Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百十話 受け継がれるもの

翌日、レッドキグナス中隊の面々は再びブリーフィングルームに集まっていた。

机の上には段ボールが並べられ、その中には保科隼人が使っていた品々が収められている。

 

「……兄貴の部屋から出てきたものだ。必要なやつがいれば、持っていってくれ」

涼介がそう告げると、全員の視線が箱に注がれた。

 

最初に手を伸ばしたのは涼介自身だった。

彼が手に取ったのは、長年使い込まれた銀色の煙草ケース。擦り傷だらけだが、光を当てればまだ鈍く輝いている。

 

「兄貴の匂いが染みついてるな……」

そう呟きながらポケットに収めた。

 

「おいおい、喫煙組の俺らの分は?」

雁部がニヤリと笑って割り込む。

 

「心配すんな。ライターがある」

小川が別の箱からオイルライターを見つけて手を挙げる。

 

「お、それは俺が!」

「いや、俺だろ!」

 

喫煙組の雁部と富田、小川が取り合いになり、その場で小さなじゃんけん勝負が始まった。

結果、小川が見事に勝ち取り、ライターを掲げてガッツポーズを見せる。

 

「ずりぃぞ小川さん! またライターまでキメやがって!」

「運も実力のうちってやつだな」

そんな言い合いに、部屋の空気が少し和んだ。

 

 

それぞれの遺品

 

松本がそっと取り出したのは、隼人が使っていた整備マニュアル。ページの端には細かい字で注意点や独自の戦闘経験が書き込まれていた。

 

「……ホカ大尉、やっぱり細かぇ……」

苦笑しながらも、目には涙が浮かんでいる。

 

松原が手にしたのは、隼人が訓練時に使っていたゴーグル。

「これ、訓練の時に使わせてもらいます。……保科大尉の視界を、僕も少しでも」

 

岸本は何気なく工具セットを選んだ。

「アイツ、戦術機の手入れにはうるせぇからな……。こいつで俺も、不知火を壊さねぇように見とく」

 

前園は整然と並んだカップとマグの中から、使い込まれた湯呑を手に取った。

「夜中、よく一緒に飲んでたんだ。……これで、また一緒に飲むよ」

 

大友は一冊のノートを拾い上げた。中には短い日記や心情の走り書きがある。

「……誰よりも背負ってたんですね、大尉は。私、読みながら考えます。これからどうするか」

 

紗栄は兄の写真が挟まれた小さなアルバムを抱きしめた。

「隼人兄……ずっと忘れない」

 

こうして一つひとつ、遺品は仲間たちの手に渡っていった。

重さはそれぞれ違えど、その品に込められた想いは同じだった。

 

 

墓標

 

数日後、長岡基地の外れ。

ひっそりとした丘に、小さな墓標が建てられていた。

 

クーデターに参加しようとした者に公式の墓を建てることは出来ない。

だが、長年の功績と人柄を知る者たちの尽力により、非公式ながら追悼の場が設けられたのだ。

 

その前に、レッドキグナス中隊全員が整列していた。

涼介が一歩前に出る。

 

「兄貴……保科隼人大尉。あんたはクーデターに身を投じた。でも俺たちは知ってる。あんたが最後までこの国を、俺たちを想っていたことを」

 

声は震えていたが、しっかりと響いた。

 

「この中隊は……俺が率いる。兄貴のようには出来ねぇかもしれねぇ。だけど必ず、生きて帰って、笑って生き抜いてみせる」

 

涼介の言葉に、全員が次々と続いた。

 

「大尉、俺……もっと一服したかったよ……」雁部。

「もっと一緒に美味しいもの食べたかったっけね……」富田。

「また訓練でアドバイス欲しかったですよ」小川。

「……バカヤロウ、死んでんじゃねぇよ」岸本。

 

涙を拭いながら、それぞれが報告を重ねていく。

 

やがて全員の声が揃った。

「――見ていてください、大尉。俺たちはまだ戦い続けます」

 

静かな雪が降り積もり、墓標を白く染めていく。

誰もが胸に重いものを抱えていたが、その瞳は確かに前を向いていた。

 

 

新たな誓い

 

帰り際、涼介は墓標に一礼した。

「兄貴……これからも、見ててくれ。俺たちの戦いを」

 

振り返ると、仲間たちも同じように一礼していた。

悲しみは消えない。だが、その悲しみを背負ったまま歩く覚悟が、この場にいる全員に宿っていた。

 

こうしてレッドキグナス中隊は、新たな日々を踏み出す。

保科隼人という大きな存在を胸に刻みながら――。

 

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