Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百二十七話 甲21号作戦前夜 ― (後編)

 格納庫の片隅。夜間整備が終わり静まり返った中、涼介は一人の少女の姿を見つけた。

 赤髪を揺らし、緊張のあまり固まったように機体を見上げている。白鳥真里奈。真凜大尉の妹であり、明日が初陣となる新人少尉だ。

 

 

真里奈との対話

 

「おい、真里奈。こっち来い」

 突然声をかけられ、真里奈はビクリと肩を震わせた。振り返ると、涼介が片手でベンチを指している。

「……は、はい!」

 小走りに駆け寄り、緊張した面持ちで座る。姿勢は背筋が張り詰めすぎていて、今にも折れそうだ。

 

「そんなガチガチじゃ、出撃前に壊れちまうぞ」

「す、すみません……でも、明日が初めての実戦で……」

「だから呼んだんだよ。落ち着け」

 涼介は煙草を取り出し、火をつけて紫煙を吐いた。目を細めながら語り出す。

 

「俺の初陣はな……京都防衛戦だった」

「……京都、防衛戦……」

 真里奈は息をのむ。噂に聞く地獄の戦場。

「あぁ。出撃して数分で同期がレーザーに焼かれた。目の前でだ。……俺はまだ何もしてねぇのに、消し飛んだんだよ」

「……!」

「でな、初陣の俺に、お前の姉さん――真凜大尉はこう言ったんだ。『光線吶喊に着いて来い』ってな」

「そ、そんな……初戦からですか!?」

「あぁ、本当だ。あの人は厳しかった。だけど、誰よりも前に立って……容赦なく、俺たちを引っ張った」

 涼介は苦笑し、煙草を揉み消した。

 

「次々と仲間が落ちていく中で、俺は必死で食らいついた。……生き残れたのは、仲間が支えてくれたからだ。真里奈、お前も一緒だ」

「……私も?」

「そうだ。見ろ、お前には仲間がいる。富田に小川、雁部もだ、岸本さん、園さんにそれに松本に松原も、紗栄も、静も、大友姐さんもな。俺だってそうだ、お前を支えてくれる奴らばかりだ。だから死なねぇ。まだ自信なんてなくてもいい。仲間を信じろ」

 涼介の言葉に、真里奈の瞳が揺れる。

「……はい!」

 炎のような光が宿る。

 

「ただな、真凜大尉は強かったけど……最後は俺らを生かすために前に出すぎた。孤立して、BETAの波に飲まれて……」

 涼介の脳裏に、あの地獄の光景が蘇る。血と絶叫、そして赤い髪が呑まれていく姿。

「最期に、俺に言ったんだ。『お前は強くなる、だから生きろ』ってな」

「……姉さん……」

 真里奈の頬に、静かに涙が伝った。

 

「だから俺も言うぞ。真里奈、お前は強くなる!だから――生きろ。どんな手を使ってでもな」

「……はい!大尉、ありがとうございます!」

 涙を拭い、真っ直ぐに涼介を見上げる。涼介はその頭をガシッと撫でた。

「くすぐったいです……大尉。それと……ひとつだけ聞きたいことが」

「なんだ?」

 撫でる手を止め、涼介が目を細める。

 

「姉からの手紙に“初日に食われた”って書いてあったんです。……それって、どういう意味ですか?」

「……」

 涼介は冷や汗をかいた。

「ま、まぁ、その……知りたいか?」

「はい!ぜひ!」

 身を乗り出してくる真里奈に、逃げ場がない。

 

「えっとな……初日に“やり残したことないようにしろ”って言われて……で、真凜大尉の部屋に行ってだな……」

「やり残したこと?それは?」

「……あーもう!女も知らねぇで死ぬのはどうかって思ってな……真凜大尉と、ベッドを共にしたんだよ!」

 捲し立てるように吐き出す涼介。

「えっ!?姉さんと……ベッドで……お、女を!?」

 真里奈の顔が瞬く間に真っ赤になっていく。

 

「そういうこった!詳しく聞くな!」

 涼介は立ち上がり、逃げるように踵を返した。

「……大尉は天性の突撃前衛なんですね……あの姉さんに吶喊するとは……」

 まだ赤い頬を押さえながら真里奈が呟く。その一言に涼介は盛大にズッコケた。

「……今のは隙を突いたいい攻撃だったな。明日もその調子で頼む」

 涼介は背を向け、一言だけ残す。

「大尉!また姉の話を聞かせてください!」

「お互い生きて帰ったらな」

 背中で語り、涼介は歩き出した。

 

 

松原との語らい

 

 通路を歩くと、端末の光に照らされた影が見えた。松原充だ。情報端末を食い入るように見つめ、指先で何度もスクロールしている。

「松原!まだ起きてんのか?」

「あ、大尉……。はい、明日の連携について、もう少し詰めておきたくて……」

「相変わらず真面目だな。だが休むのも仕事だぞ」

「わかってます。でも……今だけは少しでも準備しておきたいんです」

 

 真剣な表情に、涼介は微笑んだ。

「明日は頼りにしてるぞ。A小隊の中でも、お前だけは冷静でいてくれる。助かってる」

「ありがとうございます……。でも、僕には……守らなきゃいけない命があるんです」

「命?」

「……高梨少尉です。あの人に救われた命なんです。だから僕は、二人分の命を背負ってます」

 松原の瞳には強い光が宿っていた。

 

 涼介はしばし見つめ、やがて肩を叩いた。

「いいじゃねぇか。立派になったな、松原」

「……はい!」

「明日、頼むぜ」

「必ず!」

 短くも力強い返答。その声に、かつての頼りなさは微塵もない。

 

 涼介は満足げに頷き、通路を後にした。背後で松原が端末を閉じ、静かに立ち上がる気配がした。

 

 

 こうして、涼介は真里奈と松原――未来を担う若い仲間たちと向き合い、言葉を交わした。

 決戦を前に、恐怖も不安もある。だが確かに成長を感じられる彼らの姿に、涼介の胸は熱くなる。

 

 ――絶対に死なせねぇ。

 そう誓いながら、涼介は格納庫を後にした。

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