Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「鍋島、歳刀。整備格納庫、0-6番ブロックに集合だとよ。江上さんからのお呼びだ」
朝の訓練を終えたばかりのブリーフィングルームで、同じ中隊の先任である、中原少尉が声をかけてくる。汗を拭いながら顔を見合わせた涼介と歳刀は、どこか気落ちしたような「やっぱり来たか」という表情を浮かべた。
「昨日のシミュレータ訓練、かなりダメ出しされてたからな…」
「わかってる。けどなあ、江上さんってのがまた……」
江上哲弥少尉。A小隊所属の強襲前衛。白鳥大尉の直属部下にして中隊内でも特に武闘派と知られ、短く刈り込んだ髪と鋭い目つき、ガチガチの関西弁で怒鳴られると、涼介でさえ一歩下がる。
呼び出された格納庫には、既に江上少尉と滝本少尉が待っていた。戦術機の整備を見ながら、腕を組んでいる江上の目がこちらを捉える。
「遅いで新兵ども。お前らが昨日のシミュで仲良くやられたせいで、オレの評価も落ちるんやぞ」
「す、すみません……」
「反省してます」
返事をする二人に対し、江上はニッと笑った。
「まあ、怒ってばっかも成長せんわな。今日は実地の補習や。機体の動きだけじゃなく、連携と読み、教えたる」
涼介は少し驚いた。厳しいが、教えることには本気なのだと。
「慶、俺、昨日のシミュレーションでさ、慶が詰めてる時にカバー遅れた。悪かった」
「いや、涼介、俺の判断が遅れたのが原因だ。俺の方も反応に迷いがあった」
互いに認め合い、いつの間にか名前で呼び合う様になっている新兵のその会話を聞きながら、江上がふっと口を開く。
「その調子や。衛士はチームや。『俺が俺が』の精神じゃ、BETAのエサになるだけや」
そして滝本が整備員に合図を出すと、訓練用の模擬装備を搭載した戦術機が起動する。
「今日は隊内シミュの再現や。お前ら、実際にポジション動かして、どこで何がズレたか自分で感じてこい。見とってやるから」
操作はぎこちない。特に歳刀は、射線の切り方や連携のタイミングで何度も江上に怒鳴られた。
「お前、打撃支援やろ!詰めるときは全力、戻る時は命がけで引け!メリハリや!ぬるい動きしとったら死ぬぞ!」
「はいっ!」
隣の涼介もまた、正面からBETA型の突撃を受ける想定で動きを再現するが、前に出過ぎてカバーが間に合わず倒された。
「おいおい、ガツンと行くのはええけど、仲間の位置見て動けや。突っ込むだけなら誰でもできるんやでアホタレ!」
「す、すみません!気合が先走ってました!」
訓練は丸一日続いた。脚の震えが止まらず、シャワー室に向かう廊下では、慶が頭を垂れながら言った。
「……あんなに自分の動きが見えてなかったとは思わなかった」
「俺もも……兄貴によく言われるんだ。視野を広く持てって」
言いながら涼介は、シャワー室の壁にもたれかかり、天井を仰いだ。
「でもな、今日は少しだけ、江上さんの言葉が身に沁みた気がする。なんか、ただ怒ってるだけじゃないよな、あの人」
「ああ。怒鳴り声の裏に、ちゃんと経験と、俺たちへの期待がある気がする」
ふと、シャワー室から出てきた江上が聞こえていたのか肩を叩いてくる。
「その通りや、坊主共。鍋島、お前ももう少ししたら味が出てくるやろ。せやけど――今はまだ、甘い。遠慮なく叩き直したるから覚悟しとけや」
「はいっ!」
涼介も慶も、声を揃えて答えた。
その日の夜。喫煙所でひとり煙草を吸っていた隼人が、訓練の様子を見ていたのか、ぽつりと呟いた。
「少しずつだが、涼介……あいつも、衛士の顔になってきたな」
煙草の煙が夜の風に溶けていく。
――戦争は終わらない。けれど、戦う理由を見つけた若者たちは、今日もまた一歩、歩みを進めていた。