Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
長岡基地の宿舎区画。
翌朝には全ての戦力が「阿賀野」に乗り込み、いよいよ佐渡へと発つ。
兵舎の空気は張りつめ、夜なのに誰も深い眠りにつこうとしない。
レッドキグナス中隊の面々も、それぞれの場所で思いを吐き出していた。
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喫煙所 ― 喫煙組の四人
「……やっぱ、寒いな」
涼介が銀の煙草ケースを開き、一本を取り出して火をつける。
火花が散り、夜気に紫煙が広がった。
「明日はもっと寒くなるっけ。あったかいのは煙草だけかもな」
富田が苦笑しながら煙を吐き出す。肩にはまだ12.5事件の傷が残っている。
「最後の一服とか、笑えませんよ」
小川はオイルライターを弄びながら呆れたように言うが、その目は真剣だった。
「笑えねぇよな。でも、明日は笑えねぇ事ばっか起きるだろ」
雁部が壁に寄りかかり、煙を深く吸い込んだ。
短い沈黙。吐き出す煙がやけに白く見える。
やがて涼介がぽつりと呟く。
「……最先鋒だ。真っ先に故郷を踏める。でも真っ先に死ぬかもしれねぇ」
「鍋島……」
富田が眉を寄せた。
「けどな、死ぬのは簡単だ。生き残って帰ってこそ意味がある。俺ら喫煙組は全員揃って戻ってきて、またここで一服する。それが至上命令だ」
「……命令ってやつですか、大尉」
小川が皮肉気に笑う。
「そうだ。命令だ。裏切ったら承知しねぇぞ」
三人は顔を見合わせ、揃って「了解」と返した。
紫煙が夜空に消えていく。煙草一本一本が「絶対に戻る」という約束のように燃えていた。
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古参組 ― 岸本と前園
一方、宿舎の片隅。
岸本は腕立て伏せを繰り返し、前園は黙々と整備マニュアルを読み込んでいた。
「なぁ前園……俺たち、よくここまで生きてきたな」
岸本が息を吐きつつ言う。
「……あぁ」
短く頷く前園。
「明日、俺は絶対に生き残る。けどな、怖ぇんだ。仲間が死ぬのを見るのが……」
「俺もだ」
前園はマニュアルを閉じる。無口な彼が言葉を続けるのは珍しい。
「……だが涼介ならやる。あいつは俺たちを前に進ませる。なら、俺たち古参がやるべきは――」
「後輩を守る事、だな」
岸本が言葉を引き継ぐ。二人は静かに拳を合わせた。
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松松コンビ
ブリーフィングルームの隅で、松本と松原が並んで座っていた。
「明日さ……あたし死んだら、ナベ大尉を守る人いなくなるよね」
松本が突然言って、松原は思わず吹き出した。
「何を言ってるんだ、松本!君が死ぬわけないだろう」
「でも、ホカ大尉みたいに……」
言いかけて唇を噛む松本。
「だからこそ僕たちが支えるんだ。君も、僕も」
松原は優しく微笑む。
「……ありがと、松原。じゃあ死んだら許さないからね」
「同じことを返すよ」
二人は目を合わせて笑った。その笑みは不安を誤魔化すものだったが、互いを信じる気持ちは本物だった。
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女子会 ― 紗栄・大友・静・真里奈
女子宿舎の一室。小さなテーブルを囲み、四人が湯気の立つカップを手にしていた。
「真里奈、顔がこわばってるよ」
大友が優しく声をかける。
「……はい。私、明日……姉の分まで戦えるかどうか……」
真里奈はカップを握りしめた。
「大丈夫だって! チビ兄と紗栄がいるんだし!」
紗栄が笑顔で背中を叩く。
「でも……私、また足を引っ張るかもしれません」
「引っ張ったら引っ張ったで修正すりゃいいの。訓練で何度もやったでしょ?」
静が頼もしく言い切る。
「……はいっ!」
真里奈は顔を上げた。
「そうそう、その意気! 私たちは全員で帰るんだから」
大友が頷く。
四人は湯気の向こうで微笑み合った。そこには“姉妹”のような絆が芽生えていた。
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そして夜は更けて
それぞれの場所で、仲間と、あるいは自分自身と向き合う時間。
恐怖も不安もある。だが、それ以上に「守りたい仲間」と「取り戻したい故郷」がある。
やがて深夜。
喫煙所で最後の一本を吸い終えた涼介が呟いた。
「兄貴……明日、俺たちで佐渡を取り戻す。見てろよ」
白い煙が夜空に昇り、消えていった。
それは亡き保科隼人への誓いであり、レッドキグナス中隊十二人の覚悟の炎だった。