Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百四十六話 限界と綻び

通信が、途切れることなく叩き込まれる。

 

「ウィスキー部隊、総損耗率55%を突破……」

「近衛第16大隊、旧高瀬―沢根防衛線に緊急展開、辛うじて維持中」

「エコー全隊、損耗率37%……」

「主力部隊、湯ノ峰山跡に防衛線構築中」

「全作戦艦艇、砲弾残量20%を切りました……」

 

淡々とした報告の連打。

それはもはや“状況説明”ではなく、“終わりの予兆”だった。

 

「……チッ」

 

涼介は舌打ちを噛み殺す。

怒鳴る気力も、吐き捨てる余裕もない。

 

「削り切れてねぇ……それでも前に出続けるしかねぇのかよ……」

 

視界の先、門から吐き出されるBETAの波は、未だ止まらない。

数は確実に減っている。だが――それ以上に、こちらの数が減っていた。

 

「A小隊、前線維持だ! 後退はするな、でも無理に突っ込むな!」

涼介の声は掠れているが、芯は折れていない。

 

「了解!」

雁部が即答する。「でもよ、ナベさん……そろそろヤバくねぇか?」

 

「わかってる……わかってるっつの!」

 

松原と松本は、もはや言葉を交わす余裕もなく、

互いの動きだけで連携を維持していた。

 

「右、戦車級密集! 斬る!」

「了解、援護!」

 

二機が交差し、血と装甲片が宙を舞う。

 

その後方。

B小隊は、限界に近い二機で戦線を支えていた。

 

「……小川中尉……視界、狭まって……」

 

真里奈の声が、微かに揺れる。

 

「無理するな、真里奈! 深呼吸だ、今は耐えろ!」

小川が即座に返す。

 

だが、その瞬間だった。

 

真里奈の視界が――暗転した。

 

ほんの一瞬。

コンマ数秒にも満たない意識の断絶。

 

不知火の挙動が、止まる。

 

「……っ!」

 

警報が鳴る前に、それは迫っていた。

要撃級。

巨大な前肢が、真里奈の不知火を叩き潰そうと振り下ろされる。

 

「……あ……」

 

思考が止まり、

真里奈は、思わず目を閉じた。

 

――死ぬ。

 

その瞬間。

 

衝撃は、来なかった。

 

「目ぇ閉じてんじゃねぇ!!」

 

怒号が、鼓膜を叩き割る。

 

次の瞬間、要撃級の前肢が爆散した。

 

「……っ!?」

 

「戦場で目を閉じるな!! 死んでも意識を保て!!」

 

松原だった。

 

彼の不知火が、真里奈の前に割り込み、

36mmと近接斬撃を叩き込んで要撃級を仕留めていた。

 

「……あ……」

 

真里奈の視界が戻る。

心臓が、耳元で爆音を立てている。

 

「……す、すみません……!」

 

「謝るな!! 生きろ!!」

 

松原は怒鳴り返しながら、機体を反転させる。

 

その脳裏に、過去がよぎる。

 

――あの時も、そうだった。

 

 

恐怖と疲労で意識が飛んだ自分を、

高梨少尉が、命懸けで引き戻してくれた。

 

(……高梨少尉)

 

松原は、ふっと笑った。

 

「……自分も、助けられましたよ」

 

誰にも聞こえない呟き。

だがその言葉と共に、彼の操縦は一段鋭くなる。

 

「真里奈! 戻ってこい、今だ!」

小川が叫ぶ。

 

「……はいっ!」

 

真里奈は歯を食いしばり、

強化装備の興奮剤を打ち込む。

 

「……っ!」

 

血が逆流するような感覚。

視界が、赤みを帯びる。

 

「ありがとうございます……! 助かりました! もう大丈夫です!」

 

その声は、先ほどよりも明確だった。

 

だが――

キグナス中隊は、すでに限界を超えている。

 

綻びは、必ず生まれる。

 

「――っ!!」

 

転倒音。

 

「大友さん!!」

 

大友の不知火が、BETAの死骸に脚を取られ、地面に叩きつけられた。

 

「くっ……! やっちまったよ……!」

 

即座に、複数の反応が殺到する。

 

「小さい鍋島!、援護! 俺が行くっけ!!」

 

富田が吠え、

自らの不知火を大友の前に滑り込ませた。

 

「大友! 立てるか!!」

 

「……なんとか! 大丈夫だよ!!」

 

だが、その瞬間――

 

「――富田さん!!」

 

紗栄の叫びと共に要撃級の前肢が、横薙ぎに振るわれる。

 

回避は、間に合わなかった。

 

ゴンッ!!

 

鈍い衝撃音。

富田の不知火の左腕が、根元から吹き飛んだ。

 

「ぐっ……!!」

 

「富田!!」

 

「問題ねぇっけ……! 生きてる!!」

 

富田の声は荒い。

機体はバランスを崩しながらも、辛うじて立っている。

 

「左腕損失……! でも戦えるっけ!!」

 

「バカ言うな! 下がれ!」

涼介が怒鳴る。

 

「冗談じゃねぇ……ここで下がったら、誰が道作るっけ……!」

 

富田は、それでも突撃砲を向ける。

 

生存はしている。

だが、誰が落ちてもおかしくない。

 

その事実が、全員の胸を締め付ける。

 

涼介の脳裏に、一瞬だけ“後退”がよぎる。

 

――一度、下がって補給を……

 

だが、その思考を切り裂くように。

 

「……鍋島大尉」

 

葵の声が、静かに、しかしはっきりと届いた。

 

「A-02――

発射シーケンスに入りました」

 

その一言で、

戦場の空気が、変わった。

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