Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百七話 涙の夜明け

「とりあえず今日は解散だ! 全員疲労も限界だろ! 休むのも軍人の務めだ! 解散!」

涼介の声が格納庫に響いた。

 

まだ涙を流している者もいたが、その言葉に仲間たちはハッと顔を上げる。

 

「メソメソすんな! 兄貴に笑われるぞ!」

 

彼の言葉に全員が袖で目を拭う。

涙の跡を隠せはしないが、その瞳には少しだけ光が戻っていた。

 

「キグナス中隊、整列!」

 

涼介の声に従い、全員が壱型丙の前に並ぶ。

漆黒の機体はなおも沈黙を保ったまま、そこに在った。

 

「誰がなんと言おうと、例えクーデターに参加しようが……保科隼人大尉は俺たちにとっての隊長だった! その功績と今までの感謝を込めて――敬礼!」

 

全員の右手が一斉に額へと上がり、壱型丙へ向けられる。

涙を拭ったばかりの顔に、真っ直ぐな視線が宿っていた。

 

「それじゃ解散! また追って連絡がある。それまで待機だ!」

 

「了解!」

揃った声が響き渡る。

 

それぞれが格納庫を出て行く中、涼介は最後まで皆を見送った。

最後に残った松本は壱型丙の前から動こうとせず、涼介が尻を軽く蹴って無理やり宿舎へ送り出した。

 

格納庫に静寂が戻る。

涼介は改めて壱型丙を見上げ、唇を噛み締めた。

 

「兄貴……」

 

⸻

 

 

「鍋島大尉……」

 

背後からかけられた声に振り返ると、青島が立っていた。

 

「青島……?」

 

名を呼んだ瞬間、青島は無言で涼介の手を取り、そのまま歩き出す。

導かれるようにして連れて行かれたのは、整備兵の休憩で使う小さな個室だった。

 

「ここなら誰も来ません。整備兵にも外れてもらっています」

 

淡々と説明しながら、青島は涼介をベンチに座らせた。

 

「もう……泣いてもいいですよ」

 

わずかに柔らかい笑みを浮かべながら、彼女は涼介の頭に手を置いた。

 

その瞬間、涼介の目から堰を切ったように涙が溢れた。

 

⸻

 

 

「兄貴を……あにぎを……俺がぁぁっ!」

 

嗚咽混じりの声が部屋に響き渡る。

「俺が殺しちまった……! 殺すつもりなんて……なかったのにぃ!」

 

子供のように泣きじゃくり、青島の胸に縋り付く涼介。

 

「止めたかっただけなんだ! 兄貴に勝って、倒して、連れ戻して……! またみんなで笑って、戦いたかったんだぁぁ!」

 

声を上げて泣き崩れる涼介の頭を、青島は優しく撫で続ける。

 

「辛かったですね……」

青島の瞳にも涙が浮かんでいた。

 

「なんで……なんで俺たちを置いて行っちまったんだよ……! 最後の勝負ってなんだよ! もっと……もっと兄貴と勝負したかったんだ! 一緒に……ずっと一緒に!」

 

感情の濁流が止まらない。

涼介は子供のように泣き喚き、溢れる思いを吐き出し続けた。

 

⸻

 

 

「大丈夫です」

青島はそっと涼介の頭を胸元に抱き寄せ、背中を優しく叩いた。

 

「思っていること、全部吐き出してください。今は……私が聞いています」

 

彼女の声は、いつもの冷静さを保ちながらも、柔らかい温度を持っていた。

 

涼介は泣きながら、心の奥底の弱音を吐いていく。

「俺なんかに……中隊長なんて務まんのかよ……! 兄貴みたいに、みんなを守れるわけねぇだろ……!」

「怖いんだ……また誰かを失うのが……」

「どうしたらいいかわかんねぇんだよ……」

 

普段の明るさも豪快さも消え、ただの一人の青年として、涼介は嗚咽を漏らす。

 

「……保科大尉は、あなたに未来を託したんです」

青島は静かに告げた。

「それを背負うのは重いことです。でも、あなたは一人ではありません。私たちが……みんながいます」

 

「葵ぃ……」

涼介は泣き疲れ、青島の胸に顔を埋めた。

 

⸻

 

 

どれほど泣き続けただろうか。

声は掠れ、体から力が抜け、涼介は青島の膝に頭を預けたまま眠りに落ちた。

 

青島はそっと彼の髪を撫でる。

「……お疲れ様です。鍋島大尉」

 

その瞳にも涙が光っていた。

彼女自身も、涼介と隼人の絆を間近で見続けてきた。

それを断ち切らざるを得なかった弟の痛みを思えば、胸が裂けそうだった。

 

やがて青島も涼介の寝顔を見つめながら眠りに落ちる。

二人は整備兵が戻ってくるまで、静かに寄り添って眠っていた。

 

太陽が完全に昇り、戦場の痕を白い光で覆い隠す中、彼らはほんの束の間の安らぎを手に入れたのだった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
思ったよりも沢山の方々に読んでいただけて感無量です。
結構読んでいただけてる方も多くなってきたので設定資料集など作ってみようかなとか考えていました。
一応各キャラの立ち絵や細かい設定なんかもあるのでどうかなと思いつつ不安なのでアンケート取らせていただきます。
よかったらご参加ください。
また評価をつけてくださった方々ありがとうございます。
高い評価をいただき嬉しくて毎日ニヤニヤしております。
感想なども随時募集中しておりますのでよろしくお願いします。
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