Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
爆発と警報が鳴り響く長岡基地。その混乱の中、涼介は強化装備を纏い、ただひたすら走っていた。
耳に残るのは、爆炎が金属を焼き、格納庫全体を揺るがす轟音。そして胸を締め付ける焦燥感。
「兄貴……!」
ハンガーに駆け込んだ瞬間、視界を埋めたのは炎と煙。赤黒い煙が天井まで渦を巻き、整備員たちの悲鳴が遠くに響く。その中心に、ひときわ眩いシルエットが浮かんでいた。
不知火・壱型丙。隼人の機体だ。
跳躍ユニットの冷却ガスを白く噴き出し、今まさに飛び立とうとしている。
「兄貴! なにやってんだ! 馬鹿野郎!」
涼介は声の限りに叫んだ。だがその声は届かない。
無機質な光を放つセンサーアイが一瞥を寄こしたかと思うと、壱型丙は爆音を轟かせて跳躍ユニットを点火する。
「っ……!」
瞬間、凄まじい爆風が吹き荒れ、涼介の身体は壁まで叩きつけられた。
肺の中の空気が一気に押し出され、視界が白く弾ける。
「クソッ!」
立ち上がった涼介は、拳で壁を叩きつけた。コンクリートに血が滲む。それでも痛みは感じなかった。ただ胸の奥に広がる怒りと悔しさが、身体を突き動かしていた。
その時、耳元の通信機から淡々とした声が響いた。
『鍋島中尉、無事ですか?』
青島だった。
「あぁ……無事っちゃ無事だ。今、ハンガーにいる。兄貴の壱型丙が……出ていったところだ」
『そうですか。……恐らく先程の緊急放送に呼応したクーデター。参加を目的にした出撃と推測されます』
冷静な報告に、涼介の胸がさらに熱くなる。
「やっぱりか……! クソッ!」
拳を握りしめ、立ち上がる。
「俺は兄貴を追う! 止めてでも連れ戻す!」
『司令部でも追撃部隊を編成することが決定しました。……鍋島中尉、あなたが指揮を取ってください』
青島の声は淡々としている。だがそれは涼介への信頼の裏返しでもあった。
「聞いたな、お前ら!」
振り返れば、そこにはすでに整列するレッドキグナス中隊の仲間たち。強化装備に身を包み、誰もが瞳に怒りと決意を宿している。
「兄貴がやらかした馬鹿を、俺たちで止めに行くぞ!」
「了解!!」
声を揃えて応える仲間たち。響き渡るその声に、涼介の胸が熱くなる。
⸻
各員がそれぞれの不知火に飛び乗り、着座調整を開始する。
シートが背中を押し込み、冷たい計器の感触が伝わる。警告灯が消え、油圧が上がっていく。
「いつでも出られるぞ、青島!」
『こちらキグナスリード、了解。……保科大尉と小林少尉が抜け、B小隊が手薄になりますが、こちらでフォローします。発進をどうぞ』
「おう! 帰ったらデートしてくれよ!」
通信越しに、涼介はいつもの調子で言った。その声に仲間たちが一瞬目を丸くする。
『……考えておきます』
青島の返答もまた、いつも通りの淡々としたもの。
「……こんな時でもやるのかよ」
富田が呆れたように笑い、肩をすくめる。
「でも、キグナス中隊の出撃はこうでなきゃね」
大友が口元をほころばせる。
一瞬の緊張をほぐすように、皆の笑いが弾けた。暗くなりかけた空気が、一気に吹き飛ぶ。
⸻
出撃
「おっしゃ! 行くぜ野郎ども! 兄貴の馬鹿野郎を、俺がぶん殴りに行く!」
吠える涼介に、全員が無言で頷いた。その瞳には、仲間を信じる光と、兄を止めたい弟の怒りが入り混じっていた。
「レッドキグナス、出撃!」
管制塔の許可が下りると同時に、格納庫のゲートが開く。
夜風が吹き込み、整備員たちが手を振り下ろす。
不知火の跳躍ユニットに火が灯り、白い炎が床を焼いた。
「行くぞ!!」
轟音とともに、レッドキグナス中隊の戦術機が一斉に飛び出す。
涼介の機体も夜空を切り裂き、兄を追って、怒りと哀しみを抱えたまま駆けていった。
こうして、兄弟を引き裂く決戦が幕を開けようとしていた。