Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「全員覚悟決めろ!!行くぜェ!」
涼介の号令と同時に、8機の不知火から突撃砲の閃光が走った。雪を切り裂く銃火が、目前に立ちはだかる四機のクーデター部隊を照らす。
「くそっ、全力で止めろ!」
敵衛士が叫び、応戦の弾幕が張られる。
互いの距離は近く、雪煙と爆炎が交錯し、視界は白と赤に塗りつぶされる。
「 正面のやつ、あの動きは……!」
紗栄が悲鳴に近い声を上げる。
「間違いねぇ、あれはイエローライラの勝又だ!」
雁部の叫びに、皆の胸が締めつけられる。
かつて共に酒を酌み交わした戦友の機体が、いまは銃口をこちらへ向けている。
「ためらうな! 撃たなきゃこっちが死ぬ!」
小川が吠える。
「……くそっ!」
岸本が歯を食いしばり、狙いを定める。
「跳躍ユニット狙え! できるだけ殺すな、止めろ!」
涼介が指示を飛ばす。
銃口が火を噴き、弾丸が敵機の腰部後方を貫いた。爆炎が吹き上がり、跳躍ユニットを破壊された不知火が雪原に墜落する。
「一機落とした!」
「まだ三機だ!」
前園が冷静に告げる。
敵機は動揺を見せながらも必死に突撃してくる。
「止まれぇぇっ!」
突撃砲の銃口が松原を狙う。
「松原、下がれ!」
咄嗟に涼介が割り込み、トリガーを引いた。銃弾が敵機の脚部を撃ち抜き、バランスを崩した不知火が横転する。
「二機目沈黙!」
「残り2機です、左右に展開!」
青島が即座に指示を出す。
「くっ、あいつら本気だよ!」
大友が叫びながら回避行動をとる。
「殺させねぇですよっと!」
小川が突撃し、跳躍ユニットに狙いを絞る。
弾丸が炸裂し、敵機の跳躍ユニットが吹き飛んだ。
「三機目撃破!」
最後の一機は、執念で紗栄の不知火を狙い突っ込んでくる。
「紗栄!」
涼介が叫ぶ。
「やらせねぇって!」
雁部の不知火が横から突き飛ばし、同時にトリガーを引く。120 mmが敵機のコックピットを貫き、火柱が上がった。
「……四機、無力化です。」
青島が淡々と報告した。
雪原に散らばる残骸。仲間であった者たちを撃ち倒した現実が、全員の胸に重くのしかかる。
⸻
「……あたし、行く!」
突如、松本の機体が雪煙を切って前に飛び出した。
「松本!待て!俺らもすぐ追いつく」
涼介が制止する。
「嫌よ!ホカ大尉を止められるのは……あたししかいないから」
涙混じりの声で松本が叫ぶ。
不知火の跳躍ユニットが閃光を放ち、隼人の壱型丙を追う。
視界の先、漆黒のシルエットが月明かりに浮かぶ。
「ホカ大尉ぃっ!」
松本の不知火が長刀を抜き、斬りかかる。
だが――。
「甘い」
隼人の声は冷徹だった。
壱型丙が機体をわずかに傾けた瞬間、松本の斬撃は空を切る。
次の瞬間、強烈な蹴りが不知火の脇腹を打ち抜いた。
「くっ……!」
松本の機体が大きく弾かれ、装甲が軋む。
「まだっ!」
必死に立て直し、再び斬りかかる。
しかし壱型丙の動きは速すぎた。
一撃、二撃、三撃――全て防がれ、逆に装甲を削られる。
「まだ……もう…一回…!」
松本の声は悔しさに震える。
最後の交錯。
隼人の長刀が、不知火の右腕を切り落とした。
「うわぁっ!」
悲鳴と共に松本の機体は吹き飛び、雪原に叩きつけられる。機体は中破し、黒煙を上げていて、もう立ち上がる力を失った。
隼人は一度も振り返らず、壱型丙を前へと進める。
その背中は、冷たく、遠かった。
「待って……!もう一回……まだ!」
松本は涙を流し、声を枯らして叫んだ。
「まだ……勝ってないのに……!」
返事はない。雪煙だけが彼女の視界を覆い隠す。
⸻
そこへ、後方から駆け付けたレッドキグナス中隊が到着する。
「松本!無事か!?」
涼介が叫ぶ。
「大丈夫……!機体はもう動かないけど……」
震える声で返す松本。
「分かった、後は任せろ!」
涼介は短く告げ、機体を跳躍させる。
「お願い……」
松本は力なく呟いた。
雪の中に残された彼女の不知火を後目に、八機の不知火が再び夜空を駆け抜けていく。
涙に濡れた視界の中、松本はただ両手を握り締めていた。
「お願い……絶対に、ホカ大尉を……」
雪はなおも降り続き、白い闇が全てを覆い隠していった。