Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第九十三話 隼人の決意と蜂起

PXを出た隼人と小林は、夜風に吹かれながら並んで歩いていた。外は既に暗く、兵舎や格納庫から漏れる灯りが点々と続いている。二人は無言のまま足を進めていたが、向かう先は誰もが知っている。――戦術機ハンガー。

 

「ホカ大尉……」

 

突然、背後から声を掛けられ、隼人は振り返った。

そこに立っていたのは松本だった。

 

「どこに行くの? あたしも連れて行って」

 

唐突な言葉に隼人は驚き、そして目を細めた。

「……言ってることの意味、わかっているのか?」

 

松本は一歩も退かず、真っ直ぐに視線を返してきた。

「行っちゃうんでしょ?」

小首を傾げながらも、彼女の声は揺るがなかった。

 

隼人は苦笑を浮かべる。

「相変わらず鋭いな……小林。お前は先に行け」

 

小林は眉をひそめたが、短く「大尉もお早めに」と答えると足早に先へ進んでいった。

 

残されたのは隼人と松本。二人の間に静かな緊張が漂う。

 

「……あたし、一緒に行きたい。まだホカ大尉に勝ってないし」

松本が一歩踏み出し、隼人の瞳を真っ直ぐに見据える。

 

「まさかお前がそんなことを言うとはな……」

隼人はふっと笑みをこぼした。その笑みには優しさと哀しさが混じっていた。

 

「じゃあ、行ってもいい?」

さらに詰め寄る松本。

 

しかし隼人の表情は笑みから一転し、鋭い光を宿す。

「俺が進もうとしている道は邪道だ。そんな道にお前を連れて行くわけにはいかない。帰って来れなくなるぞ」

 

低く強い言葉に、松本の胸が詰まった。

だが彼女は引き下がらない。

 

隼人は深く息を吸い込み、真剣な眼差しで告げる。

「お前はキグナス中隊に必要だ。俺がいなくなった後、涼介を……俺の弟を支えてやってくれ」

 

その声には懇願にも似た響きがあった。松本は瞳を潤ませながらも、真っ直ぐ頷く。

「わかった……ナベ中尉を支えるよ」

 

「頼んだぞ」

隼人は短くそう言い残し、背を向けて歩き出した。振り返ることはない。

 

「ホカ大尉の……バカ」

松本はその場に膝をつき、静かに涙を零した。

 

 

やがて小林に追いついた隼人は、戦術機ハンガーへと到着した。

そこには異様な光景が広がっていた。

 

出撃命令もないのに、不知火壱型丙と数機の不知火が完璧に整備され、推進剤も弾薬も装填されている。整備員たちが無言で頭を下げた。

 

「準備は整っています、大尉」

その声には緊張と決意が滲んでいた。

 

小林はすでに強化装備に着替え、全身から闘志を漲らせていた。

「……あとは俺たちが決断するだけです」

 

隼人は静かに頷く。

「あぁ、この国を守るために」

 

自らも更衣室へ向かい、強化装備へ身を包む。戻ってきた彼の眼差しは、もはや迷いを見せなかった。

 

ハンガーにはすでに数名の衛士が集まっていた。いずれも別部隊から密かに潜り込んできた同志たちだ。彼らの表情は硬く、しかし瞳は燃えている。

 

隼人は皆を見渡し、深く息を吸った。

「もう、ここに戻ることはないだろう……だが俺たちの行動が、この国を変える。後に続く者たちの礎になることを誇りに思え!」

 

「応ッ!」

若き衛士たちが一斉に声を上げ、格納庫に響かせる。

 

それぞれがコックピットへと駆け込み、シートの着座調整をしていく。

機体が次々と起動音を響かせ、暗がりの中に赤いランプが灯った。

 

最後に隼人は自らの機体――不知火・壱型丙の前に立った。

整備兵が緊張した面持ちで敬礼を送る。

 

「……頼んだぞ」

隼人は短く言葉を返し、コックピットへ乗り込む。

 

視界が閉じ、ヘッドセット越しに仲間たちの声が響く。

「これより我らは蜂起する!」

「帝国の未来のために!」

 

点火される跳躍ユニット。格納庫のゲートが開き、夜の闇が広がっていく。

 

隼人は胸の奥で、まだ笑顔を見せていた仲間たち――そして涼介と紗栄を思った。

「……すまない。だがこれは兄としてではなく俺自身の出した答えだ」

 

不知火壱型丙が轟音を響かせ、長岡の夜空へ舞い上がる。

こうして保科隼人のクーデターは、静かに、しかし確実に幕を開けようとしていた。

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