Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第九十話 煙と夕焼け

夕暮れの長岡基地。日課の巡回が終わり、喫煙組がいつもの喫煙所に集まった。煙草の煙がゆっくりと漂う中、涼介は腕を組みながらぼんやりと空を眺めていた。

 

「ふぅ……今日の飯もやっぱり微妙だったっけね」

富田が愚痴を零す。

 

「富田中尉の舌がバカなだけですよ」と小川がすかさず突っ込む。

 

「小川さんバカヤベー、でも合成食とはいえ確かに味薄すぎるんだよ。栄養価だけ高くても食ってて楽しくねぇ」

雁部は笑いながらもなんだかんだ真面目に分析し始める。

 

「雁部、お前普通に美味そうに食ってたじゃねぇか」

涼介が笑いながら言うと、皆もクスクスと笑い声を上げる。

 

その横で、隼人は煙草の煙をゆっくり吐き出し、静かに微笑んでいた。涼介が「昨日は兄貴に付き合ったせいで、ヘトヘトで今日の飯は美味かったぜ」と愚痴を言うと、隼人は少し目を細め、

「お前もしっかり俺のメニューについてこれるようになったじゃないか、手加減してやる必要はもうないな」と返す。

 

「勘弁してくれ、結構きつかったんだぜ!」と涼介は不満げに眉をひそめる。

 

そんな日常の軽口の中、小林が突然喫煙所に訪れた。

「保科大尉、本日帝都で、“戦略研究会”なるもの発足されました」

 

「またお堅い話ですか?」と小川が目を丸くする。

「どうせ難しい理論を並べて、俺たちみたいな現場の感覚は無視するんだろ?バカヤベーよ」

雁部はそっぽを向きながら煙を吐く。

 

保科が淡々と頷く。

「まぁ悪い話じゃない。現状の指揮系統や戦術には穴が多い。改善の余地があるのは確かだ」

 

小林はすかさず身を乗り出し、熱のこもった声で言った。

「帝国軍人として、このままでは……この国の衛士は無駄死にばかりだ。組織が腐敗していては、我々の誇りも維持できない!」

 

その瞬間、喫煙所の空気が一瞬引き締まった。涼介も富田も、普段の笑い声を止めて小林を見つめる。

 

隼人は黙って煙を吐き出し、視線を遠くに向けた。目の奥にわずかに陰が差す。誰もその心情までは知らないが、兄としての思いを抱えていることだけはわかった。

 

「まぁ俺は飯さえマシになれば文句ないっけね!」と富田が空気を切り裂くように笑い、緊張を破った。

 

「戦略勉強会より、食堂改革会でも作ろうぜ!」と雁部が茶化す。

 

「いや、それは……重要な議題で……私は参加したいと思っているのですが」と小林が真面目に反論するのを、皆がまた笑いながら遮る。

 

その場にいる全員が、煙草の煙と笑い声に包まれたまま、夕陽を背にして肩を並べていた。

隼人も小さく微笑む。

 

涼介の心の中に、ふと違和感が混ざった。

「……あの兄貴の笑顔、なんでだろう……なんか考えてる時の顔だ」

その瞬間、日常の楽しさが一層鮮明に胸に刻まれた。

明日にはもう、この穏やかな時間が変わってしまうかもしれない、という予感もまだ気づかないままに。

 

空に赤みが深まる中、喫煙組は煙草をくゆらせ、笑いながらも互いの存在に安堵していた。

この小さな喫煙所でのやり取りが、後に訪れる非日常の嵐の伏線になることを、誰一人として知る由もなかった。

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