Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第百五十三話 ――燃え尽きるまで、生き残れ

2001年12月25日

 

A-02《凄乃皇弐型》の自爆をもって、

佐渡島ハイヴの完全破壊が確認された。

 

甲21号作戦は、ここに一応の成功を収める。

 

“成功”という言葉が、どれほど薄っぺらいものかを、

その場にいた全員が理解していた。

 

 

キグナス中隊は、戦術機母艦へと帰投した。

 

コックピットから降りた瞬間、

涼介はその場で膝をつきそうになった。

 

身体が、もう動きたがらなかった。

 

「……生きて、帰ってきたな」

 

誰に言うでもなく、呟く。

 

整備員の声も、担架の音も、

どこか遠くで鳴っているようだった。

 

戦死者――

岸本悠真少尉

池田静少尉

前園浩輔少尉

 

三名。

 

数字だけ見れば、

甲21号作戦という地獄の中では、奇跡的とすら言える。

 

だが、

“いなかったこと”には、ならない。

 

格納庫の一角で、

機体のないハンガーが三機分、

静かに空いていた。

 

 

長岡基地へ帰還後、キグナス中隊は一日だけの休息を与えられた。

 

本当に、一日だけ。

 

涼介はベッドに倒れ込んだまま、

目を閉じた瞬間に意識を失い、

次に目を開けた時には、

自分がどこにいるのかも分からなかった。

 

夢は、見なかった。

 

それが、何より救いだった。

 

 

デブリーフィングは簡潔だった。

 

成功。

損耗。

次。

 

誰も泣かなかった。

誰も怒らなかった。

 

泣く力も、怒る気力も、

もう残っていなかった。

 

「……今日は解散だ」

 

涼介の一言で、

キグナス中隊は立ち上がった。

 

“戦いの日常”へ。

 

 

2001年12月29日

 

佐渡島ハイヴの残存BETA群が、

横浜基地へ強襲を開始。

 

警報が鳴った瞬間、

まだ包帯も取れていない衛士たちが走った。

 

レッドキグナス中隊、

9機編成でスクランブル。

 

「冗談だろ……」

 

雁部が吐き捨てる。

 

「……でも、行くしかねぇな」

 

涼介は短く答えた。

 

新潟県沿岸部での迎撃戦。

 

弾薬は足りない。

身体も足りない。

 

それでも――

誰一人、引かなかった。

 

「来るぞ、右!」

 

「富田、撃て!」

 

「了解っけ!」

 

戦線は乱れ、

空は光り、

地面は裂けた。

 

勝った。

 

だが、代償はあった。

 

富田の不知火が大破し、

彼自身も重傷。

 

担架に運ばれながら、

それでも彼は笑っていた。

 

「……すまんっけ、

 しばらく後ろ、任せたっけね……」

 

「馬鹿言うな」

 

涼介はそう言って、

富田の肩を叩いた。

 

キグナス中隊は、

後衛の要を一時的に失った。

 

横浜基地は、大損害を受けた。

 

“勝利”という言葉は、

もう誰も口にしなかった。

 

 

2001年12月31日

 

桜花作戦、発動。

 

目標:喀什オリジナルハイヴ

――あ号標的。

 

世界中の部隊が、

同時に“囮”として動かされた。

 

レッドキグナス中隊は、

もはや中隊としての形を保てていなかった。

 

再編。

編入。

名前が消えていく。

 

彼らは帝国軍の一部として、

重慶ハイヴへの陽動作戦に投入された。

 

誰が隣にいるのか、

分からない戦場。

 

それでも、

背中を預けるしかなかった。

 

「……お正月だよ〜」

 

松本がぽつりと言う。

 

「黙って動け」

 

松原が即座に返す。

 

涼介は、何も言わなかった。

 

 

2002年1月1日

 

あ号標的、破壊確認。

 

桜花作戦、終了。

 

人類は――

かろうじて、生き残った。

 

レッドキグナス中隊の面々は、

ボロボロになりながらも、

全員が長岡基地へと帰還した。

 

誰も欠けなかった。

 

それだけが、事実だった。

 

 

滑走路に降り立った不知火壱型丙を見上げながら、

涼介は、深く息を吐いた。

 

「……終わったな」

 

誰も、すぐには答えなかった。

 

戦争は終わっていない。

だが、

彼らの“何か”は、確かに終わった。

 

涼介は空を見上げる。

 

あの日、

凄乃皇の爆光が照らした空。

 

佐渡が消えた空。

 

――兄貴。

 

心の中で、隼人を呼ぶ。

 

まだ、生きている。

 

それだけで、

進む理由には、十分だった。

 

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