」

「あ、そうなの? ごめんごめん、大変申し訳ない、助かったよ。あのままじゃ、死んでた。

 …………で、私は何をすればいい?」

「あ? 何言ってんだ。じゃあ、寝とけよ、地味にな」

「…………え? 本気で言ってる? 何か対価を求めたりしないの?」

 

 夕凪は、ぽかんと間抜けな表情を浮かべた。助けた対価が、寝ておく? 完全に釣り合っていない。

 夕凪は、限界まで、フツウの人間を観察したつもりだ。だが、こんなことを言う人間など、見たことがなかった。

 

 基本的に、フツウの人間は醜い面と夕凪が驚くほど優しく柔い面を合わせ持っている。そして、見知らぬ人の命を助けてくれる者は大抵、金銭を要求するか、またはそれ以外の対価を要求するか、はたまた罪悪感か業務であるか、そんなものばかりだ。

 夕凪は、かつて鬼になることで、鬼舞辻に命を助けられた。それは、ただの気まぐれや優しさではなく、夕凪の頭の良さを見抜いての行動であった。自分の利益を見据えて、助けただけなのだ。天元もその類だろう、と夕凪は考える。

 

「私、自分で言うのもあれだけど、そこそこ強いし、顔も良い方だと思ってたんだけど。そうなれば、大体、体が目て──」

「それ以上言うな、派手に苛つく。………………お前、なんか俺の弟に似てんだよ」

「え? オトウト? なんで?」

 

 急に弟の話をされて、夕凪は首を傾げた。今の文脈にオトウトに関連しそうなものはなかった。

 

「天元様、これ以上はやめましょう。空賀さんも病み上がりですし」

「ああ……そうだな」

「なんのこと? ま、なんでもいいけど。

 つまり、てんてんは善意で私を助けてくれたって認識でいい?」

「ええ、天元様は認めたがらないでしょうけど」

 

 天元の後ろにいた女性に相槌を打たれ、夕凪は興味無さそうに「ふーん」と頷いた。

 

「そういや、君たちって、てんてんのお嫁さん? 三人もいるなんて、てんてんも色男だねぇ」

「ああ……私たちは確かに天元様の妻ですが、三人居るのはただの地域の風習で……」

「いいよ、説明は結構結構。深くは聞かないでおく」

 

 面倒くさそうなので、夕凪は話をまともに聞くのを早々に諦めて、大袈裟に手を振った。完全に、失礼である。

 

 ──夕凪は知らないが、この時、天元たちは家から抜け出した、すぐ後だった。話をしっかり聞いていたら、巻き込まれていた可能性も無くはなかったのだが、そこで無駄に勘が働くのが夕凪の長所とも言える。

 

「ああ、もうこんな時間。須磨、空賀さんに夕食をお出しして」

「分かりました!」

「あー、奥さん方、空賀さんなんて、呼ばなくてもいいよ。私の方が歳は下でしょ? 夕凪でいいって」

「いいんですか? じゃあ、夕凪ちゃんって呼びます!」

「ちょっと、須磨!」

 

 しっかり者そうな金が混ざった髪の女性に、須磨が咎められる。しかし、夕凪は「大丈夫だってば」と布団に座りながら、ケラケラと楽しげに笑った。

 別に楽しいわけではないのだが、それとなく明るくしていた方が、フツウの人間らしいことは、とうの昔に学んでいる。

 

 だから、須磨が夕食を取りに戻ってくるまで、夕凪は大怪我をしているにも関わらず、ペラペラと話し続けた。それを、すっかりげんなりした表情の天元が聞く。

 ……天元は一刻も早く、弟に似た雰囲気の夕凪から逃げたかった。しかし、同時に弟に似ているせいで、逃げられないのだ。

 

「…………で、その時私が夜に飛び起きてみれば、横の部屋に、私の友達が居たの。で、安心したのも束の間──。よーく見たら、真っ赤な血が地面いっぱいに広がってた。友人は私に気づいて、私の目を見てこう言ったの……」

 

 散々関係ないことを話した末、夕方にいきなり怪談を始めた夕凪は、脅かすような声で自分の目を指差す。

 そして、ちょうど良いことにそのタイミングで、須磨が夕食を持って来て、部屋に入って来た。

 

 普通は、そこで話を中断するだろう。しかし、敢えて怖がらせるために話し続けるのが、夕凪であった。

 

「やっぱり、綺麗な目ね。私に、その綺麗な目を頂戴?」

「ぎゃぁぁあああ!!! な、な、なんですかぁぁ!?」

 

 一番怖いことを言ったタイミングで、運悪く入って来てしまった須磨は、夕食の入ったお盆をひっくり返した。

 しかし、そうはさせない、と天元。ひっくり返ったお盆を空中で受け止め、なんとか大惨事を逃れた。

 が、もちろん汁物は無残に地面に飛び散り、ご飯粒は幾つか引っ付いてしまった。

 

 しん、と場が静まりかえる。

 

「………………おい、空賀ぁぁぁ!!!」

「落ち着いて。話せばわかるよ。うんうん、ほら、こんなところで冷静さを欠いたら、戦う時も冷静さを欠いちゃうでしょ? これは予行練習みたいなものだよ。だから、てんてん、一旦落ち着こう」

「それは正しいが、本人が言うのはおかしいだろ!! 須磨が怪我してたら、どうすんだよ! しかもお前、怖がるって分かって言っただろうが!!」

「あーっと、ご飯が冷めちゃうね、勿体無い勿体無い」

 

 夕凪は、地面に下ろされたお盆から、ぐちゃぐちゃに混ざったご飯を苦し紛れに手にする。

 ご飯の上に、味噌汁やらお茶やらがかかって、どう見ても不味そうだ。須磨は、慌てて夕凪の手からそれを取り上げようとする。

 しかし、判断の早い鱗滝の弟子、夕凪は止める間もなくご飯を口にした。

 

「あー!! 駄目です! 新しいの持ってきますから!」

「んー、ちょっと待って。これはこれは…………」

 

 夕凪は、茶碗から手を離さない。もぐもぐと、なぜか真剣な顔で咀嚼している。すると、どんどんと眉を寄せて、難しそうな表情へ変わっていった。どれだけ、不味かったのだろうか。

 ここまで真剣な顔の夕凪を初めて見た天元たちは、固唾を飲んで見守った。

 

「………………うまーい! めちゃくちゃ美味しい! 私好みな味だよ!」

 

 が、夕凪は、見たこともないくらいに頬を緩ませて、ご飯をものすごい勢いで食べ始めた。

 天元たちは、一斉にぽかんとして、それから顔を見合わせて笑った。 

 夕凪の能天気な様子を見た天元は、これ以上言っても無駄なことを察して、叱るのをやめてしまった。

 

 

 

 

 

 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

 次の日、夕凪は流石に長居するわけにはいかないと、早速天元の家を出ていくことにした。

 鱗滝に、連絡が出来ていない上に、そろそろ日輪刀が届く頃だろう。日輪刀が届くのに、受け取る本人が不在なのは、流石に良くない。

 

「用事があるし、もう行くね! じゃ、また会う日まで! あ、もしまた会った日にあの世行きしてたら、墓立てといてね」

「おい、不吉なこと言うなよ!」

「そうですよ! 夕凪ちゃんのこと、天元様が弟さんに重ねてらっしゃるんですから……いてっ」

「余計なこと、言うんじゃないよ!」

 

 余計なことを言った須磨を、まきをが叱咤する。

 夕凪は、面白い情報を知れた、とニコニコした。良いからかいの材料になるだろう。夕凪は、人の感情を揺さぶるのが大好きであった。

 

 夕凪は、荷物を纏めながら、結局嫁三人に止められ、派手にならなかったバンカラを羽織った。

 

「次はお土産でも持っていくから、期待しといてね」

「もう二度と来るな!」

 

 夕凪は、天元たちに背を向けながら、手を振った。

 

 ……さて、天元の家を出たのはいいが、ここから鱗滝の家までは、そこそこ距離がある。まだ腕は治っていないし、歩いて向かわなければならない。

 走れないくらいに骨を派手に折ったせいで、鬼に襲われると逃げることすら難しいだろう。

 強い鬼にでも襲われなければいいけど……。夕凪は、特大死亡フラグを建てながら、ため息をついたのだった。

 

 

 

「とか思ってたらこうだよ、宿もないとかどんな田舎なの?」

 

 それから半日経ち、辺りはすっかり真っ暗。鬼が出てくる時間帯だ。

 本来、夕凪は夜に宿に泊まろうと思っていた。しかし、宿どころか、食堂すらもない始末。あるのは幾つかの小さな家と、田んぼと、それから木々くらいなものだ。

 

 ただ、運がいいことに、今のところ一匹も鬼と鉢合わせていない。森の中など、明らかに鬼が出そうなのに。最初の数時間、夕凪はお気楽に、歩いていたが、ここまで鬼が出ないと流石に危機感を覚える。

 

(何もいないのに、鳥肌が立つ。……なんだ、おかしいな。しかもこの感じ、どこかで感じたことがある)

 

 夕凪は歩きながら、日輪刀を構えた。夕凪──いや、虹鳴は何度も強い鬼と出会って来た。

 虹鳴は、無惨、黒死牟、童磨、猗窩座……その他にも、上弦や下弦の鬼と全て会っている特殊な鬼だった。だからこそ、分かる。この感じ。この、肌がゾワゾワするような、何かに突き刺されるような、威圧感。

 

(これは上弦……それも黒死牟辺りか? この近くにいる。いや、違うな、この威圧感だ、無惨サマが近くにいるかも知れない。偶然ではなさそうだ。私の後をつけている。……何が、狙いだ。なぜ私の場所が分かった)

 

 夕凪は、なるべく無惨に関わらず生きていこうと思っていた。だって、夕凪の目標は、童磨を倒す。ただそれだけだから。

 他の鬼も、無惨も、心底どうでも良かった。無惨の首を取るつもりなんて、なかった。童磨を殺したら、鬼殺隊なんてすぐ抜けるつもりだった。

 

 なのに、関わってくるのか。夕凪は、強く手を握りしめる。

 

「虹鳴、気づいているのなら、止まれ。これ以上進むな」

 

 耳元に、微かに吐息がかかる。

 

 途端に、体が震え上がった。人の身で、しかも十代にようやく差し掛かったこの体で、震えてしまうのは仕方がないものだった。恐怖を感じたわけではない。死は怖くない。だが、体が勝手に震えて、息が上がるのだ。

 

 鬼舞辻、無惨。彼は今、夕凪の背後にいる。

 

 夕凪は声が震えないように気をつけながら、振り向かずに笑った。

 

「あはは、無惨サマ。お久しぶりですね? 

 ………………なぜ、私の場所が分かったのです? 正直、無惨サマは私のような小娘のことなど、眼中にないと思ってましたよ」

「他の鬼と視界を共有した際、貴様の姿を見た。手がたくさん生えた、異形の鬼だ。貴様も覚えているだろう?」

「……」

 

 夕凪は、黙ってからニコニコと嘘笑いを貼り付けた。

 手鬼と戦ったのは、失敗かも知れない。あの時、見られていたのか。確かに、無惨ならそのくらい容易いことだろう。……だが、見つかるのはやはりおかしい。

 

 夕凪は、ある程度鬼の時と姿が変わっているはずだ。特徴的な低い声は、今や雀のような高い声だし、顔立ちだって前世とはまるで違うはず。髪の色だって、目の色だって、虹鳴とは違うはずだ。

 それなのに、なぜ分かったのか。

 

 思いつくのは、一つ。鬼舞辻はきっと、気配を感じ取ったのだ。虹鳴が発する、あの独特な、人間らしかぬ異常な雰囲気を。

 

(だとしても、なぜ私を殺さない。無惨サマの性格じゃ、殺してもおかしくないはず。機嫌を揺さぶってみたけど、なんも反応しない。…………私を、鬼にでもする気か?)

 

 夕凪は、てっきり鬼舞辻の情報を握っている虹鳴の生まれ変わりを殺そうとしたのだとばかり思っていた。

 しかし、蓋を開けてみればどうだ。鬼舞辻は、夕凪を殺すどころか、質問にまで答えてくれるときた。鬼舞辻にしては珍しく、友好的な態度だ。

 

「虹鳴、貴様なら分かっているだろう。

 

 貴様の研究を、続けろ。鬼になれ」

「……あはっ、貴方の性格上、そうしたいなら言葉にせずとも問答無用で鬼にするはずだ。しかし、貴方は私を鬼にしない。それは何故です?」

「…………私に楯突くつもりか? 死にたいようだな」

「まさかまさか。私は今世、キサツタイの人間を観察して遊ぶって決めてるんですよ。死にたくはないですって。

 

 だから同時に、鬼になりたくもないんですよ、無惨サマ。キサツタイに所属出来ませんからね? 

 しかし、私は貴方を裏切りたいわけでもない」

「何が言いたい」

 

 夕凪は言葉巧みに、無駄な時間を延長する。良い方法を考えるためだ。

 鬼になれば、童磨を殺して泣かせることなんて出来っこない。童磨は仮にも上弦だ。鬼になれば日輪刀は握れないし、もちろん童磨を殺す前に夕凪が殺されるだろう。

 

 だが、鬼にならなければ、そもそも夕凪は殺される。童磨を殺す前に、あの世行きだ。

 

 まるで、詰んだように感じるだろう。しかし、もう一つだけ、選択肢がある。

 

(あまりこんなことはやりたくない。さらに人道から外れる気もするし、なんたって面倒くさい。でも、やるしかないなぁ)

 

 夕凪は、意を決してニコニコしながら無惨に一つ提案をすることにした。

 ────それは、鬼殺隊を裏切り、鬼になることなんかよりもよほど、外道でクズの極みのような行動。だが、夕凪は、殆ど躊躇わなかった。

 

「無惨サマ。産屋敷の情報は、欲しくありませんか? それから、同時に優秀な研究者も」

「……ふん、貴様ならそう言うと思っていた」

 

 夕凪が取った選択肢。それは、鬼殺隊の情報を無惨に流しながら、研究も進める。そんな、異常な選択肢。

 無惨は昔から、鬼殺隊の情報を欲しがっていた。しかし、鬼では間者になれない。だから、大した情報を握れずにいた。

 

 そんな無惨を見ていたから、夕凪は無惨が自分に求めていたことが分かってしまったのだ。

 

 夕凪は無惨に嫌われていた。しかし、嫌われている、と信用されていない、はまた別。夕凪は信用されていた。

 その優秀な頭脳と、自分の興味がないことにはとことん興味のない性格を、無惨は認めていた。決して、自分を裏切ることはないと、夕凪に対して思っているのだろう。だって、夕凪は誰も愛せないし、愛着も抱けないから。裏切ることに、一切罪悪感なんて持てないから。

 

 実際、それは確かだと夕凪は思っている。しかし、だからこそ、鬼殺隊に入って自分を変えようとしているのだが、それを無惨は知らない。

 

「わぁ、さっすが無惨サマ。私が間者になっちゃうこと、予想してたんですか? 

 

 で、そんなことはさておき、この意見は採用ってことでよろしいです?」

「……「月彦」に研究の成果と情報を送れ。文字は暗号化しろ。貴様なら出来るな?」

「お手のものですよ。任せてくださいって。あ、私のこと、童磨くんには言わないで下さいね。あの人、口が軽いので」

「……ふん」

 

 夕凪が嫌いな無惨は、返事すら返さずに、夕凪に背を向ける。そして、琵琶の音と共に、姿を消した。

 

 

 夕凪は同時にヘナヘナと地面に座り込む。震えていた体は、いまだに微かに震えている。冷や汗が、ぽとぽとと地面に落ちていった。

 

「…………取り返しのつかないことを、してしまった。さいっあくだよほんと……」

 

 これから、夕凪は研究をしつつ、産屋敷の情報も握りつつ、鬼も斬らなければならない。ブラック企業も真っ青な重労働だ。しかも、研究なんて機材がまともにない今、殆ど出来ないに違いない。

 最初は、本から内容を引用しつつ考察するくらいしか、出来ない。しかし、もしそれが鬼舞辻にバレたら……どうなるのか。

 夕凪は折れていない左手だけで頭を抱えた。夕凪は基本的にデメリットしかないことはしたくない。だが、これは完全に夕凪に一切得がないやり取りだ。

 殺されるかもしれない。鬼殺隊にも、鬼舞辻にも。

 

 夕凪は大きなため息を吐くしかなかった。

 

 更に、童磨に言わないでくれ、と頼んだは良いものの、あの無惨サマだ。返事を返さなかったとなれば、余計に信用できない。いつか、ボロが出て鬼殺隊に処刑されるかもしれない。

 本当に、夕凪にとってメリットはなかった。

 

(一応、猗窩座くん辺りの単純な鬼が、ちまちま私の様子を見にきてくれれば、上手く操って逆に情報を盗めるんだけど……ま、そんな上手くはいかないか)

 

 もし、猗窩座が見張として何度か、夕凪を見にきてくれれば──上手いこと言いくるめて情報を吐かせるくらいは出来るだろうが、そんなに簡単にはいかないだろう。鬼舞辻が同じ鬼ばかりをよこすのは、ありえない。

 

 だが、もし情報を盗めれば、童磨の場所を把握したり、無駄な戦闘も避けられるだろう。メリットがないわけではない。デメリットの方が、明らかに大きいが。

 

 ……虹鳴の頃、何度か童磨の万世極楽教まで行っていたから、童磨が住んでいた場所は知っている。が、流石に童磨も場所を変えているだろう。頭の回る、童磨のことだ。鬼殺隊側に場所の情報を握られないよう、上手く操作しているに違いない。

 だから、鬼側の情報で童磨の場所が分かれば、かなりおいしい。そう、分かれば、の話であるが。

 

「最後までバレずに、柱になれるかな……。なれたら、上弦とか出たら積極的に派遣されるから、童磨くんを倒しやすいと思うんだけど」

 

 夕凪は、小さく呼吸をしてから、震えた手からいつのまにかこぼれ落ちていた日輪刀を拾い、森の中を歩き出した。

 その先の道は、見渡す限り真っ暗で暗くて、月の光さえも遮るほど、暗闇に満ちていた。

 だが夕凪はものともせずその道を歩き出す。──道は、まるで夕凪のこれからを表すかのように。先に進んだ夕凪は、ぐわんぐわんと夜闇に溶けて、溶けて、そして消えた。




スパイ系主人公。実質、ここからスタートみたいなものです。

こんな感じで、主人公がかなり外道な上に王道展開とはかなり逸れる予定です。
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