Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第十七話 暁に燃ゆる、空の下

――西日本戦線/京都南部・第18後方補給拠点――

 

跳躍ユニットの推進剤は、もはや警告灯が赤く点滅するほどギリギリだった。光線級の索敵範囲を突っ切る「光線吶喊(レーザーヤークト)」を終えたばかりのレッドキグナス中隊は、煙を引きながら京都南部の臨時補給拠点へと戻ってきた。

 

「レッドキグナス中隊、戻ったぞ。補給班、すぐに対応しろ」

 

先頭に立つ激震のコクピットから、白鳥真凜大尉の荒々しい声が無線を通して響く。

 

「了解。補給班、全班展開開始! 跳躍ユニット先行、次に突撃砲、冷却水、センサー系統のチェックを急げ!」

 

コマンドポストからの指示に応じて、整備員と補給班が一斉に戦術機へと群がった。その中に、オペレーター服を着た青島葵の姿もある。彼女は常に冷静で、どの衛士とも分け隔てなく接していた。もちろん――鍋島涼介にも、今はまだ「中隊の一員」としてしか見ていない。

 

涼介は跳躍ユニットのハッチを開き、強化装備越しに汗を拭った。心臓がまだうるさいほどに脈打っている。

 

「……死の8分、か」

 

ついさっきまで、そこにいたはずの同期――歳刀 慶の最期が、今も頭から離れない。彼は上空から侵攻ルートを確認しようと、ほんの数メートル高度を取りすぎた。それだけで、光線級の焼夷照射が奴を貫いた。

 

「慶……ッ」

 

独り呟く涼介の肩を、無言で叩いたのは江上少尉だった。

 

「……顔上げろや、鍋島。死んだ奴の分まで、まだやることがあるやろ」

 

江上はいつもの飄々とした調子ではなく、目だけは真剣だった。後輩である涼介に対しても、その一線は崩さない。だが、戦場を共にする仲間として――そこに気遣いは確かにあった。

 

「……はい」

 

涼介は短く返事をして、跳躍ユニットの推進剤補給状況を確認する。戦術機の背面で、整備員がタンクを交換しながら声をかけた。

 

「鍋島少尉、あと3分で完了します。ジャンプユニットは一部推進弁が焼けてますが、ギリもたせます」

 

「ありがとよ。助かる」

 

涼介はそう返しながら、視線を中隊長機――真凜大尉の機体へと向けた。

 

背を向けたそのF-4J「激震」の帝国陸軍グレーカラー。その背中が、まるで砦のように思えた。

 

「……真凜大尉」

 

この戦場に来てから、白鳥大尉がどれだけの練度で部隊を引っ張っているかを、身をもって思い知らされた。圧倒的な状況判断、機体制御、近接戦。どれをとっても、今の自分が勝てるような相手じゃない。

 

(だけど、いつか……)

 

その背中に追いつく。いや、超える。それが今の目標だ――いや、夢かもしれない。

 

「何ジッと見てんだ、白鳥大尉のケツ」

 

背後から聞こえた声に、涼介は思わず肩を跳ねさせた。

 

「兄貴……いや、保科中尉」

 

「まだ戦いは終わっちゃいねぇ。次の突入じゃ、もっと酷ぇのが待ってるぞ」

 

保科隼人――B小隊の小隊長にして、涼介が敬愛する兄貴分。飄々としながらも、誰より冷静に戦況を読むその眼差しは、いまも変わらない。

 

「いつか兄貴を超える衛士になってやんよ。ぜってぇ負けねぇからな」

 

「ほぉ、言ったな涼介」

 

「言ったからには……やってやんよ」

 

言いながらも、胸の奥には不安が渦巻いていた。戦場に「絶対」はない。いつ死ぬかなんてわからない。それでも、言わなきゃ前に進めない。

 

その時、白鳥大尉の機体から通信が入る。

 

『全機、補給完了し次第、再出撃準備。あと10分以内に出る。急げ』

 

「はっ、中隊長!」

 

それぞれが応答し、整備員たちが最後のチェックに走る。

 

「……また、地獄だな」

 

「でも、行くんだよ。俺たちは……衛士だからな」

 

誰ともなく呟いたその言葉が、涼介の胸に染み入った。

 

燃料も、推進剤も、心も――すり減っていく。それでも、進むしかない。生きて戻ってくるために。仲間の死を、無駄にしないために。

 

そしてまた――“彼女”の前で、胸を張って「帰った」と言うために。

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