Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百四十三話 甲21号作戦−−プランB

全隊回線に、聞き慣れた落ち着いた声が落ちる。

 

「こちらキグナスリード――通達です。突入部隊全滅に伴い、作戦はプランBへ移行します」

 

 短い沈黙。汗の匂いと金属の匂いがコックピットに満ちる。涼介が舌打ちしてから、いつもの調子でわざとらしく嘆息した。

 

「はぁ……“Bプラン”ねぇ。国連の新兵器とかいうA-02でハイヴをぶっ壊す、だっけ。そんな便利グッズあんなら最初っから出せや」

 

「そういう愚痴は帰ってから、聞いてあげます」葵が微かに笑う。「現状、A-02の砲撃予定地点を国連軍部隊が確保中。問題は、その場所へBETAが殺到するのを止めること。ウィスキー各部隊は揺動・遊撃に移行。レッドキグナス中隊には、従前通り“突破で引き剥がす”を要請します」

 

「“従前通り”ね」小川が静かに受け、隊内チャンネルへ切り替える。「過去データだと、突入から約4時間で地表の主導権が戻るケースが多い。つまり時間との勝負。A-02の準備が整うまで、座標周辺のBETAの顔を全部、こっちに向け続けろって事ですね」

 

「よっしゃ、なら話は早え!」雁部が笑い、36mmを軽く引く仕草をする。「遊撃? 揺動? 俺らのことじゃねえか」

 

「揺動の意味、ちゃんと分かってますか?」松原が苦笑気味に釘を刺す。「引くべき時に引くまでが“揺動”ですからね、雁部少尉」

 

「おっ、松原。分かってるよ、ほら、この指もちゃんと“引く”形してるだろ?」

 

「カリ少尉!あたしも引くよ」松本がくすっと笑い引き金を引く動作を真似る。「ま、いっか! 突撃は任せて。松松コンビ、今日も斬って撃って掃くから」

 

「……よし、言質取った」涼介が笑い、すぐ顔を締める。「全機、600m後方の補給コンテナまで下がって弾薬・推進剤の補給だ! 葵、誘導を頼む」

 

「コンテナ座標、ルート送信。途中、光線級の存在を確認。高度を気をつけてください。」

 

「了解。――じゃ、行くぞ、キグナス!」

 

 レッドキグナス中隊は砂塵を帯びて下がる。焼けた空気を切り裂きながら、黒いコンテナ群へ滑り込んだ。

 

 

 

「機体固定。開け」

 壱型丙の腰部ハードポイントが“吸い付かれ”、メカニカルアームが素早く弾倉を抜き差ししていく。金属音が胸郭の中にまで響いた。

 

「前から三番、C小隊二枠開けます。詰めて!」大友の声が保安員みたいにキビキビ飛ぶ。「富田中尉、120mmを三積みでいきます? それとも二積み+36mm増し?」

 

「二積みに36mm増し、突撃砲は120mmより36mmの方が今んとこ“削り”が効くっけ」

「了解、装填――よし、生き返る音した」

 

「B小隊、真里奈の推進剤、先に満たせ。二人編成の一枚欠けは全滅だ」小川が短く言う。

「はい。……中尉、私、まだ――行けます」

「当たり前だ」涼介が即答する。「お前は“白鳥真里奈”として、ここにいる。勝手に真凜大尉を背負って沈むなよ」

 

「チビ兄のたまにはいい事言うね、たまにだけど」紗栄が横槍を入れる。「それと次の光線吶喊の時、チビ兄が突っ込む時は1.8秒だけ待って。紗栄が道作るから、信じて」

「了解。たまには妹に頼るのも悪くねぇな、しっかり俺の道を作ってくれや」

 

「その道、いつもの方向音痴で迷わないでくださいよ」小川がぼそり。「そこは紗栄の補正でなんとか」

「はいはーい、補正します」

 

「雁部、弾は補給足りてるか?」

「心配すんな。弾より口が先に尽きるわ」

「それは助かりませんよ」松原が肩を竦める。「口で釣ってるうちに僕たちが刈るから、ちゃんと喋り続けてくださいね」

 

「大友さん」真里奈が低く、だが柔らかな声で呼ぶ。「さっきの縫い合わせ、助かりました」

「礼は帰ってから。今は息を揃えることだけ考えて。――全機、補給完了。切り離し!」

 

 コンテナから伸びるケーブルが一斉に外れ、各機が滑るように外へ解き放たれる。

 涼介は長刀の柄を一度叩き、回線を叩き上げた。

 

「――聞いたな。A-02の座標に、BETAが殺到してる。だったら俺たちの仕事は一つだ。全部、引き剥がす。全部だ」

 

「全部、ですね」小川が淡々と復唱する。「言うのは簡単、やるのは難しい。いつものことですが……」

 

「いつものことだっけね!」富田が笑う。「難しいことは大声でやれば何とかなるっけ!」

 

「おーけー!」松本が拳を握る。「じゃ、大声担当はカリ少尉で!」

「任せろ! 喉潰れるまで叫ぶ!」

「潰さないでください、潰したら通信が静かになって怖いですから」松原が苦笑いでツッコミを入れる。

 

 葵が最後に、ほんの少し柔らかい声で言った。

「――レッドキグナス。全員、生きて帰ってください」

 

「任せろ、葵」涼介が短く笑う。「夫婦で初めての共同作業だ。やり切って無事に帰るぜ!」

 

 

揺動開始――“星”の針で、群れを縫い直す

 

「A小隊、前へ。対突撃級の“背”に回り込む導線、開く。C小隊、左に“壁”。B小隊はA小隊の背面、掃除と噛み付き阻止だ!」

 

『了解!』

 

 壱型丙が低く滑り、背面へ回すラインを半円で描く。突撃級は正面は堅いが鈍い。背中を見せさせるまでが勝負だ。

 雁部が“目立つ”火線で横っ面を引っ叩き、松本が一気呵成の縦斬りで背後から切り裂く。

「ナイスだ、松本!」

「任せとけー!」

 

 松原の36mmが戦車級の鼻先だけを点描のように潰し、群れの足並みを崩す。

「前、空きました! 大尉、今です!」

「行くぜぇ!」

 

 長刀が閃き、突撃級を後方から断ち割る。ドスン、と巨体が地面に倒れ込む直後、富田の120mmが同じ継ぎ目に押し込まれ、突撃級が前のめりに崩れた。

「俺が切って、味付けは富田、って感じだな!」

「おう、盛り付けは大友さんだっけ!」

 

「盛り付けって言わないの!」大友が苦笑しつつ、散開しかけた戦車級に面火力を浴びせる。「はい、“お皿”の外にこぼれない!」

 

「右上、光線警報」紗栄の声が澄む。「チビ兄、1.8秒遅らせて」

「イチ、ニ、今!」

 光の“糸”が地表を浅く撫で、すぐ先で砂が白く蒸した。遅らせた突入で、壱型丙は線の外側をかすめるだけで済む。

「助かった!」

「当たり前!」

 

 B小隊の2人は常に冷静だった。

「真里奈、A小隊の左後ろの“穴”、埋めてくれ」

「了解、二機分前へ」

 真里奈の不知火が滑り込み、要撃級を機械的に潰していく。息は上がらない。

「――鍋島大尉、聞こえますか。私、まだ怖いです。でも、進めます」

「上等だ。それが“白鳥真里奈”だ」

 

「A-02座標に向け、ハイヴ外周のBETAが動き出してる。波が東から西へ変わる」小川が全体に落とす。「曲がる流れに刺さる形で、火線を斜めに敷いて“誘導妨害”。C小隊、できますか?」

 

「やってやるっけ!」富田が120mmを短く四連。「大友さん、右の抜け道塞いで!」

「了解、リボン巻くみたいに火線を回す――はい、そっちは通れない!」

 

「雁部、吠えろ!」

「おおおおおおおッ! こっち見ろって! “A-02”なんざ忘れろ、相手はここだ!」

 

 群れの顔が、確かにこっちへ向く。視線を奪うのも、技術だ。

 

 

 

「チビ兄、また、光線来る!」

「頼む紗栄。――イチ、ニィィィ!、今!」

 涼介がレーザーを回避、松本が“断つ”角度で跳ね上がり、光線級の集団を切り飛ばす。

「松本! 今の角度、完璧!」

「やったねぇ〜みっちゃん、後ろお願い!」

「任せろ。――クリア」

 

「全体、良い流れで動けてます!」小川が珍しく肯定を連続させる。「富田中尉の弾幕が効いてる。火線が切れてない。このままA-02座標から引き剥がしましょう!」

 

「大友姐さん」涼介が呼ぶ。

「なに?」

「B小隊とC小隊の合わせ目が命だ。姐さんの裁縫が崩れたら、隊が“破ける”」

「うん。任せて。みんなとの繋がり、絶対に破らせない」

 

 そのとき、空気が小さく脈動した。

 遠方――A-02の砲撃座標方向から、低い雷鳴のような地鳴り。

「始まってる……?」真里奈が呟く。

「まだだ」小川が即座に返す。「前座が騒いでるだけ。俺たちの仕事は変わらない」

 

「変わらないっけ!」富田が吠え、砲身を振り切る。「こっちだこっち! 帝国の意地、見せてやる!」

 

「帝国の意地と、キグナスの悪ノリな」雁部が笑う。

「悪ノリは否定しません」松原が肩を竦める。「結果が良ければ、過程はだいたい正義です」

 

「じゃ、結果だけあとであたしにちょうだい」松本が僅かに冗談めかす。「そしたら次は隊長やるんだ〜」

 

「俺がいる限り隊長はゆずらねぇよ!――全員でやってやんぞ!」涼介が言い切る。「行くぞ、もう一段深く刺す!」

 

 

揺らぎ続ける地獄で、笑って前へ

 

 レッドキグナス中隊は、針になった。

 群れの皮膚に刺さり、縫い目を作り、ほどけそうになる場所を縫い直し、A-02砲撃予定座標から引き剥がす。

 A小隊は派手に。B小隊は冷静に。C小隊は確実に。そして大友は縫い目を走る。

 

「弾、残三割」松原。

「推進剤、黄ランプ」真里奈。

「砲身温度、限界近いっけ」富田。

「声が枯れそう!」雁部。

「喉の潤滑油は帰ってから。はい次の群れ」大友。

「チビ兄、あと1.2秒待って!」紗栄。

「イチニ――斬っ!」涼介。

 

 ドガン、と遠方でまた地が鳴った。

 葵の声が、緊張を隠さないまま、しかし落ち着いて届く。

 

「各隊へ――プランB継続。A-02座標に向かうBETAの大規模移動を確認。キグナスの揺動は効いています。このまま――時間を稼いでください」

 

「葵」涼介が短く呼ぶ。

「はい」

「見てろよ。――絶対佐渡を取り戻してやるからよ!」

 

「……はい、涼介。――行ってらっしゃい」

 

「おう。――レッドキグナス、俺に続け! BETA共に俺たちの強さ見せつけろ!!」

 

『了解!!』

 

 壱型丙が再び火の玉になり、星々が後を追う。

 笑い声と怒号と、短い合図。

 軽口が、恐怖より速い。

 それが、レッドキグナス中隊の“いつも通り”だった。

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