Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
新潟県、長岡基地。空は抜けるように青く、地上は鋼鉄と熱と、死の匂いに満ちていた。
鍋島涼介、階級は少尉。16歳。
佐渡島で生まれ育ち、妹と兄貴分に囲まれ、気がつけば戦術機のコクピットに座る未来を目指して走っていた。
それが今、現実になって目の前にある。
広大な格納区画の一角に整列する、新任衛士たち。
その列の中で、ひときわ背が低く、しかし異様に目立っていたのが彼――鍋島涼介だった。真紅に染めた逆立てた髪、やけにギラついた眼差し。まるで自分だけが主役だとでも言いたげに、堂々と前を見据えている。
「レッドキグナス中隊、新配属の諸君に紹介する。中隊長、白鳥真凛大尉だ」
保科隼人中尉――かつて佐渡島にいた時の兄貴分であり、自分を置いて志願兵として島を出て行ったきり会ってなかった、涼介の目標にしている男今も変わらず“兄貴”と慕う男がそう言った瞬間、涼介の目の前に“化け物”が現れた。
「……おいおい、どいつもこいつもヒョロっちい面してんな。こっちは命張る戦場だぜ? チェリー共、オムツ替えて出直してきた方がいいんじゃねぇか?」
その女は、声も口調も歩き方さえも、すべてが男だった。
荒々しく逆立てたセミロングの赤褐色の髪、180センチを越える大柄な体躯、軍服越しでも分かるほどに盛り上がった筋肉。
それはもう、まさに――“メスライオン”。
「ま、とはいえな――死ぬ前にひとつぐらいやり残しの無いようにしとけよ? そうだな……たとえば、女とかよ」
直立不動の新兵たちに向かって、下品な笑いと共にそう言い放つ。
明らかに“冗談”の範疇を超えているその言葉に、誰も反論できない。
全員が心の中で「行くわけねぇだろ!」とツッコむが、声には出さない。
だが――一人だけ、それを“真に受けた”バカがいた。
夜。
寮舎の静かな廊下を、鍋島涼介はひとり歩いていた。
手には、信任挨拶で渡された中隊長の部屋番号が書かれたメモ。
頭の中には、幼いころ佐渡の夕焼け空で見た、赤く染まった白鳥の記憶が蘇る。
(……死ぬ前にって、そう言ってたよな。なら――今しかねぇじゃんか)
そんな単純な理屈だけで、彼は重い扉をノックした。
「――誰だ」
「鍋島涼介少尉です。思い残しがない様に、伺いました」
ギィ、と扉が開いた。
そしてその奥に、風呂上がりなのか濡れた髪を無造作に束ねた大柄な女がいた。
普段の威圧的な雰囲気とは違い、タオル一枚を無造作に肩に掛けたその姿は、妙に人間味があった。
「おい……マジか? 本気で来たのか、お前……」
真凛の瞳に、初めて戸惑いが宿った。
いつもの強気な“俺様”口調も、その瞬間だけ止まった。
涼介は、真っ直ぐに言った。
「はい!大尉の言った通り思い残しのない様に馳せ参じました!初めててますがよろしくお願いします、大尉」
数秒の沈黙。
そして彼女は、乾いた笑いを一つ漏らした。
「……おもしれぇ。気に入ったぜ、鍋島。入れよ」
その夜、鍋島涼介は童貞を捧げた。
相手は、隊最強の突撃前衛にしてストームバンガード1、“メスライオン”の異名を持つ中隊長。
相手もまた、その夜が初めてだったとは知る由もない。
そして翌朝――
涼介は白鳥真凛真凜に対し、誰よりも自然にこう呼んだ。
「――おはようございます、真凛大尉」
その一言に、中隊の全員が一瞬凍りついた。
いつも冷静な保科隼人中尉でさえ、タバコを咥えかけたまま呆然としていた。
(……お前、まさか……マジで?)
まるで何事もなかったように、涼介はその場を去る。
だが、それ以降。白鳥真凛は彼を“特別な目”で見るようになり、
反対する隼人の意見を押し切って、鍋島涼介をストームバンガードとしてA小隊に引き入れた。
涼介の衛士としての本当の物語が、いまここから始まる――