Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
《前方、光線級 12体。座標 0862-AB、標高差マイナス12》
《敵密度:高。開けた空間に集中展開。光線減衰重金属雲濃度は最大レベル》
機体HUDが、血のように赤い警告色で染まる。
これより先、空は使えない。
高度を取れば、その瞬間に溶かされる。
光線吶喊──レーザーヤークト。
匍匐飛行で地を這うようにして敵陣へ突入し、BETAの包囲網を突破して光線級を駆逐する、この作戦最大の山場だった。
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「全機、突撃態勢へ!」
白鳥真凜大尉の声が、緊張で凍りついた中隊の意識を解き放つ。
「A小隊、先陣を切れ! 江上、土岐は左右に展開! 涼介、中央突破ついてこいッ!」
「了解ッ!」
涼介は突撃砲を背部懸架から引き抜く。
重く、だが心強い火力の象徴──これを撃ち続け、斬り続けて、生き延びなければならない。
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「……行くぞ、慶」
かつて共に訓練した同期の名前を、呟いた。
涼介のF-4J《激震》が、山林を蹴り飛ばす。
踏破モードに切り替えた脚部アクチュエーターが地面を掘り裂き、匍匐飛行まま地を滑る様に駆け抜ける。
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《光線級、ロックオン》
警報と同時に、背後で爆音。後方支援のC小隊が囮となり、BETAの視線を引きつける。
「後衛が引き付けてるうちに行けぇぇっ!」
江上の咆哮が聞こえる。
仲間の命の綱が繋いでくれる“数秒”に、涼介はすべてを賭けた。
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視界の先に、いた。
突撃級。突撃の気配も見せず、地を這い、地を喰らい、光線級の前衛を固めている。
見れば見るほど“生き物”とは思えないそれに、涼介は喉の奥を焼かれるような恐怖を覚えた。
それでも。
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
突撃砲、発射。
連射される36mmの劣化ウラン弾が突撃級の上顎を砕き、涼介の機体がその間をすり抜けていく。
「土岐ッ、そっち行ったぞ!」
「分かってますよっと!」
斜面から突っ込んできた突撃級を、土岐が長刀で叩き切る。
その鮮やかな一撃に目を奪われる暇もなく、涼介の足元へもう一体──戦車級が滑り込んでくる。
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「ッ、邪魔だぁっ!」
咄嗟に短刀を逆手に抜き、斬り下ろす。
骨を割る手応え。戦車級の上半身が裂け、体液が霧状に飛び散った。
機体の視界が曇る。だが構わず駆ける。
視界の先に、あの忌まわしい“円筒”が見えた──光線級。
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《光線級、熱源確認》
「来るッ!」
機体を滑らせ、跳躍ユニットを僅かに吹かして左へ跳ぶ。
直後、背後で“空”が弾ける音。
無数の光線が交差し、後衛の遮蔽物が一つ、溶断された。
「真凜大尉、光線級が絞ってきてます!」
「分かってる。A小隊、中央突破続行!」
白鳥大尉のF-4Jが、突撃砲を左右に撃ち込みながら滑るように前へ。
「江上、左を取れ! 土岐は私に追随!」
「了解ッ、白鳥大尉!」
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その瞬間だった。
左方の突撃級の群れの背後から、急に大地が盛り上がる。
要撃級──芋虫めいたその巨躯が涼介たちの進路を塞ぐ。
「こいつは……!」
回避不能。涼介の機体が真正面から迎撃態勢を取る。
視界に走るスローモーションのような、激しい緊張。
だが──
「任せたぞ、突撃前衛ッ!」
砲撃。右斜め後方から、保科の激震が援護射撃。
「兄貴!」
「いいから行け、道は開けてやった!」
「了解ッ! ……ありがとな!」
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涼介は突撃砲を切り替え、弾倉を交換。再び走る。
彼のF-4Jの前に、光線級が完全に視界に捉えられた。
「A小隊、到達しました! これより殲滅します!」
「全機、突撃体勢維持! 第一射を見てから斬り込め!」
真凜大尉の号令に、涼介は短く返す。
「真凜大尉──俺、絶対にやってやります!」
「なら、死ぬな。死なないことが、ここじゃ一番価値がある」
その声が終わると同時に、視界が閃光で満ちた。
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地を這い、血を浴び、地獄のような戦場で──鍋島涼介の初陣は、いよいよ本格的に始まる。