Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「鍋島大尉……お願いします!」
真里奈は真っ直ぐ涼介の目を見て、深々と頭を下げた。
「……また俺かよ。モテる男は辛いねぇ」
おどける涼介。しかしその目は真剣に真里奈を射抜いている。
「別に俺でもいいけどよ……多分、何もさせねぇぞ。それでもやんのか?」
急に張り詰めた空気。涼介の威圧に、一瞬怯んだ真里奈。だがすぐに睨み返し、声を振り絞った。
「は、はい! 姉の認めた人……鍋島大尉の力を、体験させてください!」
沈黙の後、涼介は肩を竦めて移動し始めた。
「ま、いいか。なら準備してさっさと始めんぞ。――言っとくが、俺は真凜大尉じゃねぇ。期待すんなよ」
「はい! よろしくお願いします!」
真里奈は緊張を振り払うように、大きな声で答えた。
⸻
開戦
シミュレーターに転送された雪原フィールド。
開始のカウントがゼロになると同時に、涼介の壱型丙が火の玉のように突っ込む。
「よっしゃあ! 行くぜぇ!」
突撃砲も使わず、ただひたすらに真っ直ぐ。
「はやっ――!」
真里奈は咄嗟に長刀を構えたが、視界に映るのは閃光のような長刀だけだった。
一閃。
衝撃と共に機体が仰け反り、システム音が響く。
《白鳥真里奈、撃墜》
「……はい終わりっと」
涼介は何事もなかったようにシミュレーターから降りてきた。
「ナベさん、大人気ねぇよ……」
雁部が苦笑して肩を竦める。
「新兵相手に、あれはトラウマ物ですよ」
松原が呆れたように言い、紗栄も腕を組んで小言を漏らした。
「チビ兄、やりすぎだよ……」
「うるせぇ! あれが真凜大尉の戦い方なんだよ。真っ直ぐ行って、真っ直ぐ斬る。それだけだ!」
涼介はぶっきらぼうに言い切る。
遅れてシミュレーターから出てきた真里奈は、額に汗を浮かべながらも深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございました……。あれが……姉の戦い方……」
その戸惑いと畏敬の入り混じった声に、中隊員たちは沈黙した。
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「小川! お前ならどうする?」
突然涼介が問いかける。
「え、俺ですか?」
不意に振られた小川は少し考え、冷静に答えた。
「……鍋島大尉があの速度で突っ込んできたら、俺なら120mmで撃ち落とします。それで終わりです」
「ぷっ……確かに」
岸本が吹き出し、富田も頷く。
「確かに冷静に考えたらそうだっけ! 突っ込んでくる鍋島程、読みやすいヤツはいないっけ」
一気に場が和み、全員が笑い出した。
⸻
「……それが答えだ」
涼介の声で笑いは止まった。
「俺みたいなバカ正直な突撃、普通ならしねぇ。だがな――戦場じゃ、ビビった奴から死ぬんだ。真里奈、お前の動きは……今のままじゃ“ビビってる”だけだ」
「……っ!」
真里奈は言葉を失った。
松本が思い出したように呟く。
「確かに……デストロイヤー級の突撃とか、あんな感じだよね」
「茶化すな松本!」
涼介が一喝する。
「正直に言う。真凜大尉なら突撃しながらも躱すし、BETAも血祭りにあげてくる。俺にはそんな芸当できねぇ!」
涼介は自信満々に言い放った。
「な、何故ですか? 鍋島大尉は中隊長ですし、姉が認めた衛士の筈です!」
真里奈が食い下がる。
「……あのなぁ。俺の戦術機適性はB-だぞ。実際の操縦技術だけなら、隊でも下の方だ」
その言葉に、室内の空気が凍りついた。
⸻
「……はぁ? うそだろ」
雁部が目を丸くし、富田が「マジっけ?」と呟く。
「でも……さっきの突撃は……」
松原が口ごもる。
涼介は苦笑し、仲間を見渡した。
「だからこそ俺は、真っ直ぐ突っ込むしかねぇんだよ。それが俺の戦い方だ……俺が今生きてんのは優秀な仲間に囲まれてたからだ!だからお前も早く成長してそうなってくれ!」
沈黙の中、真里奈は拳を握りしめ、涼介を真っ直ぐに見つめた。
――姉の認めた人は、強さだけじゃなく、自分を偽らない人だった。
やがて涼介は肩を竦めて笑い、場を和ませるように声を張った。
「さぁ! 歓迎会の模擬戦はここまでだ! 次は実戦でお前らの力を見せてもらうぞ!」
仲間たちは息をつき、笑いと共に緊張を解いた。
しかし真里奈の胸には、涼介の言葉が深く刻み込まれていた。