Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
雪を割き、戦場の空が轟音で震えた。
涼介の不知火が長刀を構え、隼人の壱型丙へ正面から突進する。
紗栄は後方から必死に狙撃を続けるが、二人の動きはあまりにも速く、射線に割り込むことすらできなかった。
「チビ兄……!」
紗栄の声は焦燥に滲む。
だが彼女もわかっていた。これは二人の勝負。兄弟のように育った男たちの、500戦目にして最後の戦い。
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ぶつかる魂
「はぁぁぁぁっ!」
涼介の長刀が閃く。
しかし壱型丙の動きは鋭かった。わずかに身を捻ると、刀身を受け止め、力任せに弾き返す。
「ぐっ!」
涼介の機体が後退する。
「まだだ!」
再び踏み込み、突き出した刃は空を裂くだけ。
一方の隼人は無駄なく応じ、長刀を流れるように繰り出す。
斬撃が連続し、涼介の不知火は必死に防ぐしかなかった。
「どうした涼介! まだその程度か!」
隼人の声は荒々しくも、どこか悲しげだった。
「うるせぇぇぇ!」
涼介が吠え、力任せに押し返す。
二機が雪原を抉りながら衝突を繰り返す。火花が散り、衝撃が夜を震わせる。
その光景を紗栄は息を呑んで見つめていた。
⸻
隼人は歯を食いしばる。
(本当は……こいつらを斬りたくなんかない。だが俺の選んだ道は……この血に塗れた道だけだ)
涼介と紗栄を守るために選んだクーデター。
だが今、そのために二人を自らの刃で追い詰めている。
「隼人……!」
涼介の声が胸を突いた。
「俺は守られる存在じゃねぇ! ずっと横に並びたかったんだ! 勝手に決めるなよ!」
その叫びに、隼人の心が震える。
だが彼は、押し殺すように応える。
「……涼介。俺を超えてみせろ。見せてみろ!お前の力そんなもんじゃないだろ!?……俺がもう居なくても戦える所を見せろ!」
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涼介の咆哮
「ふざっけんなよ……!」
涼介の眼に怒りが宿る。
「俺は……あんたと一緒に未来を見たかったんだ! 一人で抱え込むんじゃねぇ! 俺も……俺も戦わせろ!」
刃と刃がぶつかり合い、甲高い悲鳴を上げる。
涼介は必死に押し返すが、壱型丙の力は圧倒的だった。
「はっ!」
隼人が機体を旋回させ、長刀を涼介の不知火へ振り下ろす。
「くっ……!」
咄嗟に長刀で受けるが、装甲が裂け、機体が揺れる。
「しまった!やられる……!」
涼介の目に死の影が迫った。
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一瞬の狙撃
その瞬間、後方で紗栄がトリガーを引いた。
「だめぇぇぇぇっ!」
120mmの弾丸が夜を裂き、隼人の壱型丙へ一直線に飛ぶ。
ギリギリの回避。弾丸はコックピットを外れ、肩の装甲を掠めて火花を散らす。
「……紗栄」
隼人の心に、一瞬だけ迷いが生じた。
その刹那を、涼介は逃さなかった。
「これでぇぇぇぇっ!!」
咆哮と共に渾身の突撃。
長刀の刃が一直線に走り、壱型丙の胸を貫いた。
鋼を割る音と共に、コックピットの装甲が裂ける。
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「がっ……!」
隼人の呼吸が途切れ、モニターに血が滲む。
「兄貴……!」
涼介の声が震えた。
「……やるな。涼介」
隼人は薄く笑みを浮かべた。
「……500戦目、お前の勝ちだ」
涼介の胸を、熱いものがこみ上げた。
「勝ちなんて……嬉しくねぇよ! 兄貴が生きてなきゃ……!」
「いや……嬉しいさ」
隼人は苦しげに言葉を紡ぐ。
「初めて……お前に、一人の衛士として涼介に負けたんだからな」
涼介は首を振る。
「ふざけんな……! まだ終わってねぇ! 一緒に帰るんだ!」
「……帰れ。お前と紗栄で……未来を掴め」
隼人の声は静かだった。
⸻
雪原に、沈黙が落ちた。
壱型丙は爆発せず、そのまま動きを止める。
内部で隼人の意識は薄れていく。
「兄貴ぃぃぃっ!」
涼介が涙を流しながら絶叫する。
紗栄も涙を流しながら叫んだ。
「隼人兄! お願いだから……!」
だが返るのは微笑だけだった。
「……あぁ。お前たちの背中……最後まで見せてもらった」
最後の力で呟き、隼人は目を閉じた。
⸻
雪が降り積もる中、残された壱型丙は静かに膝をつき、光を失っていた。
だが爆発もせず、形はそのまま残っている。
涼介は震える声で呟く。
「……兄貴。この機体は……俺が貰う。あんたの意思ごと、俺が戦い続ける」
涙を拭い、操縦桿を握りしめた。
紗栄が小さく頷く。
「隼人兄……安心して。紗栄たちは生き抜くから」
吹雪の中、二人の誓いを見届けるように、壱型丙は雪に包まれていった。