Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
格納庫の片隅。夜間整備が終わり静まり返った中、涼介は一人の少女の姿を見つけた。
赤髪を揺らし、緊張のあまり固まったように機体を見上げている。白鳥真里奈。真凜大尉の妹であり、明日が初陣となる新人少尉だ。
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真里奈との対話
「おい、真里奈。こっち来い」
突然声をかけられ、真里奈はビクリと肩を震わせた。振り返ると、涼介が片手でベンチを指している。
「……は、はい!」
小走りに駆け寄り、緊張した面持ちで座る。姿勢は背筋が張り詰めすぎていて、今にも折れそうだ。
「そんなガチガチじゃ、出撃前に壊れちまうぞ」
「す、すみません……でも、明日が初めての実戦で……」
「だから呼んだんだよ。落ち着け」
涼介は煙草を取り出し、火をつけて紫煙を吐いた。目を細めながら語り出す。
「俺の初陣はな……京都防衛戦だった」
「……京都、防衛戦……」
真里奈は息をのむ。噂に聞く地獄の戦場。
「あぁ。出撃して数分で同期がレーザーに焼かれた。目の前でだ。……俺はまだ何もしてねぇのに、消し飛んだんだよ」
「……!」
「でな、初陣の俺に、お前の姉さん――真凜大尉はこう言ったんだ。『光線吶喊に着いて来い』ってな」
「そ、そんな……初戦からですか!?」
「あぁ、本当だ。あの人は厳しかった。だけど、誰よりも前に立って……容赦なく、俺たちを引っ張った」
涼介は苦笑し、煙草を揉み消した。
「次々と仲間が落ちていく中で、俺は必死で食らいついた。……生き残れたのは、仲間が支えてくれたからだ。真里奈、お前も一緒だ」
「……私も?」
「そうだ。見ろ、お前には仲間がいる。富田に小川、雁部もだ、岸本さん、園さんにそれに松本に松原も、紗栄も、静も、大友姐さんもな。俺だってそうだ、お前を支えてくれる奴らばかりだ。だから死なねぇ。まだ自信なんてなくてもいい。仲間を信じろ」
涼介の言葉に、真里奈の瞳が揺れる。
「……はい!」
炎のような光が宿る。
「ただな、真凜大尉は強かったけど……最後は俺らを生かすために前に出すぎた。孤立して、BETAの波に飲まれて……」
涼介の脳裏に、あの地獄の光景が蘇る。血と絶叫、そして赤い髪が呑まれていく姿。
「最期に、俺に言ったんだ。『お前は強くなる、だから生きろ』ってな」
「……姉さん……」
真里奈の頬に、静かに涙が伝った。
「だから俺も言うぞ。真里奈、お前は強くなる!だから――生きろ。どんな手を使ってでもな」
「……はい!大尉、ありがとうございます!」
涙を拭い、真っ直ぐに涼介を見上げる。涼介はその頭をガシッと撫でた。
「くすぐったいです……大尉。それと……ひとつだけ聞きたいことが」
「なんだ?」
撫でる手を止め、涼介が目を細める。
「姉からの手紙に“初日に食われた”って書いてあったんです。……それって、どういう意味ですか?」
「……」
涼介は冷や汗をかいた。
「ま、まぁ、その……知りたいか?」
「はい!ぜひ!」
身を乗り出してくる真里奈に、逃げ場がない。
「えっとな……初日に“やり残したことないようにしろ”って言われて……で、真凜大尉の部屋に行ってだな……」
「やり残したこと?それは?」
「……あーもう!女も知らねぇで死ぬのはどうかって思ってな……真凜大尉と、ベッドを共にしたんだよ!」
捲し立てるように吐き出す涼介。
「えっ!?姉さんと……ベッドで……お、女を!?」
真里奈の顔が瞬く間に真っ赤になっていく。
「そういうこった!詳しく聞くな!」
涼介は立ち上がり、逃げるように踵を返した。
「……大尉は天性の突撃前衛なんですね……あの姉さんに吶喊するとは……」
まだ赤い頬を押さえながら真里奈が呟く。その一言に涼介は盛大にズッコケた。
「……今のは隙を突いたいい攻撃だったな。明日もその調子で頼む」
涼介は背を向け、一言だけ残す。
「大尉!また姉の話を聞かせてください!」
「お互い生きて帰ったらな」
背中で語り、涼介は歩き出した。
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松原との語らい
通路を歩くと、端末の光に照らされた影が見えた。松原充だ。情報端末を食い入るように見つめ、指先で何度もスクロールしている。
「松原!まだ起きてんのか?」
「あ、大尉……。はい、明日の連携について、もう少し詰めておきたくて……」
「相変わらず真面目だな。だが休むのも仕事だぞ」
「わかってます。でも……今だけは少しでも準備しておきたいんです」
真剣な表情に、涼介は微笑んだ。
「明日は頼りにしてるぞ。A小隊の中でも、お前だけは冷静でいてくれる。助かってる」
「ありがとうございます……。でも、僕には……守らなきゃいけない命があるんです」
「命?」
「……高梨少尉です。あの人に救われた命なんです。だから僕は、二人分の命を背負ってます」
松原の瞳には強い光が宿っていた。
涼介はしばし見つめ、やがて肩を叩いた。
「いいじゃねぇか。立派になったな、松原」
「……はい!」
「明日、頼むぜ」
「必ず!」
短くも力強い返答。その声に、かつての頼りなさは微塵もない。
涼介は満足げに頷き、通路を後にした。背後で松原が端末を閉じ、静かに立ち上がる気配がした。
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こうして、涼介は真里奈と松原――未来を担う若い仲間たちと向き合い、言葉を交わした。
決戦を前に、恐怖も不安もある。だが確かに成長を感じられる彼らの姿に、涼介の胸は熱くなる。
――絶対に死なせねぇ。
そう誓いながら、涼介は格納庫を後にした。