Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「捕捉した!距離、もう200切ってる!」
雁部の声が無線を震わせた。
雪を切り裂きながら、視界にクーデター部隊の機影が浮かぶ。六機の不知火と、その先頭に立つのは――壱型丙。
「兄貴……!」
涼介は思わず息を呑む。
「鍋島、冷静に。交戦は避けられん」
前園が鋭く告げた。
「了解……!、全機、構えろ!」
涼介の声と同時に、キグナス中隊の九機も武器を構える。
だが、クーデター側の動きは早かった。隼人の壱型丙と小林の不知火、さらに二機が跳躍して抜け出し、残る四機が立ちはだかる。
「行かせるか!」
小川が叫ぶが、返すように迫る敵影。
「ここで時間を稼げば十分だ!」
敵衛士の叫びが無線に割り込む。
「やっぱり足止めか……!」
涼介は歯を食いしばる。
⸻
戦友との交戦
突撃砲の閃光が雪を照らし、激しい銃火が交錯する。
「撃て!撃て!撃て!」
岸本が吠えながらトリガーを引く。
「クッ、あいつ……ブルーイーグルスの佐藤じゃない!?」
大友の声が震える。
「本当だ……なんで……!」
紗栄の声も揺れる。
目の前に立ちはだかるのは、かつて一緒に演習を受けた顔ぶれ。互いに手の内を知り尽くした仲間同士の戦いは、一瞬のためらいが致命に繋がった。
「撃てないなら下がってくれ!? あっちはマジで殺しにきてますよ!」
小川が怒鳴るが、誰も即答できない。
「クソがぁ!道開けろや!兄貴にこれ以上、好き勝手させられねぇんだよ!」
涼介が吠えるも、敵は応じず、弾幕で行く手を塞いだ。
⸻
離れていく影
「……チビ兄!隼人兄が……」
紗栄が叫ぶ。
モニターの奥、雪煙を上げながら隼人の壱型丙が小林らと共に遠ざかっていく。跳躍ユニットの青白い光が瞬き、距離はみるみる広がっていった。
「クソッ……また離れていく!」
操縦桿を握る涼介の指が白くなる。
「鍋島中尉、まずは目の前の敵を!」
前園の冷静な声。
「分かってる……やったやらぁ!」
仲間を撃つことへの躊躇が、刹那ごとに足を重くする。
⸻
松本の決断
その時――。
「いくね!!」
松本の声が無線を突き抜けた。松本の不知火が弾丸の雨をすり抜け、一気に前へ飛び出した。
「松本!? 待て、戻れ!」
涼介が慌てて叫ぶ。
「だいじょーぶ!ちょっとホカ大尉としょーぶしてくる!」
松本の声は涙混じりだった。
「このまま、おわるのはダメッ!!」
「バカやろう!単騎で行ったら――!」
「行かせましょう!鍋島中尉!松本少尉なら足止め出来るかもしれない」
小川が冷静に戦況を判断し声を上げる。
松本は切迫した声で言い切る。
「あたしは……ホカ大尉を追う!それが、あたしの答えだから!」
跳躍ユニットが閃光を放ち、松本の不知火は一直線に飛び出した。
「くそっ……!」
涼介は唇を噛む。
遠ざかる兄の機影を、松本が必死に追いすがる。その姿を見送りながら、残されたキグナス中隊は依然として足止めに苦しめられていた。
「鍋島中尉!今は俺たちがやるしかねぇです!」
小川の声が怒号のように響く。
「分かってる……!ここで倒れてたまるか!」
九機の心は揺れながらも一つに収束する。
――追わねばならない。だが、まずは目の前の仲間を撃ち抜かねば。
雪が舞う戦場で、かつての戦友を撃つ苦悩と、離れていく兄の背を追う焦燥が交錯していた。