Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百四話 最終決戦 ― 兄弟の終焉

雪を割き、戦場の空が轟音で震えた。

涼介の不知火が長刀を構え、隼人の壱型丙へ正面から突進する。

紗栄は後方から必死に狙撃を続けるが、二人の動きはあまりにも速く、射線に割り込むことすらできなかった。

 

「チビ兄……!」

紗栄の声は焦燥に滲む。

だが彼女もわかっていた。これは二人の勝負。兄弟のように育った男たちの、500戦目にして最後の戦い。

 

 

ぶつかる魂

 

「はぁぁぁぁっ!」

涼介の長刀が閃く。

しかし壱型丙の動きは鋭かった。わずかに身を捻ると、刀身を受け止め、力任せに弾き返す。

 

「ぐっ!」

涼介の機体が後退する。

 

「まだだ!」

再び踏み込み、突き出した刃は空を裂くだけ。

一方の隼人は無駄なく応じ、長刀を流れるように繰り出す。

斬撃が連続し、涼介の不知火は必死に防ぐしかなかった。

 

「どうした涼介! まだその程度か!」

隼人の声は荒々しくも、どこか悲しげだった。

 

「うるせぇぇぇ!」

涼介が吠え、力任せに押し返す。

 

二機が雪原を抉りながら衝突を繰り返す。火花が散り、衝撃が夜を震わせる。

その光景を紗栄は息を呑んで見つめていた。

 

 

隼人は歯を食いしばる。

(本当は……こいつらを斬りたくなんかない。だが俺の選んだ道は……この血に塗れた道だけだ)

 

涼介と紗栄を守るために選んだクーデター。

だが今、そのために二人を自らの刃で追い詰めている。

 

「隼人……!」

涼介の声が胸を突いた。

 

「俺は守られる存在じゃねぇ! ずっと横に並びたかったんだ! 勝手に決めるなよ!」

 

その叫びに、隼人の心が震える。

だが彼は、押し殺すように応える。

「……涼介。俺を超えてみせろ。見せてみろ!お前の力そんなもんじゃないだろ!?……俺がもう居なくても戦える所を見せろ!」

 

 

涼介の咆哮

 

「ふざっけんなよ……!」

涼介の眼に怒りが宿る。

「俺は……あんたと一緒に未来を見たかったんだ! 一人で抱え込むんじゃねぇ! 俺も……俺も戦わせろ!」

 

刃と刃がぶつかり合い、甲高い悲鳴を上げる。

涼介は必死に押し返すが、壱型丙の力は圧倒的だった。

 

「はっ!」

隼人が機体を旋回させ、長刀を涼介の不知火へ振り下ろす。

 

「くっ……!」

咄嗟に長刀で受けるが、装甲が裂け、機体が揺れる。

 

「しまった!やられる……!」

涼介の目に死の影が迫った。

 

 

一瞬の狙撃

 

その瞬間、後方で紗栄がトリガーを引いた。

「だめぇぇぇぇっ!」

 

120mmの弾丸が夜を裂き、隼人の壱型丙へ一直線に飛ぶ。

ギリギリの回避。弾丸はコックピットを外れ、肩の装甲を掠めて火花を散らす。

 

「……紗栄」

隼人の心に、一瞬だけ迷いが生じた。

 

その刹那を、涼介は逃さなかった。

 

「これでぇぇぇぇっ!!」

 

咆哮と共に渾身の突撃。

長刀の刃が一直線に走り、壱型丙の胸を貫いた。

 

鋼を割る音と共に、コックピットの装甲が裂ける。

 

 

「がっ……!」

隼人の呼吸が途切れ、モニターに血が滲む。

 

「兄貴……!」

涼介の声が震えた。

 

「……やるな。涼介」

隼人は薄く笑みを浮かべた。

「……500戦目、お前の勝ちだ」

 

涼介の胸を、熱いものがこみ上げた。

「勝ちなんて……嬉しくねぇよ! 兄貴が生きてなきゃ……!」

 

「いや……嬉しいさ」

隼人は苦しげに言葉を紡ぐ。

「初めて……お前に、一人の衛士として涼介に負けたんだからな」

 

涼介は首を振る。

「ふざけんな……! まだ終わってねぇ! 一緒に帰るんだ!」

 

「……帰れ。お前と紗栄で……未来を掴め」

隼人の声は静かだった。

 

 

 

雪原に、沈黙が落ちた。

壱型丙は爆発せず、そのまま動きを止める。

内部で隼人の意識は薄れていく。

 

「兄貴ぃぃぃっ!」

涼介が涙を流しながら絶叫する。

 

紗栄も涙を流しながら叫んだ。

「隼人兄! お願いだから……!」

 

だが返るのは微笑だけだった。

 

「……あぁ。お前たちの背中……最後まで見せてもらった」

最後の力で呟き、隼人は目を閉じた。

 

 

雪が降り積もる中、残された壱型丙は静かに膝をつき、光を失っていた。

だが爆発もせず、形はそのまま残っている。

 

涼介は震える声で呟く。

「……兄貴。この機体は……俺が貰う。あんたの意思ごと、俺が戦い続ける」

 

涙を拭い、操縦桿を握りしめた。

 

紗栄が小さく頷く。

「隼人兄……安心して。紗栄たちは生き抜くから」

 

吹雪の中、二人の誓いを見届けるように、壱型丙は雪に包まれていった。

 

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