Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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Red Cygnus The Day After
Tha Day After 小川陸 ――引き継がれた背中


長岡基地、早朝。

 

まだ霧の残る滑走路を、小川陸は一人歩いていた。

手には端末。そこに表示されているのは、簡潔すぎるほど簡潔な文面。

 

――レッドキグナス中隊 中隊長任命 大尉へ昇格

 

正式な辞令だった。

 

「……はぁ」

 

思わず、ため息が漏れる。

 

やりたくなかった。

正直に言えば、今でもそう思っている。

 

責任が重いとか、荷が勝ちすぎているとか、そういう理由じゃない。

ただ――あの人の場所だからだ。

 

「兄貴……」

 

誰もいないはずの滑走路で、ぽつりと呟く。

 

もういない。

それは理解している。

近衛に行ったと聞いた時も、頭では納得していた。

 

それでも、無意識のうちに振り返ってしまう。

怒鳴り声が飛んできそうな方向を。

 

当然、何も起きない。

 

 

 

ブリーフィングルーム。

 

円卓の席に、見慣れた顔が揃っていた。

 

富田、大友、松原、松本、雁部、真里奈、紗栄。

人数は減った。

空席もある。

 

小川はその中央に立つ。

 

「……今日から、俺が中隊長を務めます」

 

声は思ったより落ち着いていた。

 

「正直言って、向いてるとは思ってません」

 

即座に雁部が口を挟む。

 

「知ってる」

 

「静かにしてください」

 

即答で切り返すと、小さく笑いが起きた。

それだけで、少し肩の力が抜ける。

 

「でも、鍋島大尉――いや、兄貴から任された以上、逃げるつもりはありません」

 

その言葉に、全員が表情を引き締める。

 

「兄貴みたいな突撃は出来ません。無茶も出来ない。だから――」

 

一拍、間を置く。

 

「死なせません。誰一人」

 

その瞬間、富田が深く頷いた。

 

「それでいいっけ」

 

大友も柔らかく微笑む。

 

「小川らしいね」

 

 

 

解散後。

 

格納庫で、小川は一人、立ち止まる。

 

並ぶ不知火の列。

その先頭にあるのは――涼介のいた場所。

 

かつて保科大尉から涼介へ、そして今は涼介から自分が託された不知火壱型丙が格納されている。

 

「……居なくなってから、存在感出すのは反則ですよ」

 

誰に向けるでもなく、そう言って苦笑した。

 

その時、背後から声がかかる。

 

「中隊長」

 

振り返ると、紗栄だった。

 

「何だ?」

 

「……ちゃんとやれてると思う」

 

小川は一瞬、言葉に詰まる。

 

「チビ兄がいたら、もっと派手にやってるかもだけど」

 

紗栄は少しだけ笑う。

 

「でも、今のキグナスは……小川大尉の隊だと思うから」

 

小川は目を伏せ、静かに答えた。

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

その夜。

 

喫煙所。

 

小川は煙草を咥え、火をつけた。

 

一口吸って、空を仰ぐ。

 

「兄貴」

 

名前は出さない。

だが、確かにそう呼んでいた。

 

「約束、守りますよ」

 

煙が夜に溶けていく。

 

最前線で暴れる背中はいなくなった。

だが、その背中が残したものは、確かにここにある。

 

レッドキグナス中隊は、まだ戦える。

 

――小川陸が、そう決めた。

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