Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
―佐渡島・両津港、ある夏の終わり―
陽炎が揺らめく坂道を、三つの影が駆けていく。
「おっせーぞ兄貴ーッ!」
先頭を走るのは、赤い髪をツンツンに立てた少年、鍋島涼介。
日焼けした顔に満面の笑みを浮かべ、夕焼け空へ向かって駆けていた。
裸足で砂を蹴り、まるでこの世に怖いものなんか何もないという顔をして。
「ちょっとチビ兄、また靴脱いでる! 怒られるの紗栄なんだからねーっ!」
その後ろから、必死についていく少女――鍋島紗栄。
兄に似て赤毛の髪を風に揺らし、泥だらけのサンダルでつんのめりながら追いかけてくる。
歳の割におしゃまな口調だが、目元にはまだあどけない幼さが残っていた。
「まったく……はしゃぎすぎなんだよお前らは」
そのさらに後ろを、肩で息をしながら歩いてくる少年――保科隼人。
頭にタオルを巻いたその姿は、田舎の兄ちゃんそのものだが、目の奥に浮かぶ静かな光は、二人の兄妹とはどこか違っていた。
そう、三人はいつも一緒だった。
近所の悪ガキ兄妹と、それを見守る兄貴分。
この島で生まれ、この島で育ち、この島の空を毎日見上げていた。
「……うおっ! なあ兄貴! 見ろよ、あれ!」
涼介がいきなり立ち止まって空を指差した。
夕焼けに染まる空を、一羽の鳥が滑るように横切っていく。
白いはずの羽が、落ちる陽光を浴びて真紅に染まっていた。
「……白鳥?」
「……なんで赤いの?」
紗栄がぽかんと口を開け、隼人が細めた目で追いかける。
「すげえな、夕日で赤くなってんのか……まるで燃えてるみたいだ」
「うん、なんか……カッコいい」
涼介はじっと空を見つめ、ポツリと呟いた。
「……名前、つけようぜ。ああいうのには名前がいる」
「安直に“赤い白鳥”とか言うんでしょ、どーせ」
「じゃあ“レッドスワン”だ! 英語にしときゃ強そうだろ!」
涼介は両腕を広げて空に向かって叫ぶ。
「いいか!? 俺がデカくなったら、あんなふうに飛ぶんだ!
燃えて、焦げても、傷ついても、飛んでやる! 俺が最っ強の“レッドスワン”だ!!」
「……チビ兄、バカじゃないの……」
紗栄は呆れたように言ったが、少しうらやましそうでもあった。
まだ小さな体で、大きな夢を叫ぶ兄の背中は、子供ながらに眩しかった。
「……じゃあ、お前が“赤い白鳥”になるんだな」
隼人がぽつりとつぶやいた。
その言葉に涼介は満面の笑みを返した。
「なるぜ! どんだけぶっ壊れても、何度でも飛び上がってやるさ!
だって俺は、鍋島涼介様だぞ? 負けるもんか!」
風が吹いた。
海の匂いを運ぶ潮風が、三人の間を駆け抜けていった。
あの時、確かに見た。
真っ赤に燃える白い鳥――あれは、ただの幻想だったのかもしれない。
けれど、あれが確かに“始まり”だった。
いつかまた、あの鳥を見つける日が来る。
それが、どれほど血に塗れた空の下だったとしても――