Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
翌朝、ブリーフィングルームに全員が集まっていた。
涼介から「全員集合」との号令がかかってのことだが、肝心の本人の姿が見えない。
「ナベさん呼び出しといて、いねぇじゃねぇか!」
苛立ち気味に雁部が声を荒げる。
「雁部少尉、落ち着いてください。まだ来たばかりじゃないですか……」
松原が宥めるように言った時、ようやく扉が開いた。
「わりぃ、待たせたな」
涼介が大きな段ボールを抱えて現れる。
「お、ナベさん! 遅せぇよ!」
雁部が不満を口にするが、涼介は応えずに机の上へと段ボールを置いた。
「よっと」
ドンッと音が響き、全員の視線が箱へと集まる。
「チビ兄……その箱は?」
紗栄が恐る恐る問いかけた。
涼介は短く息を吸い込み、静かに答えた。
「……兄貴の遺品だ。兄貴の部屋に残ってた物を整理して持ってきた」
その言葉に、全員が黙り込む。
あらためて突きつけられる現実。
もう保科隼人はいない――その事実が胸を抉った。
涼介は段ボールから一通の封筒を取り出す。
「兄貴の遺書もあった。……読ませてもらう」
部屋の空気が張り詰める。
⸻
保科隼人の遺書
「レッドキグナス中隊のみんな。これを読んでいるということは、俺はもうこの世にはいないのだろう。
みんなにはすまないと思う。言い訳はしない。
今の政府のもとで、お前らが擦り潰されていくこと。この国の行末を考えたときに、どうしても行動を起こさずにはいられなかった。
俺がすべて自分でやらなければならないわけじゃないが、そういう性分なんだ。自分勝手な行動と怒る者もいるだろうが、すまない。
自分勝手ついでに、お前らには全員無事で生き残って、笑っていて欲しい。
最後になるが、俺の部屋の物は必要があれば使ってくれ。
これからもレッドキグナス中隊の武運長久を祈る。
先に行っているが、お前らはゆっくり来い。
――保科隼人」
涼介が読み終えると、誰もが言葉を失った。
重苦しい沈黙の中、まず口を開いたのは富田だった。
⸻
「保科大尉……勝手すぎるっけね……」
富田は腕を組みながら、涙を流す。
「ホカ大尉……」
「保科大尉……」
松本と松原は名前を呼びながら嗚咽を漏らす。
「隼人兄のバカァ」
「こんな可愛い妹を残して……」
紗栄は声を上げ、大友に抱きついて泣いた。
「馬鹿野郎が……笑えるかよ……」
岸本は壁に拳を叩きつけながら歯を食いしばり、その目からも涙が溢れていた。
前園は無言で、頬を伝う涙を拭おうともしなかった。
「バカヤベーよ……涙止まらねぇじゃねぇか……」
雁部は腕で目をゴシゴシ擦るが、涙は次から次へと流れる。
「もう一緒に一服できないんですね……大尉……」
小川の声も震え、堪えきれず涙が頬を濡らした。
気づけば全員が泣いていた。
「テメェら! いつまでもメソメソしてんじゃねぇ!」
涼介の怒号が響いた。
「兄貴は笑っていて欲しいって言ってんだ! 泣いてんじゃねぇ! 兄貴が安心して見てられるように……笑え!」
声を張り上げる涼介の目も真っ赤だったが、涙は流さなかった。
「チビ兄……」
紗栄が顔を上げる。
「鍋島……ちゅ……た、大尉……」
大友も涙の中で言葉を紡いだ。
「ナベさん、笑えって……この状況じゃバカヤベーよ……」
雁部は無理やり笑顔を作り、肩を揺らした。
「さっき大友少尉、中尉って言いかけてましたよね?」
松原がツッコミを入れる。
「あれは……まだ慣れてなくてさ。突撃バカの熱血中尉の印象が強くて……あ、もう大尉か?」
大友の返しに笑いが起きた。
涙の中に、少しずつ笑顔が戻る。
⸻
「今は無理矢理でも……笑って兄貴を送ろうぜ」
涼介はニッと笑ってみせた。
「鍋島、お前も泣きそうだっけね! あ、もう大尉だから敬語で話した方がいいでありますか、大尉殿?」
富田が茶化し、再び笑いが起きる。
「うるせぇよ富田! 俺だってまだ慣れてねぇんだ!」
涼介は頭を掻きながらも、表情を引き締めた。
「……俺が兄貴の意志を継いで、この隊を率いることになる。兄貴みたいには出来ねぇし、お前らに迷惑をかけることも多いと思う。……だけど、俺は兄貴のいたこの隊で最後まで戦い抜いてやる。全員で笑ってる未来を、兄貴に見せてやろうぜ!」
「了解!!」
9人の声が揃う。
その声は、涙で震えながらも力強く響いた。
こうして、レッドキグナス中隊は新たな中隊長・鍋島涼介大尉のもとで再び歩み出す。
保科隼人という大きな背中を失った痛みは消えない。
だがその痛みを抱えたまま、彼らは新たな空へと飛び立つ覚悟を決めたのだった。