Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
――喪失の上に立ち上がった、レッドキグナス最後の防波堤
レッドキグナス中隊におけるB小隊は、迎撃後衛と強襲掃討を組み合わせた“戦線維持”を主任務とする小隊である。
A小隊が道を切り拓き、C小隊が支援と制圧を行う中で、B小隊は「戦場を崩さない」役割を担ってきた。突破でも殲滅でもなく、耐え、受け止め、次へ繋ぐ――その性質上、派手な戦果よりも、確実な仕事が求められる小隊だった。
かつてそのB小隊を率いていたのが、保科隼人である。
冷静沈着で戦場全体を見渡す指揮、部下の力量を正確に把握した配置、そして一切の感情を挟まない判断。保科のB小隊は「崩れない」事で知られ、レッドキグナス中隊の安定そのものと言える存在だった。
しかし――12.5事件。
保科隼人は小林と共にクーデター側に加担し、鍋島涼介の手によって討たれる。
それは単なる指揮官の喪失ではない。
レッドキグナス中隊にとって、精神的支柱であり、部隊屈指の実力者を失うという、致命的な断絶だった。
この時、B小隊は「空白」になった。
その空白を埋める事になったのが、小川陸である。
小川は、保科とは正反対の指揮官だった。
感情を表に出さず、言葉も多くはない。だがその判断は徹底して現実的で、「守るべきもの」と「切り捨てるもの」を明確に線引きする男である。
保科が“理想的な指揮官”だったとすれば、小川は“戦場に適応した生存者”だった。
保科を失った直後のB小隊は、決して完成された編成ではなかった。
そこに残されたのは、小川、岸本、池田静、そして白鳥真里奈。
経験も立場も、精神状態も、決して揃ってはいない四人だった。
岸本は、強襲掃討として最前線を支え続けてきた実力者であり、B小隊における「重し」である。
派手な言動はなく、無駄な自己主張もしないが、その存在は常に前線に安心感を与えていた。
保科亡き後も、岸本は変わらず前に出続けた。
それは命令でも忠誠でもなく、「自分がやらなければ、後ろが死ぬ」という、極めて単純で重い理由だった。
静は、強襲掃討《ガンスイーパー》としてB小隊に所属しながら、実質的な“調整役”だった。
突撃気質の隊員を抑え、判断が遅れがちな者を支え、必要とあらば自分が前に出る。
彼女は決して目立つ存在ではなかったが、B小隊が形を保っていた理由の一つは、間違いなく彼女の存在にある。
白鳥真里奈は、この部隊で唯一の新兵だった。
実戦経験も浅く、精神的にも未熟。それでも彼女は、このB小隊に放り込まれた。
それは残酷な配置だったが、同時に「生き残った者たちが背負う現実」でもあった。
そして小川陸は、彼らをまとめる立場に立った。
小川のB小隊は、保科時代とは明確に違う。
理想も、美しさもない。
あるのは「生き延びるための現実」だけだ。
小川は命令で人を動かさない。
必要な事を必要なだけ伝え、出来ない事は切り捨て、出来る者に任せる。
その冷たさは時に反発を生んだが、同時に「信頼」でもあった。
なぜなら、小川は自分自身にも同じ基準を課していたからだ。
このB小隊は、最強ではない。
だが、最も“折れなかった”小隊である。
岸本は前に立ち、
静は横を固め、
真里奈は必死に食らいつき、
小川は一歩引いた位置から全てを見ていた。
保科隼人という巨大な存在を失った穴は、最後まで埋まる事はなかった。
だが、その穴を「なかった事」にせず、抱えたまま前に進んだ――それが、小川陸率いる新生B小隊だった。
それは、レッドキグナス中隊が“理想”を失い、“現実”を背負った象徴でもある。
英雄ではなく、生存者たちの小隊。
それでも彼らは、最後まで戦場に立ち続けた。
保科が築いたB小隊とは違う。
だが確かにそこに存在した、もう一つのB小隊。
それが、小川陸が率いた、新たなB小隊なのである。
小川のB小隊
小川陸のB小隊