Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百十九話 運命と決意の日

ブリーフィングルームには既に各部隊の隊長格が集まっていた。空気は重く、誰もが言葉を控えている。

 壇上に立った参謀本部の将校が告げる。

 

「本日を帝国参謀本部より、甲21号作戦が発令された。作戦目標は日本帝国領佐渡島に存在するフェイズ4ハイヴ、甲21号目標の完全無力化である」

 

 一瞬、室内の空気が凍りつく。

 佐渡――涼介と紗栄、そして隼人の故郷。その地を奪還するための大反攻。

 

「レッドキグナス中隊は――」

 その一言に、涼介の背筋が自然と伸びる。

「――ウィスキー部隊の最先鋒を任ずる」

 

 ざわめきが広がる。最先鋒。それは誉れであると同時に、最も死に近い役目。

 涼介は喉の奥が焼けるような感覚に襲われながらも、拳を握った。

 

「……いの一番に佐渡の地を踏めるのは、俺たちって訳か」

 小さく呟いたその声は、覚悟の重さを帯びていた。

 

 

 発令後、短い休憩時間に各部隊の隊長が打ち合わせをする場面があった。

 そこで涼介に声をかけてきたのは、同じサマートライアングル大隊所属で元レッドキグナス中隊にもいた事のある、現ブルーイーグルス中隊の江上大尉だった。

 

「おうおう、鍋島。ずいぶん精悍な顔になったやないか」

「江上さん……相変わらずデカい声ですね」

 涼介は苦笑する。江上は昔から豪放磊落で、場を明るくする男だった。

 

 さらにその隣から聞き慣れた声がした。

「久しぶりだな、涼介」

 

 振り返ると、そこに立っていたのは池田裕平――かつて訓練校で同じ釜の飯を食った同期であり、今は静の夫でもある男だった。

 

「池田……! 久しぶりだな!生きて会えて嬉しいぜ!」

「お互いにな、俺も会えて嬉しいよ」

 

 二人は固く握手を交わす。

 訓練校時代、何度も共に汗を流した友。その姿を目の前にして、胸に熱いものが込み上げる。

 

「静がレッドキグナスに配属されたってな、よろしく頼むようちのカミさんを」

「あぁ、驚いたよ。あのメスゴリラがまさかお前と結婚なんかしちまってよ!まさか同じ隊で再会するとはな」

「おいおい、まだそんな呼び方してんのか? あとで静に言いつけてやる」

 二人は笑い合い、ほんの一瞬、戦場の緊張を忘れる。

 

 

 涼介はブリーフィングを終えた後、自隊の小隊長である小川、富田と合流した。そこへ江上、そして池田が歩み寄る。

 

「お前ら、最先鋒なんやってな」江上が言う。

「まぁ、ウチの隊は無茶をするのが仕事ですから」小川が皮肉混じりに肩を竦める。

「だっけど最初は行くのは緊張するっけ!」富田は緊張の表情である。

 

 江上と池田はその言葉に感慨深く頷いた。

「いい仲間を持ったな、鍋島」

「……あぁ。俺一人じゃここまで来れなかったっすよ」

 

 涼介は素直にそう言えた。背中を預けられる仲間がいる――だからこそ、死地へ飛び込む覚悟も決められる。

 

 

 その夜、宿舎に戻った涼介は眠れなかった。

 窓の外には雪が降り積もっている。あの佐渡の地にも、きっと今、白い雪が降っているのだろう。

 

 ――兄貴。ようやく、帰るぜ。

 

 その帰り道が“死”で終わるかもしれない。

 それでも涼介は、笑みを浮かべていた。

 

「死ぬかもしれねぇな……でも、俺は行く。行かなきゃならねぇ」

 

 拳を握り、静かに心の中で誓う。

 自分の命を懸けてでも、この作戦を成功させ、仲間と共に故郷を取り戻すのだと。

 

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