Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
通信が、途切れることなく叩き込まれる。
「ウィスキー部隊、総損耗率55%を突破……」
「近衛第16大隊、旧高瀬―沢根防衛線に緊急展開、辛うじて維持中」
「エコー全隊、損耗率37%……」
「主力部隊、湯ノ峰山跡に防衛線構築中」
「全作戦艦艇、砲弾残量20%を切りました……」
淡々とした報告の連打。
それはもはや“状況説明”ではなく、“終わりの予兆”だった。
「……チッ」
涼介は舌打ちを噛み殺す。
怒鳴る気力も、吐き捨てる余裕もない。
「削り切れてねぇ……それでも前に出続けるしかねぇのかよ……」
視界の先、門から吐き出されるBETAの波は、未だ止まらない。
数は確実に減っている。だが――それ以上に、こちらの数が減っていた。
「A小隊、前線維持だ! 後退はするな、でも無理に突っ込むな!」
涼介の声は掠れているが、芯は折れていない。
「了解!」
雁部が即答する。「でもよ、ナベさん……そろそろヤバくねぇか?」
「わかってる……わかってるっつの!」
松原と松本は、もはや言葉を交わす余裕もなく、
互いの動きだけで連携を維持していた。
「右、戦車級密集! 斬る!」
「了解、援護!」
二機が交差し、血と装甲片が宙を舞う。
その後方。
B小隊は、限界に近い二機で戦線を支えていた。
「……小川中尉……視界、狭まって……」
真里奈の声が、微かに揺れる。
「無理するな、真里奈! 深呼吸だ、今は耐えろ!」
小川が即座に返す。
だが、その瞬間だった。
真里奈の視界が――暗転した。
ほんの一瞬。
コンマ数秒にも満たない意識の断絶。
不知火の挙動が、止まる。
「……っ!」
警報が鳴る前に、それは迫っていた。
要撃級。
巨大な前肢が、真里奈の不知火を叩き潰そうと振り下ろされる。
「……あ……」
思考が止まり、
真里奈は、思わず目を閉じた。
――死ぬ。
その瞬間。
衝撃は、来なかった。
「目ぇ閉じてんじゃねぇ!!」
怒号が、鼓膜を叩き割る。
次の瞬間、要撃級の前肢が爆散した。
「……っ!?」
「戦場で目を閉じるな!! 死んでも意識を保て!!」
松原だった。
彼の不知火が、真里奈の前に割り込み、
36mmと近接斬撃を叩き込んで要撃級を仕留めていた。
「……あ……」
真里奈の視界が戻る。
心臓が、耳元で爆音を立てている。
「……す、すみません……!」
「謝るな!! 生きろ!!」
松原は怒鳴り返しながら、機体を反転させる。
その脳裏に、過去がよぎる。
――あの時も、そうだった。
恐怖と疲労で意識が飛んだ自分を、
高梨少尉が、命懸けで引き戻してくれた。
(……高梨少尉)
松原は、ふっと笑った。
「……自分も、助けられましたよ」
誰にも聞こえない呟き。
だがその言葉と共に、彼の操縦は一段鋭くなる。
「真里奈! 戻ってこい、今だ!」
小川が叫ぶ。
「……はいっ!」
真里奈は歯を食いしばり、
強化装備の興奮剤を打ち込む。
「……っ!」
血が逆流するような感覚。
視界が、赤みを帯びる。
「ありがとうございます……! 助かりました! もう大丈夫です!」
その声は、先ほどよりも明確だった。
だが――
キグナス中隊は、すでに限界を超えている。
綻びは、必ず生まれる。
「――っ!!」
転倒音。
「大友さん!!」
大友の不知火が、BETAの死骸に脚を取られ、地面に叩きつけられた。
「くっ……! やっちまったよ……!」
即座に、複数の反応が殺到する。
「小さい鍋島!、援護! 俺が行くっけ!!」
富田が吠え、
自らの不知火を大友の前に滑り込ませた。
「大友! 立てるか!!」
「……なんとか! 大丈夫だよ!!」
だが、その瞬間――
「――富田さん!!」
紗栄の叫びと共に要撃級の前肢が、横薙ぎに振るわれる。
回避は、間に合わなかった。
ゴンッ!!
鈍い衝撃音。
富田の不知火の左腕が、根元から吹き飛んだ。
「ぐっ……!!」
「富田!!」
「問題ねぇっけ……! 生きてる!!」
富田の声は荒い。
機体はバランスを崩しながらも、辛うじて立っている。
「左腕損失……! でも戦えるっけ!!」
「バカ言うな! 下がれ!」
涼介が怒鳴る。
「冗談じゃねぇ……ここで下がったら、誰が道作るっけ……!」
富田は、それでも突撃砲を向ける。
生存はしている。
だが、誰が落ちてもおかしくない。
その事実が、全員の胸を締め付ける。
涼介の脳裏に、一瞬だけ“後退”がよぎる。
――一度、下がって補給を……
だが、その思考を切り裂くように。
「……鍋島大尉」
葵の声が、静かに、しかしはっきりと届いた。
「A-02――
発射シーケンスに入りました」
その一言で、
戦場の空気が、変わった。