Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
夜の空を、数機の戦術機が一直線に飛び抜けていく。
保科隼人の不知火・壱型丙を先頭に、小林の不知火、そして数名のクーデター参加者たち。全員が無線を最小限に抑え、ただ黙々と推進ユニットを噴かしていた。
その沈黙を破ったのは小林だった。
「……大尉、本当に良かったんですか? レッドキグナスには声をかけずに」
「誰1人呼ぶつもりは最初からなかった」
隼人は短く答える。
「そうですね……奴等とは志が違います。我々が成すべきは、この国を……」
「小林」
鋭い声で遮る。
「俺は涼介と紗栄を……レッドキグナスの仲間を、戦わせたくない。今の政府の下で、あいつらが命を削られるのをこれ以上見ていたくないんだ」
無線の向こうで小林が黙り込む。やがて別の衛士が口を開いた。
「でも大尉……自分たちは裏切り者と呼ばれることになるんですよ? 戻れる場所はない」
「分かっている」
隼人は自嘲するように笑った。
「だが、もういいんだ。涼介はもう俺が守らなくても立っていける。あいつは自分で考え、仲間を導ける衛士になった」
ふと、頭の中に涼介の笑顔が浮かぶ。煙草を咥えて愚痴をこぼす姿。訓練で転がされながらも立ち上がり、必死に食らいついてきた背中。
――あいつはもう大丈夫だ。
「兄としての役目は終わった。なら、今度は俺自身がやりたいことをやる」
隼人の声には決意が宿っていた。
⸻
揺るぎない決意
「……俺は、この国を守りたい。だが今の政府と軍では、国民は守れない。仙台で見てきた。難民は見捨てられ、親すら……俺の両親すら……あんな形で死んでいった」
言葉に詰まる。胸の奥から込み上げる痛みを押し殺し、隼人は続けた。
「だから俺は決めた。自分を犠牲にしてでも、この国を正す。涼介や紗栄、レッドキグナスの仲間が、いつか笑って故郷に帰れる日を作る。そのためなら、裏切り者と罵られようが、命を落とそうが構わない」
一瞬の沈黙。だが無線の向こうからは、同志たちの息遣いが聞こえる。誰も笑わなかった。誰も疑わなかった。
「大尉……」
小林が、今度は敬意を滲ませた声を返した。
「そこまで覚悟を持っているなら、私は何も言いません。私は……ずっと憤ってきた。軍の腐敗、現場を知らない指揮官、口先だけの政治家たち。だからこそ、この決起に賭けたんです」
「お前の苛立ちは理解している。だが忘れるな。これは俺たちだけの戦いじゃない。これから何百、何千という命が、この選択に縛られる」
「承知しています」小林の声は揺るがなかった。
⸻
夜空を切り裂きながら飛ぶ戦術機の編隊。
雪原を抜け、月明かりに機体の影が浮かぶ。
「もう……戻れないんだよな……?」
一人の衛士が呟いた。
隼人は小さく息を吐き、答えた。
「俺はもう戻らないと決めた。戻るつもりもない。だが……涼介や紗栄、あいつらが未来を繋ぐ。そのために俺は、ここで散ってもいい覚悟だ」
「大尉……」
「俺はな、涼介が初めて自分の意志で立ち上がった姿を見た時、思ったんだ。もう俺が支える必要はない。だからこそ、俺は俺の道を行くそれがどんな道だろうと」
胸の奥で苦しみと安堵が入り混じる。涼介と笑い合った喫煙所、紗栄の無邪気な笑顔――それら全てを置いていく痛みを噛み締めながらも、隼人の瞳は前だけを見据えていた。
「俺たちの行動が、後に続く者の礎になる。……そのための犠牲ならば、喜んで払おう」
その言葉に、誰も返さなかった。ただ、それぞれの胸に重い決意が広がる。
厚木基地へ向かう影は、やがて闇の中に飲み込まれていった。
彼らの選択が、やがて国を揺るがす嵐となることを誰も疑わなかった。