Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「よっしゃ! 行くぞテメェら!!
門の向こうからウジャウジャ奴ら湧き出してる! 減らせるだけ減らすぞ!」
涼介の怒声が、部隊内通信を震わせた。
視界一面を埋め尽くすのは、地表を這う黒い奔流――門を抜け、規則正しく、それでいて狂気じみた密度で南下するBETAの群れだ。
テレメトリが示す速度は平均時速60キロ。進路の先には、A-02砲撃予定地点。
「了解っす! A小隊、前進するぜ!」
雁部の声が弾む。「ナベさん、いつも通り先頭で道作ってくれ!」
「おうよ、突っ込み役は任せとけ」
涼介は苦笑しつつ、壱型丙を前傾させる。跳躍ユニットが低く唸り、不知火が地表を蹴った。
「ナベ大尉が先頭じゃないと、逆に不安になるよね」
松本が軽口を叩く。だが操縦桿を握る手は微塵も揺れていない。
「笑ってる場合じゃないぞ、松本」
松原が即座に被せる。「敵密度、前回より高い。気を抜くと噛み合わない」
「わかってるって。だから一緒に行くんでしょ?」
松本はそう言って、松原の機影にぴたりと重なる。
補給コンテナでの短時間補給を終え、弾薬と推進剤を満載したレッドキグナス中隊は、門前掃討の任務に再突入していた。
数万の群れを止めることは出来ない。だが、一体でも多く削ることは出来る。
「支援砲撃、弾着確認」
葵の淡々とした通信が入る。「帝国艦隊、対レーザー弾へ換装済み。
全力飽和は十分後。現在は飛翔体優先で間引きを行います。注意してください」
空の向こうで、無数の光点が弾けた。
対レーザー弾が、光線級の射線を引き裂いていく。
「……守られてる感覚がありますね」
真里奈が思わず呟く。
「その分、地上は自分たちで何とかするしかないって事だ」
小川が冷静に返す。「真里奈、後方警戒続行。討ち漏らしは任せる」
「はい……っ!」
真里奈の声は緊張を含みつつも、確かだった。
最初の接触は門の外、約三百メートル。
戦車級、要撃級の塊が画面を埋め尽くす。
「松原、右! 俺が左を潰す!」
涼介の指示は短い。
「了解!」
松原が即応し、松本と視線も交わさず連携に入る。
二機の動きは噛み合い、斬撃と射撃が“連撃”のように重なる。
「後方、要撃級二体! 側面から来る!」
雁部が叫ぶ。
「引きつけろ! 俺が撃つ!」
涼介が低空跳躍。36mmの集中掃射が要撃級の頭部を砕く。
「ナイスだチビ兄!」
紗栄の声と同時に、支援突撃砲の一撃が戦車級の列を貫いた。
「A小隊、突撃路クリア!」
紗栄が続ける。「次、右側面!」
「C小隊、砲撃続行だ!」
富田が吠える。「120mm、間隔詰めるっけ!」
「了解だよ!」
大友が応じ、B小隊とC小隊の間を縫うように移動する。
「真里奈、そっち二時方向、詰まりすぎ!」
「ありがとうございます!」
真里奈は即座に進路を修正し、戦車級の群れを36mmで削る。
その時だった。
「……え、これ……」
小川の声が低く沈んだ。
データリンクの一角に、A-02直援部隊の戦況が拡大表示される。
「要塞級……二十以上?」
松原が息を呑む。
「囲まれてる……」
松本が言葉を失う。
画面の中、A-01部隊は完全包囲。
だが――
「……減ってる?」
紗栄が呟いた。
要塞級の反応が、一つ、また一つと消えていく。
「単騎……?」
真里奈が目を見開く。
「一機で……要塞級を、叩いてる……?」
大友が信じられないという声を出す。
データリンク上で、二十三体の要塞級反応が表示され、
次々と消失していく。
「バッカヤベー……冗談だろ」
雁部が乾いた笑いを漏らす。「人間の戦い方じゃねぇバッカヤベーよ」
「でも……生きてます」
小川が静かに言う。「全機健在……A-01、全機」
涼介は、ただ画面を見つめていた。
「……あれが、国連の切り札か」
「反則にも程があるっけ……」
富田が呟く。
「でもさ」
松本がぽつりと言う。「あれだけ暴れても、全部は止められない」
その通りだった。
A-01部隊が要塞級を削っても、BETAの流れ自体は止まらない。
「だから、俺らが削る」
涼介が言った。
「役割が違うだけだ。向こうは“抜く役”、俺らは“減らす役”」
「……了解」
小川が応じる。
葵の声が再び入る。
「A-02、砲撃開始地点へ移動中。
直援部隊の迎撃で敵集結速度は低下しています。
レッドキグナス中隊、掃討を継続してください」
「聞いたな、全員!」
涼介が叫ぶ。「まだ終わりじゃねぇ!」
「A小隊、いつでも前へ!」
雁部、松原、松本が声を揃える。
「B小隊、後方と討ち漏らし継続!」
小川の指示に、真里奈が力強く応える。
「C小隊、火線止めるな!」
富田の怒号に、紗栄と大友が続く。
門の向こうから、まだBETAは湧く。
だが、彼らは削り続ける。
遠く、データリンクの向こうで、
A-02のマーカーは静かに砲撃位置へ向かっている。
その一撃を信じて。
「行くぞ、キグナス!」
涼介の声が戦場に轟く。
「まだ、俺らの仕事は終わってねぇ!」