Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第十六話 欠けた翼──初戦・光線吶喊

京都南部、伏見区上空──

 

 空は灰色、土は血に染まり、機体の装甲に焼け焦げた肉片がこびりつく。

 兵器と呼ぶには、あまりに泥臭く、生々しい戦場。

 

 それでも――鍋島涼介は、そこに立っていた。

 

 

 「左方、光線級1──!」

 

 「任せろッ!」

 

 土岐が叫ぶと同時に、涼介のF-4Jが突撃砲で照射機構を叩き砕いた。

 

 閃光が空気を焼き、白く燃え尽きる直前で、土岐の機体がスライドして退避。

 

 「ふぅ……ギリだったな。サンキュな、鍋島」

 

 「こっちこそ……土岐さんがカバーしてくれなきゃ死んでましたよ」

 

 「はっ、口の利き方も板についてきたな、新兵」

 

 そう言って笑う土岐の顔は、モニター越しでも安心感をくれる。

 

 涼介が彼に敬語を使うのは、単に“先輩”だからだけじゃない。

 この男の背中は、戦場で信じられるものの一つだった。

 

 

 《A小隊、全機、光線級前衛に到達》

 

 白鳥大尉の冷静な声が響く。

 

 「ここが正念場だ。残った連中を一掃して、B小隊の前を開けるぞ!」

 

 「了解!」

 

 江上の声が割って入る。

 

 「土岐、右や! 俺が左、鍋島は中央突破維持!」

 

 「任された!」

 

 連携は完璧だった。

 

 機体3機が三角陣を取り、それぞれの死角を潰し合いながら光線級の中枢へ突っ込んでいく。

 

 涼介のF-4Jは36m mを叩き込み、敵の胴を爆裂させる。

 江上の機体が側面から切り裂き、土岐が戦車級を蹴り飛ばして道を拓く。

 

 そのはずだった。

 

 

 《警告:後方より中型種接近!》

 

 「な──っ!?」

 

 視界の後方、廃ビルの陰から要撃級が頭をもたげた。

 

 「クソ、数が多すぎるでッ!」

 

 江上が叫ぶ。

 

 次の瞬間――土岐の機体が、その巨体に真横から叩き潰された。

 

 「土岐さ──んッ!!」

 

 涼介が悲鳴を上げる。

 

 潰れたF-4Jの上半身が、コンクリの地面に突き刺さっていた。

 頭部は破損、コックピットは――完全に押し潰されている。

 

 「バイタル……反応なし」

 

 江上の、低い声。

 

 まるで、すべてを諦めたような口調だった。

 

 

 「……あ、あぁ……」

 

 喉が焼けた。

 血の味が口の中に広がっていたのは、涼介が無意識に歯を噛み締めすぎていたからだ。

 

 「ふざけんなよ……」

 

 重い操縦桿を握る手に、血が滲む。

 

 「ふざけんなよ……ッ! まだ喋ってたじゃねぇか……ッ!!」

 

 正面の突撃級が突進してきた。

 

 それを、反射的に殴るようにして撃ち抜く。弾倉が空になり、涼介はそのまま突撃砲を投げ捨てた。

 

 「……真凜大尉、俺、近づきます! 今度は絶対に守りますからッ!!」

 

 「鍋島、落ち着け! 今突っ込むな、冷静に配置を維持しろッ!」

 

 真凜大尉の声も聞こえていた。

 

 でも、怒りで熱された涼介の脳は、命令と本能の間で軋んでいた。

 

 

 そのとき。

 

 「鍋島!」

 

 声がした。

 

 ――江上だ。

 

 「突っ込むなら、俺も行くで。お前だけじゃ、あいつの敵は討たれへん」

 

 言葉の先に、あの圧倒的な殺意の塊、要撃級がいる。

 

 「……わかりました」

 

 涼介は短く答えると、背部懸架から長刀を引き抜いた。

 

 

 「A分隊、突撃再開!」

 

 白鳥真凜大尉の号令が、すべてを貫いた。

 

 突撃の陣形が再び整い、土岐の犠牲で開いた隙間に全機が突入する。

 

 光線級が振り向く。射線が走る。

 

 「江上さん、行きますよ!」

 

 「先頭取れ、鍋島!」

 

 跳躍ユニットを蒸し、地面スレスレを蹴って走る激震。

 

 F-4J、二機の影が瓦礫の間を駆け、血と火薬の霧を裂いた。

 

 

 目の前に、光線級。

 

 振りかぶった長刀を、涼介が叩きつける。

 

 《目標、沈黙!》

 

 「一体目、排除完了!」

 

 背後で江上がもう一体を斬り裂き、三体目は白鳥が突撃砲で後頭部を爆破。

 

 「A分隊、光線級前衛掃討完了ッ!」

 

 白鳥の機体が、深く機体を沈めて停止した。

 

 

 《B分隊、突撃準備完了》

 

 《C分隊、後衛支援再開。包囲網を維持する》

 

 味方全体の布陣が整い、レーザーヤークトが成された。

 

 死の8分を超え、死地の最深部で――ようやく戦局が、わずかに味方に傾いた。

 

 

 だが、その勝利の裏で──

 

 一機の機体は、今も静かに伏していた。

 

 土岐のF-4J。キグナス8、そのコールサインは、もう誰にも応答しない。

 

 

 涼介は、その傍らに立ち尽くしていた。

 

 敵はまだ残っている。

 後衛の支援が必要で、後続の中隊が合流しなければ持たないかもしれない。

 

 それでも。

 

 「……土岐さん」

 

 声に出して呼んでも、応えは返らなかった。

 

 それが“戦場”であり、“衛士”の現実だと、涼介は初めて理解した。

 

 

 そのとき、通信に真凜大尉の静かな声が響く。

 

 「……土岐少尉の死を無駄にするな。次は、守れ」

 

 涼介は、肩を揺らしながら頷いた。

 

 「……了解です、真凜大尉」

 

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