Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百四十二話 焦げる空、鳴る地面

 通信が簡潔に区切られ、空気が一段ひきしまる。

「――江上さん、高橋さん、拾い上げ頼んだぜ。俺たちは行く」

 涼介の言葉に、誰も返事を待たない。跳躍ユニットの唸りだけが、すでに戦意を代弁していた。

 

「A小隊、前へ出るぞ! 俺の背中、絶対に見失うな!」

『了解!』

 壱型丙が吠えるように加速する。左に雁部、斜め後ろに松本と松原の松松コンビ”。

地表は既に更地と化し、瓦礫と黒焦げの残骸が延々と続く。

頭上の空では、なおも遠方で光線が稲妻のように走り、時折、遅れて黒い煙柱が立つ。

 

「雁部、左の帯域。突撃級の列、割るぞ!」

「了解だナベさん、置いてくなよ!」

 雁部の不知火が低く滑り込み、突撃級の足を撃ち抜く。続けざま、涼介の長刀が閃光になり、装甲殻の継ぎ目を断ち割った。

「次いくぞ、ついて来い!」

 

「松原、松本。前方“L”の開けた低地、面で掃け!」

「了解、僕が先行します! 松本、角度合わせて!」

「まっかせろーい!」

 松原の36mmが几帳面な連射で戦車級の鼻先を順に抉り、松本の斜め上からの火線が“抜けた”個体の頭部を一発で止めていく。

「……綺麗に揃うね〜これ」

「当たり前だ!散々訓練してきたんだ!」

 

 背後では、B小隊が二人きりの“脳”で全体を支えている。

「小川より全機。A小隊の進出軸、右45度から要撃級が回り込む。真里奈、俺の火線に合わせて外側から刈り取れ」

「はいっ!」

 小川の120mmが短く二発、要撃級の群れに穴を穿つ。その“窓”を読んだ真里奈が瞬時に滑り込み、感覚器を正確に叩き潰す。

「……ナイス。呼吸、上がってないな」

「上げません。中尉の背中、見失いませんから!」

「良い返事だ。じゃ次、左の凹地へ――」

 

 C小隊は、戦場の“道”を作る。

「富田ぁ、前へ! 砲撃で“突撃砲道”を開け!」

「任せろ鍋島! 右、36mmで削る! 左、120mmで穿つっけ!」

 富田の不知火が、二種の火力をテンポ良く切り替えながら、BETAの群れを“押し退ける”ように割っていく。

「小さい鍋島、要撃級の肩の“陰”! そこ、狙えるか!」

「見えてる!――落ちて!」

 紗栄の支援突撃砲がまっすぐ抜け、要撃級が糸の切れた操り人形みたいに崩れ落ちる。

「グッドショット! 次っけ次っけ! 止まるな!」

「了解っ、富田中尉!」

 

 そして、全体の縫い目を走るのが――大友だ。

「BからCへ移動。真里奈ちゃん、追い付き速度良し。弾薬、次のコンテナまで持つ?」

「……残弾20%。でも行けます」

「無理は半分だけ。残り半分は私が受ける。――富田中尉、右側の“溜まり”、私が散らします!」

「助かるっけ! そこ散らばるとAが楽になる!」

 大友の120mmが、押し寄せる戦車級の群れの“腹”を撫でるように削ぎ、群れの動きが一瞬ばらける。その刹那、A小隊が突き刺さる。

「ありがとな、大友姐さん!」

「いいから前見て! 涼介が視界から消えたら、泣くからね!」

 

「へっ!泣くなよ大友姐さん! 俺が泣かすのは紗栄だけで十分だ!」

「ナベさん、それフラグだぜ!」

「うるせー雁部、折って前出るぞ!」

 

 火線は切れない。誰かが撃ち、誰かが斬り、誰かが縫う。

 レッドキグナス中隊――戦場に散る瞬きの星が、今はひとかたまりの流星の様に前線を走っていた。

 

 

「止まるな」「抜けろ」「斬り抜けろ」

 

「前方、低い稜線越え! その裏、要撃級の塊!」

「俺が割る!」

 涼介の壱型丙が稜線へ飛び込み、頂点で一瞬だけ加重を抜いて“滑る”。長刀が稲妻の弧を描き、要撃級の前腕の付け根、前腕を正確に断つ。

「雁部、右は任せた!」

「はいよぉ!」

 雁部の36mmが要撃級の脚を縫いつけ、松本の跳躍からの“縦一文字”が、頭ごと落とす。

「松原、残りの外し、掃除!」

「了解。――三、二、一、クリア」

 

「小川、A小隊の左外側、薄い!」

「C小隊、左へ半身で寄れますか!? 富田中尉、120mmで“壁”、紗栄少尉、外縁を撃って“誘導”!」

「いけるっけ!」

「了解、撃ちます!」

 C小隊が左壁を作ると、群れの流れが“変わる”。誘導された戦車級と要撃級が“押し寄せる角度”になった瞬間、A小隊が真正面から叩き割る。

「……この波、切れる!」

 真里奈が短く息を飲み、A小隊の背後を流れるように走る。

「討ち漏らしがあります、私がいきます!」

「頼んだ!」と松原。

「まりーな動けるようになったね!」と松本。

「背中、預けだぜ!」と雁部。

 通信の重なりが、ちょっとだけ笑っていた。

 

「大友姐さん、BとCの“縫合”を続けてくれ。俺は前へ張る!」

「了解。――でも、戻ってくること。約束」

「任せろ。帰るまでが作戦だ!。今いる全員で生き残るぞ」

 

 

 突入部隊がハイヴに吸い込まれてから、もう三十分が経とうとしていた。

 遠くの空が、また一つ明滅する。重光線の“太い柱”はさすがに減ったが、光線級の細い“糸”はまだ縫うように飛び交い、遅れて戦術機の残骸が黒い点になって地へ落ちる。見慣れた地獄。見飽きない地獄。

 

「涼介、異常震源を感知しました――」

 葵の淡々とした声が僅かに揺れた瞬間、地面の底が低く鳴った。

 ず、ずず……と、佐渡そのものが寝返りを打つみたいに振動する。

「地震じゃない、ハイヴからの応力波……?」

 小川がつぶやくのと同時、計器に赤いラインが走る。

 

「全機、姿勢保持! 脚を取られるな!」

「了解!」

 A小隊が低い姿勢で砂利を蹴り、C小隊は砲口を下げて照準を保ったまま“耐える”。B小隊は即座に“AとCの空白”へ滑り込み、全体の隊形を崩さない。

 

「……今の、嫌な揺れだっけ」

「富田、珍しくビビってんじゃねぇか。」

「うるさいっけ、援護してやらねぇぞ!」

 

 揺れは収まらない。

 地表に“筋”が入る。突撃級が地中から頭をもたげたのではない。

 もっと深いところ――佐渡の心臓が、何かに反応しているみたいな、不規則な脈動。

 

「キグナス中隊――全機に告げます」

 葵の声が、静かに全体回線へ落ちてきた。いつもの淡々とした調子に、ほんのわずか、張りが混じる。

 

「こちらコマンド。緊急通達。ハイヴ内部より、規格外の振動波形を感知――」

 突入から三十分。

 地面が低く唸る。隊員たちが緊張で身構えたその時――通信回線が一斉に開かれる。

 

『こちら司令部――全隊に告ぐ。……国連群突入部隊、ジュリエット隊、の全滅を確認。繰り返す。突入部隊、全滅だ……なお第一層突入中のマイク、ノーベンバーの各隊は地表へ撤退中』

 

 冷気よりも冷たい言葉が、戦場を貫いた。

「なっ……全滅だと……!?」富田が思わず声を荒げる。

「……そんな、ハイヴの第10層まで行ったはずじゃ……!」松原が息を呑む。

 誰もが言葉を失った。全身を駆け巡るのは、絶望の気配。

 

「……バカヤベー、結構な部隊が突入してたぞ……」雁部でさえ、普段の軽口を忘れたように呟く。

 真里奈は顔を強張らせ、声を震わせた。「そんな……あれだけの大部隊が……」

 小川が静かに、しかし絞り出すように言った。「まだ“敗北”と決まったわけじゃない。だが、現実は……厳しい」

 

 涼介は歯を食いしばった。胸の奥で、炎のように怒りと悔しさが渦を巻く。

「全滅……? ふざけんなよ……!」拳で操縦桿を叩きつける。

 しかし、次の瞬間には顔を上げ、全員へ向けて怒鳴った。

「おい、キグナス! 動揺すんな! 突入部隊がやられたからって、俺たちまで止まるわけにゃいかねぇ! 俺たちの戦いは、まだ続いてんだよ!」

 

「大尉……」真里奈の目に揺れる炎。

「そうだっけな……!」富田も叫ぶ。

「俺らはまだ、生きてる!」松本が笑おうとする。

「なら、やることは一つだ」小川が冷静に結ぶ。

 

 誰もが悔しさを飲み込んだ。突入部隊全滅の報は、心を折るには十分すぎる衝撃だった。

 だが――涼介の叫びを合図に、レッドキグナス中隊はもう一度前を向く。

 死地を駆け抜ける彼らの戦いは、まだ終わっていない。

 

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