Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
雪原を赤く照らす炎。
その中で涼介と紗栄の不知火は、壱型丙を駆る隼人に挑みかかっていた。
「うおおおっ!」
涼介が長刀を振るい、正面から斬りかかる。
後方では紗栄が援護射撃を続け、兄を守るように弾幕を張っていた。
だが、相手は保科隼人。二人がかりでも圧倒されていた。
長刀はことごとく弾かれ、突撃砲は紙一重で回避される。
その度に火花と衝撃が夜を切り裂いた。
「くそっ……!」
涼介が歯を食いしばる。
「兄貴、なんでだよ! なんでこんなことに……!」
隼人は応じない。ただ機体を操り、二人の攻撃を受け止める。
だが――その手にはほんの一瞬の迷いが見えた。
(撃てない……あいつらを……俺の弟と妹を)
胸に突き上げる葛藤。
だが隼人は首を振る。
(いや……これでいい。この道が、あいつらを守る道だ。俺が犠牲になってでも、この国を変えれば……あいつが笑ってられる未来を手に入れられる)
「兄貴ぃぃッ!」
涼介の叫びが夜空に響く。
「勝手に決めるなよ! 俺は守られるだけの存在じゃねぇ! ずっと、隣に並びたかったんだ! 兄貴の背中を追いかけて……同じ高さで戦いたかったんだよ!」
その咆哮に、隼人の胸が揺れる。
「……涼介」
壱型丙のセンサーアイが淡く光り、静かな声が返る。
「俺は……お前を一人前の衛士だと認めている」
その言葉に涼介は息を呑む。
⸻
回想 ― 幻の500戦目
長岡基地、あの日。
涼介が珍しく演説めいたことを仲間にぶち上げ、皆の前で拳を突き上げた夜のことだった。
「なぁ涼介、じゃんけんしようぜ」
演説を終えて興奮顔の涼介と屋上で小林と話した後偶然出会いふと思いつきでじゃんけんに誘う隼人。
「はぁ?、じゃんけん?……急にどうした?」
呆れ顔の涼介。
佐渡にいた頃から続いていた二人の勝負は、いつの間にか長岡基地の日常の一部になっていた。
「じゃーんけーん……ぽん!」
掛け声と共に振り下ろした手。
隼人の手は――パー。
涼介の手は――チョキ。
「……え?」
隼人の目がわずかに見開かれる。
涼介がチョキを出すなど、今まで一度もなかった。
彼はいつも真っ直ぐ、考えなしにグーばかり。
それを読んで、隼人は勝てるはずの手を選んだ。
だが、負けた。
「は、初めて……勝ったかも」
涼介は呆けた顔で自分のチョキを見つめる。
「……あぁ、負けたな」
隼人は苦笑しながら答えた。
もっと喜ぶと思っていた。
だが涼介は手を振り払い、言い放つ。
「こんなんで勝っても嬉しくねぇ! ノーカンだ! やっぱり兄貴には実力で勝ちてぇからな!」
挑発めいた笑みを浮かべ、背を向ける。
「500戦目は……シミュレーターか直接対決だ! 首洗って待っとけよ!」
その背中を見送る隼人。
彼は心の中で決めていた。――この勝負に勝てば、自分は中隊に残り続ける、と。
だから読める勝負にした。勝てるはずだった。
だが運命の悪戯か、隼人は負けた。
たかがじゃんけん。
それでも、初めて涼介が自分を超えたと感じた瞬間だった。
(……あいつはもう大丈夫だ)
開いた自分の手のひらを見つめ、隼人は小さく呟く。
「もう……俺がいなくても」
笑みと共に滲む寂しさ。
その背に重なる影。
(最後に兄としてできることを……)
その時、隼人はクーデターに身を投じる決意を固めた。
涼介や紗栄の未来のために。
愛する仲間であり家族のために。
⸻
再び雪原へ
回想は霧のように溶け、現実が戻る。
吹雪の戦場。涼介の不知火が長刀を構え、隼人の壱型丙と向き合っていた。
紗栄の不知火が背後に構え、銃口を向ける。
「涼介……」
隼人は静かに告げる。
「兄としてではなく。最後に、一人の男として……お前と勝負する」
「……あぁ、絶対に止めてやる!」
涼介の瞳が燃える。
「500戦目……今ここでだ!」
「来い、涼介。俺の弟」
「覚悟しろ、隼人! 俺はお前を止める!」
二人の機体が火花を散らし、雪原で激突する瞬間を迎えようとしていた。