Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百十七話 新しきキグナスの日々

模擬戦での敗北を経て、白鳥真里奈は誰よりも早く訓練場に姿を見せるようになった。

その背中を、涼介は無言で見つめる。

 

「おい、真里奈!」

「は、はいっ!」

 

びくりと肩を揺らす彼女に、涼介は眉をひそめる。

「ビビんな。お前は白鳥真凜の妹じゃねぇ。ここにいるのは“白鳥真里奈”だ。真凜大尉の影を追うんじゃなく、自分の動きを見極めろ」

 

「……でも、私は姉のように――」

 

「バカヤロウ!」

涼介の声が響く。

「テメェは強襲掃討だろ!突撃前衛の真似事して突っ込んで死なれたら、隣の仲間が危険になんだぞ! 俺は、もう仲間を死なせたくねぇんだよ……」

 

その眼差しは厳しくも真剣で、真里奈は息を呑んだ。

涼介は背を向けると、ただ一言だけ残す。

「……死にてぇなら好きにしろ。でも生きて隣で戦いたいなら、まずは俺を越えてみせろ……」

 

真里奈は悔し涙をこらえ、強く頷いた。

 

 

 

そんな彼女を陰で支えたのは、同じ“妹”の立場にいる鍋島紗栄だった。

 

「真里奈ちゃん、大丈夫?」

「え……」

「チビ兄に怒鳴られると、胸の奥がズキッてするんだよね。わかるよ」

 

紗栄はにこりと笑い、彼女の手を握った。

「私もね、チビ兄に怒鳴られたり、泣いたりして……でも、それがあったから強くなれたんだ」

 

「紗栄少尉……」

「だから大丈夫! 一緒に頑張ろ!」

 

その言葉に真里奈は初めて安堵の笑みを浮かべた。

 

 

 

夜、女子宿舎の一室。大友が淹れたインスタントコーヒーの香りが漂っていた。

 

「さて、新入り歓迎女子会でもやりますか!」

大友がにっこり笑えば、静も腕を組んで頷く。

「そうそう、男共はほっといて私たちでやらなきゃ」

 

「う、嬉しいです……」真里奈はおずおずと座る。

 

「静さんはもう結婚してるんですよね?」紗栄が興味津々で身を乗り出す。

「うん。涼介とも同期の裕平とね。あの人、昔は頼りなかったけど今はブルーイーグルスの小隊長やってるのよ」

静は照れくさそうに笑った。

 

「へぇー! 夫婦で衛士ってカッコいい!」紗栄が目を輝かせる。

「でも心配も倍増ですよ……帰ってこなかったらどうしようって」大友がしみじみ呟く。

 

「……それでも、隣に立ちたいんだ……」静の強い眼差しに、真里奈は憧れを重ねた。

 

「私は……姉のように強くならなきゃ、って思ってました。でも違うんですね」

「そう。自分のために強くなるんだよ」大友が優しく微笑んだ。

 

四人は夜更けまで語り合い、笑い声が絶えなかった。

 

 

喫煙所にて

 

翌日。模擬訓練を終えた涼介は喫煙所で一服していた。銀の煙草ケースを開き、火を点ける。

 

「……吸いすぎよ、涼介」

振り向けば、静が腕を組んで立っていた。

 

「おっと、メスゴリラのお小言か?」

「うるさいわね」静は頬を膨らませるが、すぐに柔らかく笑った。

「でも、本当に……昔のあんたとは違う。私もね、結婚して、大人になったんだなって思うよ」

 

涼介は煙を吐き、空を仰ぐ。

「……そうだな。俺ら、もう子どもじゃねぇんだな」

 

静は隣に腰を下ろし、二人はしばし無言で紫煙を眺めた。

「歳刀も生きてたらね……」

「あいつは初陣で逝っちまったからな……」

訓練校で共に汗を流し、夢を語り合った仲間との日々。

今は仲間を守る責任を背負う日々。

 

「……でも根っこのバカは変わってないけどね」

静の言葉に涼介は吹き出した。

「ははっ! それはお互い様だろ!」

 

喫煙所に笑い声が響く。

新任を迎えたレッドキグナスは、少しずつ新しい形を築き始めていた。

 

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