Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
長岡基地の格納庫は、久しぶりに静かだった。
整備灯の白い光が床に反射し、機体の影を長く伸ばしている。
戦闘の匂いはまだ残っているが、怒号も爆音もない。
その静寂の中で、松本は武装コンテナの上に腰掛け、脚をぶらぶらさせていた。
「いや〜、生きてるね〜」
何の前触れもなく放たれた一言に、
隣で端末を操作していた松原は眉一つ動かさず返す。
「感想が雑すぎる」
「だってさ〜、甲21号だよ? 新潟防衛戦もあって、桜花だよ?
普通、1回くらい死んでてもおかしくないじゃん」
「縁起でもないこと言わないでください」
松原はそう言いながらも、端末から視線を上げ、
格納庫の奥に並ぶ不知火を一機ずつ見渡した。
どれも傷だらけだ。
それでも、全部戻ってきた。
「……みっちゃんさ」
「なんだよ?」
「ナベ大尉、ほんとにいなくなるんだね」
松原は一瞬、言葉を探すように間を置いた。
「“いなくなる”わけじゃないでしょう。
配置が変わるだけです」
「そういうの、言葉のマジックだよ」
松本は笑いながら言ったが、その笑顔はどこか薄かった。
「前はさ、
突っ込む人がいて、
止める人がいて、
フォローする人がいて、
それでなんとかなってたじゃん?」
「……ええ」
「これからは?」
松原は端末を閉じ、松本の方を向いた。
「お前が突っ込む側です」
「え〜、ヤダ〜」
即答だった。
「無理無理。アタシ考えるの苦手だし〜」
「突っ込むのに考えは必要ありません」
「それフォローになってない!」
二人のやり取りは、以前と何も変わらない。
けれど、変わったものが一つだけある。
松原の視線が、松本を“隊の一員”ではなく
“先頭に立つ存在”として見ていること。
「……でもさ」
松本は脚を止め、珍しく真面目な声を出した。
「任されたなら、やるよ。
アタシ、そういうの嫌いじゃないし」
松原は一瞬だけ目を細める。
「知っています」
「え?」
「松本は、逃げない」
松本はきょとんとした顔をしたあと、
少し照れたように笑った。
「なにそれ、告白?」
「違います」
即答だった。
「……でも」
松原は言葉を選びながら続ける。
「松本が前に出るなら、
僕は後ろを守ります」
「それ、逆じゃない?」
「いいえ」
松原は真っ直ぐ松本を見る。
「それが一番、隊が回る」
一瞬、松本は何も言えなかった。
そして、ぷいっとそっぽを向く。
「……ま、
みっちゃんがいるなら、なんとかなるっしょ」
「雑ですね」
「褒めてるの!」
二人は同時に小さく笑った。
遠くで整備員の足音が響き、
格納庫に生活の気配が戻ってくる。
その中で、松原はふと思う。
――コイツは、きっと変わらない。
――でも、変わらないまま前に出るヤツだ。
そして松本は、何気ない顔でこう言った。
「ね、みっちゃん」
「なんですか」
「これからも、ついてきてよ」
松原は、少しだけ間を置いて答える。
「当然です」
その声は、以前よりずっと静かで、
以前よりずっと重かった。
レッドキグナスは変わる。
だが、松松コンビは――
その変化の中で、確実に“芯”になろうとしていた。