Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
長岡基地のブリーフィングルーム。夕刻の柔らかな陽が窓から差し込み、まだ熱気を残した空気が漂っていた。
涼介と数名の衛士たちは、今日も訓練後の軽い報告会を終え、各々リラックスした様子で腰を下ろしていた。そこへ、保科と小林が現れる。どこか改まった表情だった。
「おい、今度“戦略研究会”ってのが帝都で開かれるらしい」
最初に口を開いたのは隼人だった。
「本土防衛軍主体の会合でな。指揮官や衛士の中でも志のある連中が集まるらしい。俺と小林も参加することになった。他に参加したい者はいるか?」
「戦略研究会?」富田が首をかしげる。
「バカヤベー。机上の空論並べて時間潰すだけのやつじゃねえのか?」
雁部が茶化すように続ける。
小林が鋭く睨む。
「違います。これは帝国軍人としての誇りを取り戻すための会だ。現状の臨時政府は腐敗している。前線に立つ我々の声を、もっと戦略に反映させるべきなのです。」
「はいはい、出ましたよ真面目マン」小川が呆れたようにため息を吐く。
「どうせ俺たち現場の衛士には縁のない話ですよね?難しい顔して演説ごっこするだけじゃないですか」
「お前は黙ってろ、小川少尉」小林は吐き捨てるように言う。
「現場軽視が続けば、無駄な犠牲は増える。私はそれが許せないだけだ」
隼人が腕を組み、真剣な顔で頷いた。
「確かに……この間の作戦でも、上からの命令が二転三転して混乱事がいくつかあったしな。戦略の見直しが必要なのは事実だ」
「そうでしょう!」小林の声が熱を帯びる。
「この会に参加することで、私たちの声を帝都に届けられる。今の国の在り方を正すために必要なんだ!」
その熱弁に、一瞬空気が重くなる。誰もが返す言葉を探して黙り込んだ。
やがて隼人が静かに口を開く。
「……俺は小林ほど感情的じゃない。ただ、今の状況が行き詰まっているのは確かだ。難民問題も、物資不足も、現場にツケが回ってる。誰かが声を上げなきゃ、何も変わらん」
涼介が壁際にもたれかかりながら低く呟いた。
「……声を上げて、何が変わるんだろうな」
その言葉に皆が一瞬振り返る。その言葉涼介を見る隼人だったが、隼人の表情は読めなかった。ただ、ため息を吐き出す横顔はどこか影を帯びているように見えた。
富田が空気を変えようと、わざとらしく笑った。
「ま、俺は飯がうまくなるなら参加するっけね!」
「富田中尉はそればっかりですね」小川が呆れ、全員がどっと笑いに包まれる。
雁部が「食糧事情はバカヤベーくらい戦略上重要な課題だよな」と茶化して、さらに笑いが広がった。
その後もしばらく雑談が続いたが、涼介は胸の奥にわだかまりを感じていた。
研究会――その響きは一見正しいものに聞こえる。だが、小林の目に宿る強すぎる光と、隼人の口にした含みのある言葉が、なぜか妙に引っかかった。
「兄貴……」
ふと視線を向けた隼人は、皆と笑ってはいたが、どこか心ここにあらずな表情を浮かべていた。
涼介はただ隼人の方を見つめ、胸の奥の違和感を振り払おうとした。だがその小さな影は、確実にこれから訪れる嵐の前触れだった。