Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「よっしゃ!行くぞ! 門の向こうから奴ら湧き出してる、減らせるだけ減らすんだ!」
涼介の声が、部隊内の通信を震わせる。視界は地表を這う黒い波──門を抜けたBETAの群れが、規則的に、しかし途方もない密度で南へ向かっている。画面のテレメトリが示す速度は平均時速60キロ。A-02の砲撃予定地点へ向かう列をなしている。
「了解っす、A小隊前進するぜ。ナベさん、先頭で道作ってくれ!」
雁部の声が返る。機体は不知火を前傾させ、跳躍ユニットの噴射音が低く唸る。
「ナベ大尉が先に行くのはいつものことだよね?」松本が笑い混じりに返す。だがその声には冷静さが宿り、操縦桿を握る手はぶれない。
補給コンテナからの短い補給を終え、機体には新しい武装に換装している。弾薬と推進剤を満載し、レッドキグナスは“門前掃討隊”としての任務に突入していた。目的は単純だ。A-02砲撃前に少しでもBETAの数を減らし、直援部隊と新兵器への負担を軽くすること。数万もの群れを止めることなど出来ない。だが一体でも多く、重光線級や光線級の数を削ることは可能だ。
「支援砲撃の弾着、確認。帝国艦隊が対レーザー弾の換装を随時しています。全力の飽和攻撃は10分後に開始されます。飛翔体優先で光線級を少しでも抑える為に砲撃は続けられますが、数が足りません。注意してください」
葵の淡々とした声が無線を横切る。だが、いつもの冷静さの奥にある緊迫は、キグナス中隊に真正面から伝わる。
「70%の砲弾撃墜率って、100体当たりで考えると──」小川が計算を呟く。彼の頭の中では瞬時に数式が走り、戦力配分が組まれていく。「まずは門からの直通ラインを断つしかないですね。重光線と光線が飛翔体を優先的に狙うから、砲撃がある間に叩きにいかないと……36mmで光線級を削って、120mmで抉る」
「任せるっけ、俺の弾はすり抜けられねぇっけね!」富田が低く吠える。彼の声は周囲を鼓舞する。C小隊は砲撃支援の主力だ。紗栄は支援突撃砲で狙撃を行い、的確にA小隊へ迫るBETAを沈黙させる。大友はCとBの境目を回ってフォローに回る、いわば流動的な部隊内の潤滑油だ。
最初の接触は門の向こう三百メートルで起きた。要激級、戦車級の大群が画面を埋め尽くす。だが、隊の動きは嵐のように統率されている。
「松原、前に出ろ、俺が左を潰す」涼介の指示は短い。松原は即座に反応し、松本と合わせて連携の波動――いや、互いの機体動作が“連撃”のように噛み合う。二人のコンビネーションは、以前の模擬戦の延長線にあるが、実戦での精度は明らかに違った。敵の列に切れ目が生まれる。
「ナベさん、後方に要撃級二体展開、右側面から包むぜ!」雁部が叫ぶ。要撃級が二体、列の側面から襲いかかってくる。斧のような前肢が機体を叩きつけると、一瞬で装甲が抉れるので当たる訳にはいかない。
「引きつけて、俺が撃つ!」涼介が叫び、低く跳躍して要撃級の視界へ飛び込む。跳躍ユニットの噴射が白く光り、36mmの集中掃射。要撃級の一体が横倒しになり、もう一体は松本と松原の連携で側面を突かれて崩れる。連携射撃、索敵の読み、被弾の回避──それぞれの役割が噛み合って、刃となる。
一方、B小隊は薄いラインで行動している。小川は冷静に指示を出し、真里奈はその指示に必死で喰らいつく。
「真里奈、左二時方向に光線級1、背後に戦車級群。小回りでまとめて落とす、落ち着いていけ!」小川の声は低く明晰だ。交戦の渦中、小川の指揮力は単なる解析を超え、戦況を一つにまとめる磁場となる。
「了解…! わかりました、行きます!」真里奈の声は震えながらも確かだ。彼女は姉の影を追ってきたが、今は“白鳥真里奈”として、小川の前で自分を証明する。彼女が36mmを集中し、戦車級の群れに少しずつ切り込んでいくと、A小隊の突撃が通路を開く。
砲煙の間に、レーザーが走る。帝国艦隊の対レーザー弾が次々と”空中”のを引き裂き、光線級の捕捉と射線が乱れる。だが重光線級は別格だ。その一撃が着弾すれば戦術機は一瞬で蒸発する。だからこそ、地上の味方を守るために、艦隊は「飛翔体優先」で対レーザー弾を発射し続けてくれている。
「重光線が出たら、即座に行くぞ! 照射開始の兆候は小さな静電ノイズ、見逃すな!」涼介の声が通信に響く。誰もがその指示を守る。だが、BETAの群れが走る中、対応時間は限られている。
「目標、光線級多数!突っ込むぞ! 小川、後頼む!」涼介が吠え、小川は即座に全機に指示を飛ばす。動きながら的を絞らせず、斉射し突撃バカの隊長の道を作る。これが今の戦術だ。C小隊の砲撃が火柱をあげ、紗栄の狙撃が要所を潰す。大友はその狙いを支え、重心をずらすように敵群の側面を突く。
それでも数は多い。門の向こうから湧き出すBETAの列は途切れず、撃破の数字は累積しても、群れの総数に対して焼石に水だと誰もが感じる。しかし、彼らはやる。小さな削減が、直援部隊の生存確率を上げる。
「バカヤベー!全然減らねぇ!!」雁部が叫ぶ。視界の先、後方に巨大な影。要塞級まで出てきている、確実に数は減らしている筈だか、無限とも思える圧倒的な物量でBETAが湧いてくる。だが、まだ新兵器は到着していない、新兵器がどれほどの物なのかはわからないがそこへ向かい地上へBETAが殺到しているのだ。
「まだ…まだだ。耐えろっけ!」富田が唸る。C小隊の砲撃が敵の列を一瞬切り裂き、A小隊がその切れ目を突いて突進する。松本が機体を捻り、不知火の長刀を振り下ろして敵を斬る。その合間に、真里奈が苦しい表情で要撃級を屠る。彼女の動きは、まだ荒削りだが確実に成長している。
「大尉、見えますか? あの列を切れば要塞級まで道が開けます!」小川の声が響く。
「行くぜ! 全弾集中、抜くぞ!」涼介は叫び、機体を前に押し出す。A小隊が前方で暴れ回り、B小隊の2人がその後方で掃討線を引き、C小隊が火の海を作る。群れは裂け、数が目に見えて減少する。
そして──誰かが叫んだ。通信が割れる。
「要塞級!光線級含む小型種を排出」葵からの一報。機体内の空気が一瞬で張り詰める。
「クソがぁ!松本!要塞級抑えろ!松原、雁部!出てきた小型掃討すんぞ!」涼介が叫びながら指示を飛ばす。
A小隊の3人は「了解!!」と声を揃え突撃していく。
「やるべきことは一つだ。出来るだけ多く減らしてやる。発射前に少しでもこいつらの数を削るんだ!俺を死なせるなよ!」涼介が言い放つ。誰もが頷く。笑いはない。だが、恐怖に飲まれることなく、彼らは刃を研ぎ続ける。
A-02の砲撃がどれほどの効果を持つか、誰も完全には知らない。だが、今の彼らは“待つ”わけにはいかない。砲撃までの時間、その一秒一秒が友軍の生死を分ける。だから、刃を振るい、弾を打ち、血と煤にまみれて前へ進むのだ。
「行くぜ、ナベさん!」雁部がニヤっと笑いながら涼介の壱型丙の横を飛ぶ。
「おう、付いてこいや!」涼介が応じ、声は遠雷のように戦場に轟いた。彼らはまた一歩踏み込む──A-02の砲撃を信じて、そして自らの手で生き残る者を増やすために。