Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
数日後の朝、帝都での戦略研究会を終えた保科隼人大尉と小林洋平少尉が、長岡基地へ帰還した。
正門前に立ち並んだレッドキグナス中隊の面々は、二人の姿を見つけるやいなや駆け寄る。
「おかえりなさい、隼人兄! どうだった? 帝都は!」
紗栄が興味津々といった様子で声をかける。
「兄貴! 土産話くらいはあるんだろうな?」
続く涼介の声には、隼人の帰還に対する安堵と期待が混じっていた。
隼人は苦笑しながら「とりあえず落ち着こう。PXに移動だ」と提案する。
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PXにて
PXの広い食堂スペース。制服姿の兵士たちが行き交う中、レッドキグナス中隊は一角の大テーブルに陣取った。
コーヒーや軽食を手に、皆が二人を取り囲む。
「兄貴、戦略研究会って、どんな感じだったんだ?」
真っ先に訊ねたのは了解だった。
隼人は少し言葉を選びながら口を開く。
「表向きは戦術研究会だ。だが、実際には本土防衛軍の指揮官たちが一堂に会し、これまでの戦闘記録や教訓を共有する場だった。国の盾として日本国土を守ってきた者たちの声は、やはり重い」
「へぇ……」
富田が感心したように頷く。
「具体的には?」と岸本。
隼人は指を折りながら説明を続ける。
「地中侵攻への対応策、戦車部隊との連携、都市防衛の再編成案……あらゆる角度から検討されていた。俺たちのような地方部隊が普段知り得ない情報も多かった」
中隊員たちは一斉に目を輝かせ、質問が飛び交った。
「帝都の連中は現場をどう見てるんですか?」
「やっぱり近衛の話題も出たんですか?」
「難民の処遇については何か?」
次々に浴びせられる質問に、隼人は苦笑しつつ丁寧に答えていった。
そんな中、PXの壁に掛けられた大型モニターに、ニュース速報が流れ始めた。
〈天元山に噴火の兆候。周辺住民に退去命令。現地では国連軍が救助活動を実施〉
映像には、退去命令に反発して立て籠もる住民の姿が映し出される。続いて、国連軍の部隊が住民を搬送する場面が流れる。
〈幸い犠牲者はなく、救助活動は成功した模様〉
先日から同じニュースがが繰り返し報道されていた。
数日前から同じ内容、国連軍のプロパガンダ的な内容で帝国軍人であるレッドキグナス中隊には気分のいい内容ではなかった。
「みんな助かってよかったのかな?」
松本が呑気に呟いた、その瞬間。
「違う!」
小林がダンッとテーブルに拳を叩きつけた。
「救助なんてしていない! 強制退去の間違いだ! 国連は帝国民の気持ちを踏み躙っているんだ!」
その激しい剣幕に、テーブルを囲んでいた中隊員たちは一瞬息を呑んだ。
「落ち着け、小林」
隼人が低い声でたしなめる。
「みんな引いているぞ」
普段は冷静な小林が声を荒げる姿に、中隊の面々は目を見交わした。
「まぁ……国連のやりそうなこったな」
雁部が椅子を後ろに傾けながら不機嫌そうに呟く。
「効率重視のやり方ってやつだ」
「正直、ずっと故郷にいたいって気持ちはわからなくもないっけね……」
富田が少し寂しげに言う。
「そうですね……最後は故郷で、って思うのは自然かもしれません」
松原も静かに続けた。
次第にテーブル全体が暗い空気に包まれていく。
そんな中響く涼介の声
「おい! 暗いぜお前ら!」
涼介が椅子を蹴るように立ち上がり、拳を握った。
「俺らの故郷はBETAにやられちまったけど、俺は取り戻すつもりだぜ! 絶対に帰る!」
「チビ兄、行儀悪いよ」
紗栄が笑い混じりに注意する。
「ははっ、流石、突然バカの熱血中尉!」
大友が声を出して笑い、前園は無言で頷いた。
「そうだな!いい事言うぜ」と岸本も声を上げる。
「キグナス中隊はこうでなくちゃですね」と小川も笑顔を見せた。
「俺らが暗くなっても仕方ねぇ! とりあえず日本取り戻すまでやってやんぜ!」
涼介が拳を掲げると、テーブルは一気に熱気に包まれた。
「この前から演説癖ついてますよ、鍋島中尉。」
小川の茶々に皆が敏捷し、涼介を揶揄う。
「よっ! 未来の基地司令!」
「ナベさん、ついてきまっせ!」
富田と雁部もノリに乗り、大爆笑が巻き起こる。
その陰で
中隊が盛り上がる中、隼人は静かに彼らを見つめていた。
頼もしく成長した涼介と仲間たちを、微笑ましく誇らしげに。
だがその視線の先には、小林の沈んだ表情もあった。
隼人と小林は短く目を合わせ、わずかに頷き合う。
二人はそっと席を立ち、まだ喧騒の続くPXを後にした。