Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
時は遡り、隼人と小林がPXを出て姿を消した直後。
残されたレッドキグナス中隊は、PXのざわめきの中で寛いでいた。笑い声が響くその場に、突如として緊急放送のサイレンが鳴り響く。モニターの画面が切り替わり、そこに現れたのは見知らぬ将校の姿だった。
「親愛なる国民の皆様」
凛とした声で語り始めたのは、帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊所属の沙霧尚哉大尉だった。背筋を伸ばし、軍服の襟元を正したその姿は、どこか演説用に作り上げられた印象を漂わせている。
「私は帝国本土防衛軍、帝都守備連隊所属、沙霧尚哉大尉であります」
その言葉に、PXの空気が一気に引き締まった。中隊員たちは顔を見合わせ、何が始まるのか固唾を呑む。
「皆様もよくご存知の通り、我が帝国は今や、人類の存亡をかけた侵略者との戦いの最前線となっております。それが政府と我々軍人に課せられた崇高な責務であり、全うすべき唯一無二の使命であるともいえましょう」
一見、よくある士気高揚の演説。しかし次の瞬間、言葉は鋭い刃へと変わった。
「しかしながら、政府及び帝国軍は、その責務を充分に果たして来たと言えるでしょうか?」
「はぁ? 急になに言ってやがんだ」
涼介が舌打ちし、モニターを睨む。
沙霧は続ける。
「先日の天元山災害救助作戦を報じたニュースを、国民の皆様は覚えておいででしょうか?」
画面に映るのは記録映像。軍人たちが住民を搬送していく場面に、誇張されたナレーションが重なる。
「報道では、危険を顧みず救助活動に挺進する軍人、国民の生命財産の保護を最優先などという美辞麗句が並べられていました」
「美辞麗句だってよ。松本、わかるか? あれ?いねぇな」
雁部が茶々を入れて辺りを見渡す。
「トイレでも行ったんじゃないですか? 急に消えるのはいつものことですし。あの不思議ちゃんは……」
松原が肩をすくめる。
その間にも、沙霧の声は熱を帯びていく。
「救助部隊が行った作戦は、住民の身柄を、就寝中に麻酔銃で襲撃するという拉致にも等しい方法で確保し、難民収容所に移送しただけ……これが実情です!」
「なっ……」
大友は言葉を失った。
「そんな……もう、難民収容所なんて……」
仙台で見た光景を思い出し、紗栄は目を伏せた。あの惨状――泥と血に塗れた仮設住宅、飢えに苦しむ子どもたち。胸が締め付けられ、涙が滲む。
「辛うじて雨風を凌げる程度の仮設住宅に押し込められ、食料の配給も足りず、医薬品も充分にない……何の咎もない国民が、あたかも罪人のように扱われているのです」
「……お前らから聞いた話と、ほぼ一緒だっけね」
富田は悲しそうな目でモニターを見つめる。
沙霧の声はさらに高まる。
「これは氷山の一角に過ぎません。多くの作戦が効率や安全だけを優先し、本来守るべき国民を蔑ろにしてきました! しかも、国政を恣にする奸臣どもは、その事実を殿下には伝えていないのです!」
「この放送……なんか流れヤバくないですか?」
小川が額に汗を浮かべ、不穏な空気を読み取る。
「……このままでは、殿下の御心と国民は分断され、遠からず日本は滅びる! 断言せざるを得ません!」
怒りと悲しみを帯びた声が、基地中に響き渡った。
「超党派勉強会である“戦略研究会”に集った我々憂国の列士は、本日、この国の道行きを正すために決起いたしました!」
その瞬間、涼介が立ち上がった。
「戦略研究会って……兄貴たちが参加してたやつじゃねぇか! って……兄貴はどこだ?」
慌てて辺りを見渡す。だが、隼人の姿はどこにもない。
次の瞬間――。
ドンッ! と腹を裂くような爆発音が基地全体を揺るがした。
緊急警報がサイレンのように鳴り響く。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
兵士たちの叫び声が錯綜する中、涼介の背筋を冷たいものが走った。
――兄貴。まさか……。
こうして、長岡基地に嵐が吹き荒れ始めた。