Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百三十一話 レッドキグナス中隊出撃

甲21号作戦は既に第二段階へ移行していた。

 帝国海軍第17戦術機甲戦隊の海神が雪の高浜の海岸線へ上陸し、橋頭堡を確保。続々と戦術機母艦から戦術機が吐き出されていくがレーザーによる迎撃で撃ち落とされるも、決死の覚悟で飛び込み、佐渡の白い大地に黒煙を立てながら布陣を整えていく。

 

 空気は既に血の匂いを帯びていた。

 上陸戦の最先鋒を務めたブルーイーグルス中隊とイエローライラ中隊は、烈火のような抵抗に遭い、通信回線には断末魔と怒声が交錯している。仲間が焼き払われる悲鳴、敵を切り裂く咆哮、その全てが阿賀野艦内のモニターに流れ込んできた。

 

「――テメェら!ブルーイーグルスとイエローライラが血路を切り開いてくれてる!だが俺たちの任務も変わんねぇ!油断すんな、気を抜いた瞬間死ぬぞ!気合い入れろ!」

 涼介の怒号が通信に響いた。

 

「了解!!」

 レッドキグナス中隊、十一の声が重なった。緩い笑いも冗談も、今は一切ない。そこにあるのは死地に赴く覚悟と、緊張を押し殺した気迫のみだった。

 

 

 格納庫にカタパルトの重機音が響く。涼介の壱型丙が最前列に進み出る。その背に続き、各小隊の機体が規律正しく並ぶ。

 

「レッドキグナス中隊、発進シークエンス開始」

 冷徹に響くのは管制官――いや、今は自分の妻であり支えとなった存在、葵の声だ。

 

 その声を受け、涼介は深く息を吸い込み、吐き出す。

「葵……帰ってきたらデートな!」

 

 いつもの軽口。だが、それが緊張を和らげる儀式でもある。仲間は皆、思わず口元を綻ばせた。

 

 しかし、返ってきた葵の声は、あまりに予想外だった。

「……はい。無事に帰ってきてください。――私のお腹には、あなたの子供がいます」

 

 格納庫に一瞬、時が止まったような沈黙が走る。

 

「なっ……マジかよ!」

 涼介が目を見開く。すぐさま声を張り上げた。

「でもよ……今ので気合い百倍だ!死んでも帰ってくんぜ!」

 

「ええぇぇ!?大尉マジですか!?」「青島中尉……いや鍋島中尉マジだっけ……!」

 驚愕と動揺が走る。小川が半狂乱で叫び、富田が腹を抱え、紗栄は「チビ兄が……お父さん!?」と呆然とつぶやいた。

 

「うるせぇ!黙れテメェら!発進準備整ってんだろ!」

 涼介が無理やり怒鳴りつけ、笑いと動揺を押し潰す。

 

 そのやり取りも、発進のカウントダウンを前に終わる。

 

 

 カタパルトに固定された壱型丙。赤い警告灯が回り、振動が機体を揺らす。

「――レッドキグナス中隊、発進を許可します」

 葵の声が響いた。

 

「レッドキグナス中隊、俺に続け!」

 涼介の咆哮と共に、カタパルトが火を吹き、機体を射出する。

 轟音。金属を軋ませながら壱型丙が白い閃光のように飛び出した。

 

「行くぞぉぉぉ!テメェら!!」

 

 続いて松本、松原、雁部、小川、富田、岸本、静、真里奈、前園、大友、そして紗栄。次々とカタパルトを飛び出し、十一の機影が涼介の背を追った。

 

 漆黒の海と雪原の境界へ、不知火が弧を描く。

 彼らが飛び込むのは、既に仲間が血を流す地獄の渦中。

 

「これよりレッドキグナス中隊、甲21号作戦に参戦する!」

 涼介の宣言が、隊内通信を震わせた。

 

 返す声は揺るぎなかった。

「了解!!」

 

 

 阿賀野の艦橋から、葵は彼らの背を見送っていた。無表情を崩さぬまま、しかし胸の奥では強く祈っていた。

――必ず、生きて帰ってきて。あなたも、中隊のみんなも。

 

 白い噴煙の尾が、佐渡の空に幾筋も刻まれていった。

 レッドキグナス中隊、出撃

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