Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
模擬戦の熱気も冷め、夕暮れが長岡基地を赤く染め始めていた。
喫煙所の鉄製ベンチには、涼介、富田、小川、雁部の四人が並んで腰掛けていた。紫煙がゆっくりと宙に広がっていく。
「ふぅ……一戦やった後の一服はやっぱ最高だな」
涼介が銀の煙草ケースを指で弾きながら、煙を吐き出した。
「でも……四人になっちまったっけね」
富田がぽつりと呟く。その横顔はどこか寂しげだった。
「……妙に広く感じますよ」
小川も煙を吐きながら同意する。普段なら賑やかだった喫煙所も、今は空白が際立っていた。
「保科の兄さん、隙があれば吸ってたもんなぁ」
雁部が少し笑って言うが、その声にも陰が混じっていた。
しばし沈黙。紫煙だけが風に流れていく。
⸻
「……お前ら、死ぬなよ」
涼介が唐突に呟いた。
「俺は一人でも吸いに来るけど、寂しいのは嫌だぜ」
その一言に、三人は一瞬きょとんとし、次の瞬間爆笑した。
「いやいや! 一番死にそうなのはナベさんだぜ、バカヤベー!」
雁部が腹を抱える。
「確かに。戦術機適正B-って、普通ならとっくに死んでる数値ですよね」
小川が冷静に突っ込みを入れる。
「もういなくなっててもおかしくないのによく生き残ってたっけね」
富田まで真顔で言い、また笑いが起きる。
「……うるせぇよ!」
涼介は肩を竦めながらも笑みを浮かべる。
「でも正直な、初陣から死にかけた場面は何度もあった。結構ヤバい時もあったけど……兄貴のフォローのお陰だろうな……」
紫煙を吐き、天を仰ぐ涼介。笑い声が消え、三人の目が自然と真剣になる。
「今度からは……俺たちが支えますから!」
小川が力強く言った。
「そうだっけ。後ろは任せるっけ!」
富田が涼介の肩を叩く。
「俺と組んでる限り、ナベさんは死なねぇよ! 任せとけ!」
雁部も拳を突き出す。
涼介も笑いながらその拳を合わせた。
「……俺が死んだらテメェらのせいだからな! 頼むぜ!」
「なんとも情けねぇこと言う中隊長だなぁ!」
再び笑い声が広がり、重苦しい空気はどこかへ消えていった。
⸻
煙草も短くなり、灰皿に押し込もうとした時だった。
涼介がふと呟いた。
「……兄貴もそろそろニコチン切れてんじゃねぇか?」
「ベビースモーカーでしたからね。とっくに切れてますよ」
小川が呆れたように答える。
「なら墓参りがてら届けてやっか?」
雁部がふと思いついたように言った。
「それいいっけね。墓前に線香代わりの煙草、上げに行くっけ!」
富田が即座に便乗する。
「よし、決まりだ。……行くか」
涼介が立ち上がり、四人は並んで歩き出した。
⸻
墓前にて
長岡基地の外れに設けられた慰霊碑の前。
そこに保科隼人の名が刻まれていた。
四人は静かに並び立ち、涼介が銀の煙草ケースを取り出す。
「……兄貴。これでも吸いながら、俺らの活躍を見守っててくれよ」
小川から借りた隼人のオイルライターで火を点け、ひと吸いしてから墓前に煙草を供える。
続いて小川が一歩前に出る。
「保科大尉。オイルライター、大事にします。……キグナス中隊のことは、任せてください」
富田も火をつけ、墓に置いた。
「俺たちはまだ、そっちに行けそうにないけど……またいつか、一緒に一服したいっけね」
最後に雁部。
「なんかあるたびに一本持ってくるからよ。今日のところはこれで勘弁な」
四本の煙草が墓前に立ち並び、白い煙を真っ直ぐに空へ昇らせる。
それはまるで、亡き隼人に届く祈りのようだった。
⸻
「……また四人で来ようぜ」
涼介が静かに言った。
「おう」
「了解だっけ」
「任せろ」
三人の声が重なり、四人の拳がひとつに合わさった。
その背中を、冬の冷たい風と、紫煙の匂いが優しく押していた。