Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
雪がちらつく冬空を切り裂き、長岡基地を飛び立った九機の不知火が一直線に南を目指す。
その先にあるのは――保科隼人大尉。
何故あの人が、という疑問は全員の胸に渦巻いていた。だが今は理由などどうでもよかった。ただ一つの思いがあった。あの人を止めたい。連れ戻したい。
その一心で、レッドキグナス中隊は固く一つに結束していた。
「こちらキグナスリード。報告します――富田中尉は無事、長岡基地に帰還。現在は医療施設で治療を受けています」
青島の淡々とした声が、コックピットの内部に響いた。
その瞬間、中隊内に安堵の息が広がった。
「よかった……富田さん……!」紗栄が胸を押さえて涙声を洩らす。
「ちくしょう……やっぱしタフなやつだなトミさんはバカヤベー!」雁部が鼻をすすりながら呟く。
「くそ、心配させやがって……」岸本もほっとしたように吐き出した。
涼介も思わず握りしめていた操縦桿を少し緩めた。胸の奥に重く沈んでいた鉛のようなものが、ほんのわずかに軽くなる。
だが次の瞬間、青島の声が続く。
「クーデター派の進行方向から、目的地が判明しました。どうやら厚木基地を目指している模様です。マッピングとルートをデータリンクに送信します」
モニターに浮かび上がる航路。厚木。そこに到達されたら……完全に手遅れになる。
「厚木か……!」涼介の眼に決意が宿る。
「基地に着かれる前に追いつくぞ!」
「最短ルートを転送します。……みなさん、どうか無事に帰還してください」
青島の声はあくまで冷静だが、その裏には確かな祈りが滲んでいた。
「あぁ、任せとけ!兄貴も連れて、全員で帰る!――デートの約束、忘れんなよ!」
涼介が息を荒げながらも笑い飛ばす。
「……考えておきます」
青島は変わらぬ調子で返す。
通信越しに交わされた軽口に、自然と笑いが漏れる。
「出撃前もやってたのにまたやりますか……」小川が呆れたように言い、
「でも、これがキグナス中隊だ」前園が頷く。
緊張に張り詰めていた空気が、わずかに和らいだ。
富田が抜けたC小隊は、急遽前園が臨時で指揮を執る。
B小隊は小川と岸本の二機だけになった。
編成は変則的で、穴も多い。それでも――九機の心はひとつだった。
そこへ、再度青島の通信。
「距離、五百――捕捉しました」
その一言で、コックピット内の空気が一変する。
「よし!見つけたぞ、兄貴……!」涼介の声が震える。怒りか、悲しみか、自分でも分からない。
「行くぞ、テメェら!全員ぶちのめして――兄貴を連れ戻す!」
「了解ッ!!」
八人の声が重なる。
モニターの先に映し出されるのは、雪の白に霞みながらも確かに見えるシルエット――かつて共に肩を並べた仲間たち。
その背中を捉えた瞬間、誰もが息を呑む。
涼介は、胸の奥で叫ぶ。
(兄貴……!なぜだ……なぜこんな道を選んじまったんだ!)
叫びは、まだ届かない。
だが必ず、追いついてみせる――たとえどんな形であろうとも。