Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百二十六話 甲21号作戦・前夜 ― (中編)

 格納庫の灯りは、夜更けでも消えることはなかった。明日の決戦を前に、誰もが緊張を隠せず、静けさの中にも不思議なざわめきが漂っている。

 涼介は深呼吸をして、次に声をかけるべき仲間の元へ歩き出した。

 

 

富田 ― 焼津訛りの兄貴分

 

「よぉ、富田」

 背の高いシルエットが振り返る。富田宏明は、片手にプロテクターを抱えながらニッと笑った。

「おぉ、鍋島!なんだよ、こんな時間に。眠れねぇのか?」

「まぁな……お前こそ、寝なくて平気かよ」

「俺ぁいつだって寝付き悪いっけ。でもよ、明日はどうせ寝る暇なんざねぇ。だったら今は気合いで誤魔化すしかねぇっけよ!」

 豪快に笑うその声に、涼介の肩の力が少し抜けた。

 

「なぁ富田……お前がいてくれて、本当に助かってる。12.5の時だって、お前が庇ってくれなかったら俺、ここにいねぇ」

「バッカヤロウ!あん時のことをまだ引きずってんのか?あれは俺が勝手にやったことっけよ。お前を生かすためにな!」

 富田は豪快に涼介の肩をバンッと叩く。

「俺はよ、もう“親友”ってやつはお前一人しかいねぇんだ。だから死んでたまるか!お前が死にそうなら、また俺が庇う。……だから一緒に帰んだぞ、鍋島!」

「……あぁ、頼りにしてるぜ、親友!」

 2人は笑い合い、力強く拳を合わせた。

 

 

前園 ― 無口な職人肌

 

 次に涼介は、整備兵と共に機体を黙々と点検している前園浩輔の姿を見つけた。無口な彼は、涼介が近づくと軽く顎を上げただけ。

「お疲れさん、園さん」

「……涼介こそ」

 短い言葉。だが涼介は慣れていた。

「明日は最先鋒だ。園さんの腕、頼りにしてる」

「……分かってる」

 それだけ言って、前園は工具を置き、涼介を見据えた。

「涼介。お前は無茶しすぎだ。……だが、それが中隊を動かしてるのも事実だ。だからこそ、俺は後ろで支える。死ぬな」

 涼介は一瞬、言葉を失った。前園がこんなに多く語るのは珍しい。

「ありがとな……。園さんがいると心強い」

「……当然だ」

 それだけ告げると、前園は再び黙々と機体に向き直った。その背中に、涼介は深々と頭を下げてから歩き出した。

 

 

大友 ― 姉御肌の励まし

 

「大友姐さん」

 涼介が声をかけると、大友美香は振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。

「なんだい、大尉。もう隊長なんだから、姐さんなんて呼ばなくてもいいのに」

「いや、姐さんは姐さんだろ」

 そう言って笑う涼介に、大友は少し肩をすくめる。

「明日は……大丈夫?顔に“死ぬかもしれない”って書いてあるよ」

「……やっぱバレるか」

 涼介が苦笑すると、大友は真剣な目で彼を見つめた。

「私ね、保科大尉のこと、兄みたいに慕ってた。だから、あなたまで失うのは嫌。紗栄ちゃんも、みんなも同じ気持ちだよ」

 涼介は一瞬、喉が詰まった。

「……分かってる。だから絶対死なねぇ。隊長としても、兄としてもな」

「よろしい」

 大友は柔らかく微笑み、涼介の背中を軽く押した。

「大尉。私たちは支えるから、あなたは前を見て走りなさい」

「……あぁ、頼んだぜ、姐さん」

 

 

松本 ― 天然の天才

 

 次に声をかけたのは、松本歩夢だった。機体の横で座り込み、なにやら整備兵を質問攻めしている。

「おい松本、何してんだ」

「あ、ナベ大尉!えっとね、コイツの関節部って、油さすタイミングで変わるの?って聞いてた」

「はぁ……お前は本当に天然だな」

 涼介は呆れながらも笑った。松本は得意げに胸を張る。

「だって大事でしょ?壊れたら困るし」

「まぁな。……お前は明日、無茶すんなよ」

「うん。でもナベ大尉が無茶するなら、あたしも無茶する」

「おい、やめろ!俺は隊長だぞ!無茶も無理もするぜ!」

「隊長でも、私にとっては仲間だから」

 涼介はしばし言葉を失った。こいつの真っ直ぐさは、いつも予想を超えてくる。

「……はは、やられたな。お前がいてくれて、心強いよ」

「でしょ?だから一緒に帰ろう!」

 満面の笑みを浮かべる松本に、涼介は拳を差し出した。

「約束だ」

「うん、約束!」

 拳がぶつかり合う音が、静かな格納庫に響いた。

 

 

 こうして涼介は、一人ひとりと言葉を交わしながら決意を固めていった。仲間の顔を見れば見るほど、失うわけにはいかないという思いが強くなる。

 ――明日、必ず全員を生きて帰す。

 そう胸に刻み、涼介は次の仲間の元へと歩みを進めた。

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