Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第九十七話 隼人の決意と修羅の道

夜の空を、数機の戦術機が一直線に飛び抜けていく。

保科隼人の不知火・壱型丙を先頭に、小林の不知火、そして数名のクーデター参加者たち。全員が無線を最小限に抑え、ただ黙々と推進ユニットを噴かしていた。

 

その沈黙を破ったのは小林だった。

「……大尉、本当に良かったんですか? レッドキグナスには声をかけずに」

 

「誰1人呼ぶつもりは最初からなかった」

隼人は短く答える。

 

「そうですね……奴等とは志が違います。我々が成すべきは、この国を……」

 

「小林」

鋭い声で遮る。

「俺は涼介と紗栄を……レッドキグナスの仲間を、戦わせたくない。今の政府の下で、あいつらが命を削られるのをこれ以上見ていたくないんだ」

 

無線の向こうで小林が黙り込む。やがて別の衛士が口を開いた。

「でも大尉……自分たちは裏切り者と呼ばれることになるんですよ? 戻れる場所はない」

 

「分かっている」

隼人は自嘲するように笑った。

「だが、もういいんだ。涼介はもう俺が守らなくても立っていける。あいつは自分で考え、仲間を導ける衛士になった」

 

ふと、頭の中に涼介の笑顔が浮かぶ。煙草を咥えて愚痴をこぼす姿。訓練で転がされながらも立ち上がり、必死に食らいついてきた背中。

――あいつはもう大丈夫だ。

 

「兄としての役目は終わった。なら、今度は俺自身がやりたいことをやる」

隼人の声には決意が宿っていた。

 

 

揺るぎない決意

 

「……俺は、この国を守りたい。だが今の政府と軍では、国民は守れない。仙台で見てきた。難民は見捨てられ、親すら……俺の両親すら……あんな形で死んでいった」

 

言葉に詰まる。胸の奥から込み上げる痛みを押し殺し、隼人は続けた。

 

「だから俺は決めた。自分を犠牲にしてでも、この国を正す。涼介や紗栄、レッドキグナスの仲間が、いつか笑って故郷に帰れる日を作る。そのためなら、裏切り者と罵られようが、命を落とそうが構わない」

 

一瞬の沈黙。だが無線の向こうからは、同志たちの息遣いが聞こえる。誰も笑わなかった。誰も疑わなかった。

 

「大尉……」

小林が、今度は敬意を滲ませた声を返した。

「そこまで覚悟を持っているなら、私は何も言いません。私は……ずっと憤ってきた。軍の腐敗、現場を知らない指揮官、口先だけの政治家たち。だからこそ、この決起に賭けたんです」

 

「お前の苛立ちは理解している。だが忘れるな。これは俺たちだけの戦いじゃない。これから何百、何千という命が、この選択に縛られる」

 

「承知しています」小林の声は揺るがなかった。

 

 

夜空を切り裂きながら飛ぶ戦術機の編隊。

雪原を抜け、月明かりに機体の影が浮かぶ。

 

「もう……戻れないんだよな……?」

一人の衛士が呟いた。

 

隼人は小さく息を吐き、答えた。

「俺はもう戻らないと決めた。戻るつもりもない。だが……涼介や紗栄、あいつらが未来を繋ぐ。そのために俺は、ここで散ってもいい覚悟だ」

 

「大尉……」

 

「俺はな、涼介が初めて自分の意志で立ち上がった姿を見た時、思ったんだ。もう俺が支える必要はない。だからこそ、俺は俺の道を行くそれがどんな道だろうと」

 

胸の奥で苦しみと安堵が入り混じる。涼介と笑い合った喫煙所、紗栄の無邪気な笑顔――それら全てを置いていく痛みを噛み締めながらも、隼人の瞳は前だけを見据えていた。

 

「俺たちの行動が、後に続く者の礎になる。……そのための犠牲ならば、喜んで払おう」

 

その言葉に、誰も返さなかった。ただ、それぞれの胸に重い決意が広がる。

 

厚木基地へ向かう影は、やがて闇の中に飲み込まれていった。

彼らの選択が、やがて国を揺るがす嵐となることを誰も疑わなかった。

 

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