Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百二十三話 出撃前夜 ― レッドキグナス中隊

長岡基地の宿舎区画。

翌朝には全ての戦力が「阿賀野」に乗り込み、いよいよ佐渡へと発つ。

兵舎の空気は張りつめ、夜なのに誰も深い眠りにつこうとしない。

レッドキグナス中隊の面々も、それぞれの場所で思いを吐き出していた。

 

 

喫煙所 ― 喫煙組の四人

 

「……やっぱ、寒いな」

涼介が銀の煙草ケースを開き、一本を取り出して火をつける。

火花が散り、夜気に紫煙が広がった。

 

「明日はもっと寒くなるっけ。あったかいのは煙草だけかもな」

富田が苦笑しながら煙を吐き出す。肩にはまだ12.5事件の傷が残っている。

 

「最後の一服とか、笑えませんよ」

小川はオイルライターを弄びながら呆れたように言うが、その目は真剣だった。

 

「笑えねぇよな。でも、明日は笑えねぇ事ばっか起きるだろ」

雁部が壁に寄りかかり、煙を深く吸い込んだ。

 

短い沈黙。吐き出す煙がやけに白く見える。

やがて涼介がぽつりと呟く。

 

「……最先鋒だ。真っ先に故郷を踏める。でも真っ先に死ぬかもしれねぇ」

 

「鍋島……」

富田が眉を寄せた。

 

「けどな、死ぬのは簡単だ。生き残って帰ってこそ意味がある。俺ら喫煙組は全員揃って戻ってきて、またここで一服する。それが至上命令だ」

 

「……命令ってやつですか、大尉」

小川が皮肉気に笑う。

 

「そうだ。命令だ。裏切ったら承知しねぇぞ」

 

三人は顔を見合わせ、揃って「了解」と返した。

 

紫煙が夜空に消えていく。煙草一本一本が「絶対に戻る」という約束のように燃えていた。

 

 

古参組 ― 岸本と前園

 

一方、宿舎の片隅。

岸本は腕立て伏せを繰り返し、前園は黙々と整備マニュアルを読み込んでいた。

 

「なぁ前園……俺たち、よくここまで生きてきたな」

岸本が息を吐きつつ言う。

 

「……あぁ」

短く頷く前園。

 

「明日、俺は絶対に生き残る。けどな、怖ぇんだ。仲間が死ぬのを見るのが……」

 

「俺もだ」

前園はマニュアルを閉じる。無口な彼が言葉を続けるのは珍しい。

 

「……だが涼介ならやる。あいつは俺たちを前に進ませる。なら、俺たち古参がやるべきは――」

 

「後輩を守る事、だな」

岸本が言葉を引き継ぐ。二人は静かに拳を合わせた。

 

 

松松コンビ

 

ブリーフィングルームの隅で、松本と松原が並んで座っていた。

 

「明日さ……あたし死んだら、ナベ大尉を守る人いなくなるよね」

松本が突然言って、松原は思わず吹き出した。

 

「何を言ってるんだ、松本!君が死ぬわけないだろう」

 

「でも、ホカ大尉みたいに……」

言いかけて唇を噛む松本。

 

「だからこそ僕たちが支えるんだ。君も、僕も」

松原は優しく微笑む。

 

「……ありがと、松原。じゃあ死んだら許さないからね」

 

「同じことを返すよ」

 

二人は目を合わせて笑った。その笑みは不安を誤魔化すものだったが、互いを信じる気持ちは本物だった。

 

 

女子会 ― 紗栄・大友・静・真里奈

 

女子宿舎の一室。小さなテーブルを囲み、四人が湯気の立つカップを手にしていた。

 

「真里奈、顔がこわばってるよ」

大友が優しく声をかける。

 

「……はい。私、明日……姉の分まで戦えるかどうか……」

真里奈はカップを握りしめた。

 

「大丈夫だって! チビ兄と紗栄がいるんだし!」

紗栄が笑顔で背中を叩く。

 

「でも……私、また足を引っ張るかもしれません」

 

「引っ張ったら引っ張ったで修正すりゃいいの。訓練で何度もやったでしょ?」

静が頼もしく言い切る。

 

「……はいっ!」

真里奈は顔を上げた。

 

「そうそう、その意気! 私たちは全員で帰るんだから」

大友が頷く。

 

四人は湯気の向こうで微笑み合った。そこには“姉妹”のような絆が芽生えていた。

 

 

そして夜は更けて

 

それぞれの場所で、仲間と、あるいは自分自身と向き合う時間。

恐怖も不安もある。だが、それ以上に「守りたい仲間」と「取り戻したい故郷」がある。

 

やがて深夜。

喫煙所で最後の一本を吸い終えた涼介が呟いた。

 

「兄貴……明日、俺たちで佐渡を取り戻す。見てろよ」

 

白い煙が夜空に昇り、消えていった。

それは亡き保科隼人への誓いであり、レッドキグナス中隊十二人の覚悟の炎だった。

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