Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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The Day After ――白鳥 真里奈①

長岡基地の朝は、戦場よりも静かだった。

それでも真里奈にとって、この静けさは落ち着くものではない。

 

格納庫の奥、照明がまだ半分しか点いていない通路で、白鳥真里奈は不知火の脚部を見上げていた。

冷えた装甲に手を当てると、昨夜の戦闘の感触がまだ残っている気がする。

 

――また、後ろにいた。

 

そう思った瞬間、胸の奥がわずかに痛んだ。

 

「……またか」

 

誰に聞かせるでもなく呟く。

昨日も、その前の日も、真里奈はB小隊の位置からA小隊の背中を見ていた。

小川の指示に従い、討ち漏らしを掃討し、危険が迫れば下がる。

 

正しい。

理性的で、確実で、生き残るための配置だ。

 

それでも。

 

「……それじゃ、姉さんも、鍋島大尉も……」

 

真里奈は言葉を切った。

真凜の背中。

そして、涼介の、あの無茶なまでに前へ出る姿。

 

命を賭けるように突撃し、それでも部隊を押し上げていった姿が、脳裏から離れない。

 

――私は、まだ後ろにいる。

 

その時、背後から足音がした。

 

「こんな時間から格納庫? 珍しいね」

 

振り向くと、そこには紗栄がいた。

眠そうな顔で、だがどこかいつもより落ち着いた表情をしている。

 

「目が覚めちゃって……」

 

真里奈は正直に答えた。

 

「そっか。私も」

 

二人は並んで不知火を見上げる。

一時期なら、沈黙が気まずかったかもしれない。

だが今は、不思議と落ち着く。

 

「ね、真里奈」

 

「はい」

 

「……前に出たいって、思ってる?」

 

その一言で、胸の奥を見透かされた気がした。

真里奈は一瞬だけ視線を伏せ、それからゆっくりと頷いた。

 

「……はい」

 

紗栄は驚かなかった。

ただ、少しだけ息を吸ってから言う。

 

「そっか。A小隊?」

 

「……はい」

 

はっきり答えた瞬間、心臓が強く打った。

怖くないわけがない。

前に出るということは、死に近づくということだ。

 

それでも。

 

「私、ずっと誰かの背中を見てきました。姉さんの……鍋島大尉の……」

 

真里奈は拳を握る。

 

「でも、超えたいんです。

同じ場所に立たないと、超えられないって思って……」

 

紗栄はしばらく何も言わなかった。

それから、少しだけ笑った。

 

「……チビ兄、聞いたらきっと無茶だって言うよ」

 

「言いますね、絶対」

 

二人は小さく笑った。

 

「でもさ」

 

紗栄は続ける。

 

「チビ兄は……涼介は、逃げなかった人だよ。

怖いのに、前に出るのをやめなかった」

 

その言葉に、真里奈は強く頷いた。

 

「だから……私も、逃げません」

 

その日の午後、編成の再確認が行われた。

小川が端末を操作しながら、各小隊の配置を読み上げる。

 

「……以上が暫定配置です」

 

一瞬の間。

その空気を破ったのは、真里奈だった。

 

「小川大尉」

 

「ん?」

 

「私を……A小隊に配置してください」

 

その場の空気が、わずかに揺れた。

 

雁部が目を丸くし、大友が「おっ?」と声を上げる。

松原は無言で真里奈を見つめ、松本は「マジ?」と呟いた。

 

小川は、すぐには答えなかった。

 

「理由は?」

 

「前に出たいからです」

 

「……それだけ?」

 

「はい」

 

真里奈は一歩前に出る。

 

「私はまだ未熟です。

でも、後ろにいても、姉さんも……鍋島大尉も、超えられません」

 

小川は、しばらく真里奈の目を見ていた。

逃げていない。

強がってもいない。

 

「……危険だぞ」

 

「承知しています」

 

「死ぬかもしれない」

 

「……はい」

 

それでも、目は揺れなかった。

 

小川は小さく息を吐き、端末を操作する。

 

「仮配置だ。

次の訓練で判断する」

 

真里奈の胸が、熱くなった。

 

「ありがとうございます!」

 

「勘違いするな」

 

小川は淡々と言う。

 

「守られる前衛はいらない。

守れる前衛だけだ」

 

「……はい!」

 

その夜、真里奈は不知火のコックピットに座り、静かに目を閉じた。

 

怖い。

それでも、足は前を向いている。

 

「……白鳥真里奈」

 

自分の名前を、口に出して呼ぶ。

 

姉の妹ではない。

誰かの背中を追うだけの存在でもない。

 

「私は、前に出る」

 

その決意はまだ小さい。

だが、確かに芽吹いていた。

 

――そしてその一歩が、

彼女を“本当のキグナス”へと変えていくことになる。

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