Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百十六話 煙の誓い

模擬戦の熱気も冷め、夕暮れが長岡基地を赤く染め始めていた。

喫煙所の鉄製ベンチには、涼介、富田、小川、雁部の四人が並んで腰掛けていた。紫煙がゆっくりと宙に広がっていく。

 

「ふぅ……一戦やった後の一服はやっぱ最高だな」

涼介が銀の煙草ケースを指で弾きながら、煙を吐き出した。

 

「でも……四人になっちまったっけね」

富田がぽつりと呟く。その横顔はどこか寂しげだった。

 

「……妙に広く感じますよ」

小川も煙を吐きながら同意する。普段なら賑やかだった喫煙所も、今は空白が際立っていた。

 

「保科の兄さん、隙があれば吸ってたもんなぁ」

雁部が少し笑って言うが、その声にも陰が混じっていた。

 

しばし沈黙。紫煙だけが風に流れていく。

 

⸻

 

 

「……お前ら、死ぬなよ」

涼介が唐突に呟いた。

「俺は一人でも吸いに来るけど、寂しいのは嫌だぜ」

 

その一言に、三人は一瞬きょとんとし、次の瞬間爆笑した。

 

「いやいや! 一番死にそうなのはナベさんだぜ、バカヤベー!」

雁部が腹を抱える。

 

「確かに。戦術機適正B-って、普通ならとっくに死んでる数値ですよね」

小川が冷静に突っ込みを入れる。

 

「もういなくなっててもおかしくないのによく生き残ってたっけね」

富田まで真顔で言い、また笑いが起きる。

 

「……うるせぇよ!」

涼介は肩を竦めながらも笑みを浮かべる。

「でも正直な、初陣から死にかけた場面は何度もあった。結構ヤバい時もあったけど……兄貴のフォローのお陰だろうな……」

 

紫煙を吐き、天を仰ぐ涼介。笑い声が消え、三人の目が自然と真剣になる。

 

「今度からは……俺たちが支えますから!」

小川が力強く言った。

 

「そうだっけ。後ろは任せるっけ!」

富田が涼介の肩を叩く。

 

「俺と組んでる限り、ナベさんは死なねぇよ! 任せとけ!」

雁部も拳を突き出す。

 

涼介も笑いながらその拳を合わせた。

「……俺が死んだらテメェらのせいだからな! 頼むぜ!」

 

「なんとも情けねぇこと言う中隊長だなぁ!」

再び笑い声が広がり、重苦しい空気はどこかへ消えていった。

 

⸻

 

 

煙草も短くなり、灰皿に押し込もうとした時だった。

涼介がふと呟いた。

「……兄貴もそろそろニコチン切れてんじゃねぇか?」

 

「ベビースモーカーでしたからね。とっくに切れてますよ」

小川が呆れたように答える。

 

「なら墓参りがてら届けてやっか?」

雁部がふと思いついたように言った。

 

「それいいっけね。墓前に線香代わりの煙草、上げに行くっけ!」

富田が即座に便乗する。

 

「よし、決まりだ。……行くか」

涼介が立ち上がり、四人は並んで歩き出した。

 

⸻

 

墓前にて

 

長岡基地の外れに設けられた慰霊碑の前。

そこに保科隼人の名が刻まれていた。

 

四人は静かに並び立ち、涼介が銀の煙草ケースを取り出す。

「……兄貴。これでも吸いながら、俺らの活躍を見守っててくれよ」

 

小川から借りた隼人のオイルライターで火を点け、ひと吸いしてから墓前に煙草を供える。

 

続いて小川が一歩前に出る。

「保科大尉。オイルライター、大事にします。……キグナス中隊のことは、任せてください」

 

富田も火をつけ、墓に置いた。

「俺たちはまだ、そっちに行けそうにないけど……またいつか、一緒に一服したいっけね」

 

最後に雁部。

「なんかあるたびに一本持ってくるからよ。今日のところはこれで勘弁な」

 

四本の煙草が墓前に立ち並び、白い煙を真っ直ぐに空へ昇らせる。

それはまるで、亡き隼人に届く祈りのようだった。

 

⸻

 

 

「……また四人で来ようぜ」

涼介が静かに言った。

 

「おう」

「了解だっけ」

「任せろ」

 

三人の声が重なり、四人の拳がひとつに合わさった。

 

その背中を、冬の冷たい風と、紫煙の匂いが優しく押していた。

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