Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「ほら鍋島ァ!手が止まってるぞ!機体整備も衛士の仕事だっつってんだろ!」
格納庫に響く大声に、涼介は思わずスパナを落としそうになった。振り返ると、短髪でやたらと目つきの鋭い男──江上哲也少尉が腕を組んで睨みを利かせていた。
ストライクバンガードの彼はA小隊の主力で、白鳥真凜大尉の右腕と噂される熱血漢。涼介と歳刀慶にとっては、手加減なしの”指導係”だった。
「すみません、江上さん……」
「おい哲弥、ちょっと怖がられてんぞ」
横からニヤリと笑って声をかけたのは、キグナス中隊、B小隊所属、ガンスイーパーの滝本翼少尉、江上と同様に、よく喋る軽口担当。
「怖いもんは怖いっすよ……こっちは新人なんですから」
「でもお前、動きは悪くなかったぞ」
ふいに背後から声をかけてきたのは、C小隊の歳刀慶少尉だった。同じく新任の同期だが、涼介とは対照的にクールな物腰。だがその分、素直に褒められると照れくさくなる。
「そりゃ、お前と一緒に動いてんだからな」
涼介は笑って肩をぶつけた。
ふと、後方支援用の戦術機を整備していた男が振り返った。眼鏡越しに知的な印象を与えるその男──中原優司少尉は、B小隊の強襲掃討で支援担当。口数は少ないが機器や戦術支援には一目置かれている。
「お前ら、新型OSの手順、明日までに読み込んどけよ。俺は繰り返さねぇからな」
「は、はい……(B小隊の人って地味に怖ぇな)」
もう一人、隣で整備パネルを見ていたのが、巨漢の滝沢雄吾少尉。物静かで無口、まるで山のように動かない男だが、一旦怒らせると最も厄介だと評判。喧嘩が強いという噂は本当らしい。
「鍋島、お前体幹が弱い。前の訓練の時、踏ん張り効いてなかった」
「うっ……バレてた」
彼らはC小隊の砦とも言われる重支援の要だ。
一方、昼食時の食堂では、C小隊の面々がいつもの席を囲んでいた。
芹澤尚之少尉と安藤克彦少尉は、慶とともに後衛を担当している仲間だ。
「よお、鍋島。慶と組んでるってことは、俺らのフォローもちゃんとよろしくな」
「死にたくないしなー、俺。お前らが前で頑張ってくれないと、マジで死ぬ」
軽口を叩く安藤に、芹澤が「お前が一番撃つクセに何言ってんだ」と突っ込む。
2人の掛け合いは漫才のようで、思わず涼介も笑ってしまう。
そして、そんな場面の上からすべてを見下ろすような存在──白鳥真凜大尉。180センチ超えの長身、逆立ったセミロングヘア、男勝りの豪快な笑い。今も真ん中のテーブルで大声で笑っている。
「チェリーどもがだいぶ喋るようになったじゃねぇか!いいぞ、もっとやれ!ぶつかって仲良くなるのが衛士の流儀だ!」
「真凜大尉、俺らはプロレスじゃないんですけど……」
涼介の呟きに、白鳥は豪快に笑った。
「じゃあなにか?本気で殴られたいのか?来るなら来いよ涼介ぁ!」
「い、いや、やっぱ遠慮しときます!」
その隣で呆れ顔の保科隼人中尉がコーヒーを啜る。
「……毎度毎度騒がしい中隊だな……。お前が暴れるから、俺が全体まとめなきゃなんねぇ」
「いいじゃねぇかよ、兄貴。俺ら、もうちょっとで家族みたいなもんだぜ?」
「……公的な場で兄貴呼びすんなっつってんだろ、鍋島少尉」
「はい、保科中尉っす……!」
そして、そんな日々の中で、涼介の心に少しずつ気になる存在が芽生えていた。
「青島葵中尉か……」
通信管制班所属の青島葵。茶髪のデコ出しポニーテール。キグナスのCP(コマンドポスト)将校。初対面の印象は「冷たくて怖そう」だったが、今では挨拶も返してくれるようになった。
(うーん、なんだろな、あいつ……)
その瞬間、葵が廊下を通りかかり、涼介と目が合った。
「……お疲れ様です、鍋島少尉」
「あ、ああっ、お疲れです!今から飯なんですけど一緒にどうです?」
「……さっき済ませてきました」
淡々とした様子で必要最低限を伝え去っていった彼女の背中を見送りながら、涼介は呟いた。
「俺、たぶん……青島中尉のこと、苦手じゃなくなってきてんな」
去っていく青島中尉の姿を涼介ずっと見ていた。
喧騒と絆、訓練と疲労、笑いと少しのときめき。
そうして今日もまた、キグナス中隊の一日が終わっていく。