Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百二十五話 甲21号作戦・前夜 ― 前編)

格納庫に響く機械音は、いつもよりも重々しかった。戦術機の点検を行う整備兵たちの動きも、どこか固い。明日、この艦から出撃する者の多くは帰ってこられないかもしれない――そんな予感が、誰もが言葉にせずとも胸に抱いていた。

 その中で、レッドキグナス中隊の隊長・鍋島涼介は、仲間たちの顔を一人ずつ見つめ歩みを進めていた。

 

 

小川との会話 ― 影の支え

 

「よぉ、小川」

 格納庫の片隅で作戦資料を端末に落としていた小川陸に声をかける。彼は振り返り、相変わらず落ち着いた笑みを浮かべた。

「なんですか、大尉。明日を前にして妙に真剣な顔ですね」

「……いやよ。ちょっとな。小川、もし俺が死んだら――お前が中隊長やれよ」

 冗談めかすように言う涼介に、小川は苦笑を返す。

「冗談でも縁起でもないですね。俺は指揮官業務なんてやりたくありません。だから……死なせませんよ、大尉を」

 その声には、いつもの緩さの裏に芯の通った強さがあった。

「ハッ、言うじゃねぇか。じゃあ明日は頼むぜ。まだ隊長を譲る気はねぇからな。しっかり援護してくれよ」

「了解です。……それと、吸いますか?」

 小川が懐からオイルライターを取り出す。隼人の遺品だった。

「おぉ、気が利くな」

 涼介も銀の煙草ケースを取り出し、2人で火を分け合う。紫煙が夜の格納庫に漂う。

「やっぱり落ち着くな……」

「この時間が1番好きかもしれませんね……紗栄少尉には怒られるかもしれませんが……」

「うるせぇ。明日死んだら健康もクソもねぇだろ」

 互いに笑い合い、一服を終えると、涼介は肩を叩いて言った。

「頼んだぞ、小川」

「任せてください、大尉」

 

 

岸本との会話 ― 古参の誇り

 

 甲板へ出ると、潮風と冷気が混じった空気が頬を撫でた。そこに立っていたのは岸本悠真。腕を組み、夜の海を見つめている。

「岸本さん、こんな所にいたのか」

「おう。……落ち着かねぇからな」

 彼は涼介を一瞥し、にやりと笑った。

「なんだかんだで、長ぇ付き合いになったな。最初はヒョロガキで、すぐ死ぬんじゃねぇかと思ってたのに……まさか大尉になるとはな」

「はは、ひでぇ言い草だな。でもまぁ、その通りかもな」

「違ぇねぇ。けどな、あの時のお前が、ここまで隊を引っ張るとは思ってもみなかった。……正直、嬉しいぜ」

 岸本の声は粗野だが温かかった。涼介は胸が熱くなる。

「ありがとうよ。明日……生きて帰ったら、また一杯付き合ってくれよ」

「バカ野郎。生きて帰る前提で話せ」

 2人は短く笑い、拳を軽くぶつけ合った。

 

 

雁部との会話 ― 喫煙所の相棒

 

 格納庫に戻る途中、背後から声がかかった。

「おーい、ナベさん!一服付き合えよ!」

 振り向けば雁部雅史が煙草を咥え、手を振っていた。

「お前はホント、暇さえあれば吸ってんな」

「バカ言え、明日が最後かもしんねぇんだ。いいだろ」

 2人は煙草を咥え、同時に火をつけた。

「なぁ雁部……お前がいてくれてよかったよ」

 涼介が本音を漏らすと、雁部は一瞬黙った後、大笑いした。

「バカヤベー!何言ってやがんだよ、死ぬ前の台詞みてぇじゃねぇか!」

「ははっ……かもな」

 笑い合った後、2人は自然と拳を合わせた。

「明日は頼むぜ」

「おう、任せとけ!」

 

 

静と裕平 ― 同期の絆

 

 雁部と別れ、艦内を彷徨う涼介の耳に、凛とした声が届いた。

「……涼介」

 池田静が立っていた。

「よぉ静。訓練校にいた頃は、まさかこんな作戦に一緒に参加することになるとは思わなかったな」

「ほんとよ。あの頃は毎日のように張り合って……まさか今は中隊長と部下の関係になるなんてね」

 懐かしそうに笑い合う2人。そこへ足音が近づき、池田裕平が現れた。

「おーい涼介!」

「裕平……!」

 3人は自然と肩を並べ、訓練校時代の思い出話に花を咲かせた。ドジを踏んだ涼介、静に怒鳴られる日々、そして仲間たちの笑顔。

 だが裕平がふと、沈んだ声を漏らす。

「……歳刀もここにいればな」

 3人の同期であり、初陣で散った仲間。名前を出した瞬間、空気が張り詰めた。

「あいつの分まで……明日は戦おうぜ」

 静かに涼介が言うと、2人は力強く頷いた。

 

「涼介!」

 急に声を張った裕平が、隣にいた静を抱き寄せ唇を重ねた。

「なっ、なにすんだい!」

 真っ赤になって裕平にゲンコツをお見舞いする静。

「イタタタっ……涼介!、絶対守れよ!俺の静を!」

 裕平の真剣な目に、涼介は苦笑しながら背を向けた。

「保証はできねぇけどよ……誰も死なす気はねぇさ。イチャついてんじゃねぇ、バカ夫婦め」

 手をひらひらさせながら歩き出す涼介。背後から裕平の声が飛んだ。

「絶対だぞ!」

「テメェも死ぬんじゃねぇぞ、裕平!」

 振り返らずに返す涼介。その背中には、仲間と共に生き抜こうとする強い決意が宿っていた。

 

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