Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
京都南部、伏見区上空──
空は灰色、土は血に染まり、機体の装甲に焼け焦げた肉片がこびりつく。
兵器と呼ぶには、あまりに泥臭く、生々しい戦場。
それでも――鍋島涼介は、そこに立っていた。
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「左方、光線級1──!」
「任せろッ!」
土岐が叫ぶと同時に、涼介のF-4Jが突撃砲で照射機構を叩き砕いた。
閃光が空気を焼き、白く燃え尽きる直前で、土岐の機体がスライドして退避。
「ふぅ……ギリだったな。サンキュな、鍋島」
「こっちこそ……土岐さんがカバーしてくれなきゃ死んでましたよ」
「はっ、口の利き方も板についてきたな、新兵」
そう言って笑う土岐の顔は、モニター越しでも安心感をくれる。
涼介が彼に敬語を使うのは、単に“先輩”だからだけじゃない。
この男の背中は、戦場で信じられるものの一つだった。
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《A小隊、全機、光線級前衛に到達》
白鳥大尉の冷静な声が響く。
「ここが正念場だ。残った連中を一掃して、B小隊の前を開けるぞ!」
「了解!」
江上の声が割って入る。
「土岐、右や! 俺が左、鍋島は中央突破維持!」
「任された!」
連携は完璧だった。
機体3機が三角陣を取り、それぞれの死角を潰し合いながら光線級の中枢へ突っ込んでいく。
涼介のF-4Jは36m mを叩き込み、敵の胴を爆裂させる。
江上の機体が側面から切り裂き、土岐が戦車級を蹴り飛ばして道を拓く。
そのはずだった。
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《警告:後方より中型種接近!》
「な──っ!?」
視界の後方、廃ビルの陰から要撃級が頭をもたげた。
「クソ、数が多すぎるでッ!」
江上が叫ぶ。
次の瞬間――土岐の機体が、その巨体に真横から叩き潰された。
「土岐さ──んッ!!」
涼介が悲鳴を上げる。
潰れたF-4Jの上半身が、コンクリの地面に突き刺さっていた。
頭部は破損、コックピットは――完全に押し潰されている。
「バイタル……反応なし」
江上の、低い声。
まるで、すべてを諦めたような口調だった。
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「……あ、あぁ……」
喉が焼けた。
血の味が口の中に広がっていたのは、涼介が無意識に歯を噛み締めすぎていたからだ。
「ふざけんなよ……」
重い操縦桿を握る手に、血が滲む。
「ふざけんなよ……ッ! まだ喋ってたじゃねぇか……ッ!!」
正面の突撃級が突進してきた。
それを、反射的に殴るようにして撃ち抜く。弾倉が空になり、涼介はそのまま突撃砲を投げ捨てた。
「……真凜大尉、俺、近づきます! 今度は絶対に守りますからッ!!」
「鍋島、落ち着け! 今突っ込むな、冷静に配置を維持しろッ!」
真凜大尉の声も聞こえていた。
でも、怒りで熱された涼介の脳は、命令と本能の間で軋んでいた。
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そのとき。
「鍋島!」
声がした。
――江上だ。
「突っ込むなら、俺も行くで。お前だけじゃ、あいつの敵は討たれへん」
言葉の先に、あの圧倒的な殺意の塊、要撃級がいる。
「……わかりました」
涼介は短く答えると、背部懸架から長刀を引き抜いた。
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「A分隊、突撃再開!」
白鳥真凜大尉の号令が、すべてを貫いた。
突撃の陣形が再び整い、土岐の犠牲で開いた隙間に全機が突入する。
光線級が振り向く。射線が走る。
「江上さん、行きますよ!」
「先頭取れ、鍋島!」
跳躍ユニットを蒸し、地面スレスレを蹴って走る激震。
F-4J、二機の影が瓦礫の間を駆け、血と火薬の霧を裂いた。
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目の前に、光線級。
振りかぶった長刀を、涼介が叩きつける。
《目標、沈黙!》
「一体目、排除完了!」
背後で江上がもう一体を斬り裂き、三体目は白鳥が突撃砲で後頭部を爆破。
「A分隊、光線級前衛掃討完了ッ!」
白鳥の機体が、深く機体を沈めて停止した。
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《B分隊、突撃準備完了》
《C分隊、後衛支援再開。包囲網を維持する》
味方全体の布陣が整い、レーザーヤークトが成された。
死の8分を超え、死地の最深部で――ようやく戦局が、わずかに味方に傾いた。
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だが、その勝利の裏で──
一機の機体は、今も静かに伏していた。
土岐のF-4J。キグナス8、そのコールサインは、もう誰にも応答しない。
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涼介は、その傍らに立ち尽くしていた。
敵はまだ残っている。
後衛の支援が必要で、後続の中隊が合流しなければ持たないかもしれない。
それでも。
「……土岐さん」
声に出して呼んでも、応えは返らなかった。
それが“戦場”であり、“衛士”の現実だと、涼介は初めて理解した。
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そのとき、通信に真凜大尉の静かな声が響く。
「……土岐少尉の死を無駄にするな。次は、守れ」
涼介は、肩を揺らしながら頷いた。
「……了解です、真凜大尉」