Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百十一話 継承

数週間後、長岡基地のハンガーにはかつて保科隼人が駆った壱型丙が立っていた。

機体各所に刻まれた傷跡はまだ生々しい。しかし、熟練の整備兵たちが昼夜を惜しまず修復を続け、今は再び戦場に立てる姿を取り戻していた。

 

涼介はその姿を見上げ、深く息を吐いた。

胸に浮かぶのは兄貴分の笑顔と、最期に交わした激闘の記憶。

 

「……修理は、完了したんだな」

涼介の問いに、整備班長が頷いた。

 

「はい。いつでも稼働可能です。ただ……やはり特注の壱型丙、扱いは難しいでしょう」

 

「問題ねぇ。……これは俺が乗る」

 

静かながらも力強い言葉がハンガーに響いた。

 

その場にいたレッドキグナス中隊の仲間たちは一斉に涼介を見つめた。

全員が知っている。壱型丙は保科隼人の象徴だった。

その機体を受け継ぐ――それは保科の遺志を継ぐという宣言に他ならない。

 

「チビ兄……」

紗栄の瞳が揺れた。

 

「兄貴の機体だ。けどもう兄貴はいねぇ。だったら俺が……俺が兄貴の想いごと、この壱型丙を背負って戦う!」

 

⸻

 

習熟訓練

 

「でも……本当に扱えるんですか?」

松原が不安げに口にする。

 

「そうだな。一回だけ兄貴に乗せてもらった事はあるが、まずは慣れるところからだ。シミュレーターを使う」

 

涼介の言葉に、全員が頷いた。

 

その日の午後、シミュレーター室に集まった中隊員たち。

涼介は壱型丙仕様のデータに接続されたシートに乗り込む。

スクリーンに戦術機のHUDが映し出されると同時に、あの日の記憶が鮮明によみがえる。

兄貴との最終決戦、振るわれた斬撃の重み。

 

「……負けねぇよ。絶対に」

 

通信越しに小川が声を掛ける。

「鍋島大尉、試運転ってことで俺が相手しますよ」

 

「望むところだ。来い、小川中尉!」

 

涼介の相手を買って出る小川。

あえてお互いに新しい階級で呼び合う。

 

⸻

 

模擬戦開始

 

カウントダウンが鳴り、シミュレーター空間に映し出された市街地のステージ。

涼介の壱型丙が跳躍ユニットを噴かし、鋭く飛び出した。

 

「くっ……! 速い!」

小川の不知火が必死に追いすがるが、壱型丙の加速は圧倒的だった。

 

しかし、力任せに振るうだけでは振り回される。

実際、最初の数合は軌道がぶれて回避も不十分だった。

 

「……これが兄貴の機体……やっぱ振り回される!」

涼介は必死に感覚を掴もうとする。

跳躍、旋回、長刀の抜き打ち。

全てが不知火とは違う挙動で、わずかなズレが致命傷に繋がる。

 

「鍋島大尉! まだまだ雑ですよ!」

小川の突撃砲が火を吹く。涼介はギリギリで回避し、跳躍ユニットを吹かす。

 

「分かってる……けど、負けられねぇ!」

 

何度も転倒しそうになりながらも、徐々に機体が身体に馴染んでいく。

兄貴が最後に見せた機動。あれを、俺も――。

 

⸻

 

手応え

 

「はあああぁっ!」

涼介が吠え、跳躍からの急降下斬撃を繰り出す。

 

「っ、危ねぇ!」

小川は短刀で受け止めるが、衝撃で大きく後退させられた。

 

「やっと本領発揮ですか……!」

小川の顔に笑みが浮かぶ。

 

「兄貴の壱型丙……確かに強ぇ。でもな、これからは俺が乗りこなしてやる!」

 

次の瞬間、涼介の壱型丙は小川の背後に回り込み、突撃砲を突きつけた。

 

「勝負ありだ、小川!」

 

シミュレーション終了のアラートが鳴り響く。

 

⸻

 

仲間の声

 

シュミレーターから出た涼介に、仲間たちが拍手を送った。

 

「……やっぱナベさんだな」

雁部が笑う。

 

「保科大尉も安心してるっけ」

富田が頷く。

 

「まだまだ荒い所はありますけどね」

小川が肩を竦めながらも、誇らしげな表情を浮かべる。

 

「大丈夫だ。これからは俺たち全員で、この壱型丙をレッドキグナスの象徴にしてやろうぜ」

涼介の声に全員が頷いた。

 

紗栄は隼人の面影をその背中に見ながら、静かに呟いた。

「チビ兄……今、少しだけ隼人兄っぽかった。……やっぱりチビ兄がこの隊の隊長だよ」

 

⸻

 

新たな象徴

 

ハンガーに戻った壱型丙は、かつてのように沈黙して佇んでいた。

だが、その背に託された想いは今も脈打ち続けている。

 

保科隼人の魂と共に――鍋島涼介が、新たな未来へとこの機体を駆る。

 

それが、レッドキグナス中隊の新たな象徴となるのだった。

 

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