Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第十四話 初陣、そして死の8分

夜明け前の空に、雲はなかった。

 

 雲がないということは、BETAの光線級による“脅威”が地上から丸見えということだ。

 

 長岡基地を発ったサマートライアングル大隊──その中に所属するレッドキグナス中隊の機体が、山間部を低空で疾駆する。

 音速未満の飛行でも跳躍ユニットの推力は強烈で、地面を蹴るようにして戦術機が空を裂く。

 

 鍋島涼介は、初めての実戦の中にいた。

 

 

 「なぁ、涼介……俺ら、持つと思うか?」

 

 通信回線に入ったその声は、同期の歳刀 慶。C小隊所属のラッシュガード衛士で、訓練課程でも最も多くの時間を共にした仲だった。

 

 「死の8分って、マジだと思うか?。……もう6分経ったが」

 

 苦笑とも弱音ともつかないその声に、涼介は思わず口を開いた。

 

 「……やめろよ、そういうの。縁起でもねぇ」

 

 「だよな。でも、分かるだろ。俺たち、まだ……何もしてないんだ」

 

 言い返せなかった。

 目の前には、数分後に到達する最前線。地上は既に紅く染まり、BETAの影が波のように蠢いている。

 

 

 《前方、光線級による警戒網展開中。高度超過での接近は危険》

 

 機体内の警告が響いた瞬間、涼介の視界に見覚えのあるマーキングが飛び出していた。

 

 「……慶?」

 

 歳刀慶の機体──C小隊の一機が、僅かに編隊から抜け出ている。

 いや、抜けているというより、高度を数メートルだけ取りすぎていた。

 

 「慶! お前、高すぎる! ジャンプユニット切って落とせ!」

 

 涼介が叫ぶ。

 

 しかし、その一瞬の差が命取りだった。

 

 視界の彼方から、紅蓮の閃光が奔る。

 

 空が裂け、次の瞬間、歳刀慶のF-4J改は、上半身を溶かされ、制御を失って回転しながら山林へと墜落していった。

 

 「……嘘だろ」

 

 涼介は、跳躍ユニットの推力で機体を低空へ逃がす。だが、その手が震えていた。

 

 

 〈慶が、死んだ?〉

 

 初陣。警告どおりの“死の8分”。

 

 涼介は頭で分かっていたはずの現実に、心がついてこなかった。

 

 「さっきまで、話してたのに……!」

 

 「おい、鍋島!」

 

 頭上から怒鳴ったのは、同じA小隊の江上だった。機体の肩にはキグナス3の識別パネル。

 

 「動け! お前まで死ぬ気か、キグナス12ッ!」

 

コールサインで呼ばれ我に返り操縦桿を握る涼介

 

 「……っ、はいッ!」

 

 涼介は跳躍ユニットを再起動し、前へ戻る。

 

 しかし視界はぶれていた。指先は汗で濡れ、息が詰まる。

 

 

 「落ち着け、鍋島少尉。全機で見てる」

 

 そのとき、通信に保科隼人の声が響いた。

 

 「歳刀のことは……俺たちが伝えてやる。お前が死ぬ必要はない。分かるな?」

 

 「……兄貴……」

 

 「突撃前衛が止まれば、中衛も後衛も機能しねぇ。お前が行け、涼介」

 

 その言葉に、涼介はようやく呼吸を取り戻した。

 

 「あ……ああ。任せてくれ」

 

 

 前方、京都市街南部。

 無数のBETAが、部隊を待ち構えている。

 

 敵陣に最短で突撃するA分隊は、最も危険な突破任務を担っていた。

 

 突撃前衛・ストームバンガードである涼介のF-4J改も、突撃砲2丁と長刀2本、短刀2本のフル装備で地を駆ける。

 

 

 「レッドキグナス中隊、聞け!」

 

 通信に白鳥真凜大尉の号令が入る。ピリッと空気が張り詰める。

 

 「司令部から楽しい楽しい命令だ!、これより光線吶喊を行う。全機、指定経路にて突撃態勢へ移行!」

 

 「A小隊、正面突破、C小隊は右翼支援、B分 小隊は火力分断と援護に回れ。遅れるなよ」

 

 「了解! 白鳥大尉!」

 

 「真凜大尉、ついてきます!」

 

 通信の中、涼介だけがその名を呼ぶ。

 彼にとっては、上官であると同時に、“師”であり“導き手”だった。

 

 

 跳躍ユニットの光が、山の斜面を照らす。

 

 突撃の瞬間は近い。

 

 空にはもう、雲も、ためらいもなかった。

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