Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第十三話 京都へ向かう夜

夜の帳が長岡基地を包み込んでいた。だが、格納庫の中に眠る鋼鉄の巨人たちは、どこか不穏な空気をまとっていた。

 

 帝国陸軍第17戦術機甲師団・サマートライアングル大隊。その一角を担うレッドキグナス中隊。彼らに、ついに本土防衛戦への出撃命令が下った。

 

 行き先は――京都。

 

 重慶ハイヴから押し寄せたBETAが北九州を踏みにじり、中国・四国地方を貫き、いまや近畿へ迫っている。

 京都を死守すべく、サマートライアングル大隊は東海・北陸方面から派遣され、最前線の一角を担うこととなった。

 

 

 ブリーフィングルーム。

 

 白鳥真凜大尉が、いつもの荒々しい声で作戦図を示す。

 

 「レッドキグナスは、師団左翼に展開する第二群に編入。BETA第六波接触の後、即時火線投入される」

 

 浮かび上がる地図には、京都市街と南山域の戦線図が赤く塗り込められている。すでに各部隊の被害状況は芳しくない。

 

 「……本命の突撃波が、次に来る。準備を怠るな。以上だ」

 

 静まり返った室内に、かすかな緊張が残る。

 

 「了解しました、白鳥大尉!」

 「了解!」

 隊員たちは一斉に応じ、散っていく。

 

 ただひとり、鍋島涼介だけがぽつりと声をもらした。

 

 「……真凜大尉。俺、絶対にやってみせます」

 

 それを聞いていた江上が、後ろからぼそりとつぶやいた。

 

 「……お前な、いい加減その呼び方やめぇや。誰も言わんで」

 

 涼介は笑って肩をすくめると、整備区画へと足を向けた。

 

 

 格納庫・作戦準備区画。

 

 戦術機はすでに武装を整え、臨戦態勢にあった。灰色の外装に突撃砲、長刀、盾を備えた機体群が、重々しく沈黙している。

 

 涼介が自機の前に立つと、モニターの光が背後でふわりと灯った。

 

 「鍋島少尉、最終点検データを送信します」

 

 振り返ると、操作卓に立つ女性――青島葵中尉が、淡々とした表情で端末を操作していた。

 

 「感度調整、兵装選択ともに中隊基準に準拠。ジャンプ制御系も問題なし。……以上」

 

 「助かります。青島中尉も、休めるときに休んでください」

 

 その言葉に、彼女は軽くまばたきしたあと、少しだけ声の調子を和らげた。

 

 「ありがとうございます。でも、今は休めないので。……あなたたちが無事に帰ってくるように、やるべきことをやるだけです」

 

 事務的ながらも、誠実な響きがあった。

 

 涼介は「必ず帰ってきます」とだけ答え、小さく頭を下げてその場を離れた。

 

 ――そこには、まだ感情の交差はない。青島にとって鍋島涼介は「中隊の一員」に過ぎず、戦場へ向かう誰かにすぎなかった。

 

 

 仮眠舎前、涼介と保科。

 

 「兄貴……俺、いつか兄貴を超える衛士になってやんよ。ぜってぇ負けねぇからな」

 

 そう口にした涼介に、保科は煙草をくわえたまま口元を緩めた。

 

 「ほぉ、いいじゃねぇか。なら、明日の戦場で証明してみせろよ」

 

 「言われなくても」

 

 ふたりは短く笑い合い、やがて無言で夜の通路を歩いていく。

 

 

 夜は深まる。だが眠れる者は少ない。

 

 長岡基地の上空に、明け方を告げるわずかな風が吹き抜けた。

 

 ――明日、京都に火が落ちる。

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