Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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The Day After ――白鳥 真里奈②

訓練用の模擬戦エリアは、戦場よりも静かだった。

だが白鳥真里奈にとって、その静けさはむしろ重かった。

 

「A小隊、前進準備」

 

通信に小川の声が流れる。

淡々としているが、どこか意図的に距離を取っているようにも聞こえた。

 

――試されてる。

 

そう思った瞬間、背筋が伸びる。

 

真里奈の不知火は、A小隊の最後尾ではなく、先頭から三番目に配置されていた。

前に出す。

だが、いきなり先頭は任せない。

それが小川の判断だった。

 

「真里奈、聞こえてるな」

 

「はい!」

 

「今日は訓練だ。だが“訓練だから”という言い訳は通用しない」

 

「承知しています!」

 

返事と同時に、真里奈は操縦桿を強く握る。

手のひらに汗がにじむ。

 

前方には模擬BETA役の無人機群。

数は少ないが、動きは実戦データを反映した厄介なものだ。

 

「行くぜぇ!」

 

雁部の声と同時に、A小隊が前進する。

跳躍ユニットの噴射音が重なり、地面が震えた。

 

――前に出る景色。

 

今まで何度も見てきた。

姉の背中。

涼介の背中。

雁部の豪快な突撃。

松原の冷静な位置取り。

松本の無茶な機動。

それらが、今は視界の中ではなく、自分の内側にある。

 

「左から来る!」

 

真里奈は叫ぶと同時に機体を滑らせた。

36mmを短く、無駄なく撃つ。

撃破確認。

 

――早い。

 

自分でも驚くほど、判断が迷わない。

今まで後ろから見てきた動きが、身体に染みついている。

 

「真里奈、前出すぎるな!」

 

「了解!」

 

引く。

だが引きすぎない。

涼介がよくやっていた“半歩だけ引く”位置。

 

次の瞬間、別方向から模擬要撃級が現れる。

 

「右、挟まれる!」

 

松原の声。

 

真里奈は考えなかった。

反射的に跳躍し、敵の進路に割り込む。

 

「私が引きつけます!」

 

「無茶すんな!」

 

雁部の怒号。

だがもう遅い。

 

模擬要撃級の前肢が迫る。

一瞬、死の感覚が脳裏をよぎる。

 

――違う。

 

目を閉じない。

 

松原の声が、過去の記憶と重なる。

 

「戦場で目を閉じるな」

 

真里奈は、真正面から受けず、半身でかわした。

完全回避ではない。

だが、致命傷ではない。

 

その隙を、松本が突く。

 

「ナイス〜!」

 

撃破。

無人機が沈黙する。

 

訓練場に、わずかな静寂が落ちた。

 

「……真里奈」

 

小川の声が、少し低くなる。

 

「今の判断、説明しろ」

 

「はい!」

 

真里奈は息を整えながら答える。

 

「正面で受けたら、後続が巻き込まれると思いました。

完全回避は無理でも、進路をずらせば時間は稼げると判断しました」

 

「誰の動きだ?」

 

一瞬だけ、迷う。

 

「……鍋島大尉です」

 

通信の向こうで、誰かが小さく息を吸う音がした。

 

「……続けろ」

 

訓練はその後も続いた。

小さなミスはあった。

被弾もした。

 

だが、致命的な破綻は一度もなかった。

 

最後の模擬敵を撃破した瞬間、小川が短く告げる。

 

「訓練終了」

 

不知火が静止し、真里奈は深く息を吐いた。

全身が震えている。

 

「白鳥真里奈」

 

「はい!」

 

「前に出る資格はある、今後はA小隊で突撃前衛だ」

 

その一言に、胸が熱くなる。

 

「ただし」

 

小川は続ける。

 

「前に出続けるには、もっと強くなれ。

守る覚悟と、退く勇気、両方だ」

 

「……はい!」

 

通信が切れる。

 

雁部が、横に並んできた。

 

「正直言うとな」

 

「……はい」

 

「最初は無理だと思ってた」

 

心臓が跳ねる。

 

「でも、今のは“前に出る奴の目”だったぜ」

 

それだけ言って、雁部は離れていった。

 

「これからお隣さんだね〜よろしく〜」

松本が嬉しそうにクネクネしていた。

 

松原は短く頷くだけだった。

だが、それで十分だった。

 

格納庫へ戻る途中、真里奈はふと立ち止まる。

 

――前に立った。

 

まだ不安はある。

まだ怖い。

 

それでも。

 

「……一歩、追いついたかな」

 

誰に聞かせるでもなく、呟いた。

 

その背中は、もう誰かを追うだけのものではなかった。

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