Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百九話 隼人の遺書

翌朝、ブリーフィングルームに全員が集まっていた。

涼介から「全員集合」との号令がかかってのことだが、肝心の本人の姿が見えない。

 

「ナベさん呼び出しといて、いねぇじゃねぇか!」

苛立ち気味に雁部が声を荒げる。

 

「雁部少尉、落ち着いてください。まだ来たばかりじゃないですか……」

松原が宥めるように言った時、ようやく扉が開いた。

 

「わりぃ、待たせたな」

 

涼介が大きな段ボールを抱えて現れる。

「お、ナベさん! 遅せぇよ!」

雁部が不満を口にするが、涼介は応えずに机の上へと段ボールを置いた。

 

「よっと」

ドンッと音が響き、全員の視線が箱へと集まる。

 

「チビ兄……その箱は?」

紗栄が恐る恐る問いかけた。

 

涼介は短く息を吸い込み、静かに答えた。

「……兄貴の遺品だ。兄貴の部屋に残ってた物を整理して持ってきた」

 

その言葉に、全員が黙り込む。

あらためて突きつけられる現実。

もう保科隼人はいない――その事実が胸を抉った。

 

涼介は段ボールから一通の封筒を取り出す。

「兄貴の遺書もあった。……読ませてもらう」

 

部屋の空気が張り詰める。

 

 

保科隼人の遺書

 

「レッドキグナス中隊のみんな。これを読んでいるということは、俺はもうこの世にはいないのだろう。

みんなにはすまないと思う。言い訳はしない。

 

今の政府のもとで、お前らが擦り潰されていくこと。この国の行末を考えたときに、どうしても行動を起こさずにはいられなかった。

俺がすべて自分でやらなければならないわけじゃないが、そういう性分なんだ。自分勝手な行動と怒る者もいるだろうが、すまない。

 

自分勝手ついでに、お前らには全員無事で生き残って、笑っていて欲しい。

 

最後になるが、俺の部屋の物は必要があれば使ってくれ。

これからもレッドキグナス中隊の武運長久を祈る。

 

先に行っているが、お前らはゆっくり来い。

 

――保科隼人」

 

涼介が読み終えると、誰もが言葉を失った。

重苦しい沈黙の中、まず口を開いたのは富田だった。

 

 

「保科大尉……勝手すぎるっけね……」

富田は腕を組みながら、涙を流す。

 

「ホカ大尉……」

「保科大尉……」

松本と松原は名前を呼びながら嗚咽を漏らす。

 

「隼人兄のバカァ」

「こんな可愛い妹を残して……」

紗栄は声を上げ、大友に抱きついて泣いた。

 

「馬鹿野郎が……笑えるかよ……」

岸本は壁に拳を叩きつけながら歯を食いしばり、その目からも涙が溢れていた。

 

前園は無言で、頬を伝う涙を拭おうともしなかった。

 

「バカヤベーよ……涙止まらねぇじゃねぇか……」

雁部は腕で目をゴシゴシ擦るが、涙は次から次へと流れる。

 

「もう一緒に一服できないんですね……大尉……」

小川の声も震え、堪えきれず涙が頬を濡らした。

 

気づけば全員が泣いていた。

 

 

「テメェら! いつまでもメソメソしてんじゃねぇ!」

涼介の怒号が響いた。

「兄貴は笑っていて欲しいって言ってんだ! 泣いてんじゃねぇ! 兄貴が安心して見てられるように……笑え!」

 

声を張り上げる涼介の目も真っ赤だったが、涙は流さなかった。

 

「チビ兄……」

紗栄が顔を上げる。

 

「鍋島……ちゅ……た、大尉……」

大友も涙の中で言葉を紡いだ。

 

「ナベさん、笑えって……この状況じゃバカヤベーよ……」

雁部は無理やり笑顔を作り、肩を揺らした。

 

「さっき大友少尉、中尉って言いかけてましたよね?」

松原がツッコミを入れる。

 

「あれは……まだ慣れてなくてさ。突撃バカの熱血中尉の印象が強くて……あ、もう大尉か?」

大友の返しに笑いが起きた。

 

涙の中に、少しずつ笑顔が戻る。

 

 

 

「今は無理矢理でも……笑って兄貴を送ろうぜ」

涼介はニッと笑ってみせた。

 

「鍋島、お前も泣きそうだっけね! あ、もう大尉だから敬語で話した方がいいでありますか、大尉殿?」

富田が茶化し、再び笑いが起きる。

 

「うるせぇよ富田! 俺だってまだ慣れてねぇんだ!」

涼介は頭を掻きながらも、表情を引き締めた。

 

「……俺が兄貴の意志を継いで、この隊を率いることになる。兄貴みたいには出来ねぇし、お前らに迷惑をかけることも多いと思う。……だけど、俺は兄貴のいたこの隊で最後まで戦い抜いてやる。全員で笑ってる未来を、兄貴に見せてやろうぜ!」

 

「了解!!」

9人の声が揃う。

 

その声は、涙で震えながらも力強く響いた。

 

こうして、レッドキグナス中隊は新たな中隊長・鍋島涼介大尉のもとで再び歩み出す。

保科隼人という大きな背中を失った痛みは消えない。

だがその痛みを抱えたまま、彼らは新たな空へと飛び立つ覚悟を決めたのだった。

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