Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

211 / 224
キャラクター紹介 井上勝

――鬼と呼ばれ、父で在り続けた訓練校教官

 

 帝国陸軍所属軍曹。年齢38歳。

 新潟・新発田訓練校に配属された衛士教育教官であり、鍋島涼介、池田裕平、近藤静、歳刀慶らを直接指導した人物である。

 

 訓練兵たちからの渾名は――鬼教官。

 

 容赦のない怒号。

 理不尽とすら思える反復訓練。

 倒れても終わらない体力錬成。

 判断が遅れれば即座に罵声が飛ぶ。

 

「戦場は待ってくれん。立て。もう一回だ」

 

 その声に情はない。

 少なくとも、訓練兵の目にはそう映る。

 

 だが井上勝という男の本質は、決して冷酷ではない。

 

 彼は教官になる以前、実戦衛士として大陸戦線へ派兵されていた。

 激戦区での対BETA戦闘に従事し、前衛・支援・撤退戦すべてを経験。

 そして――数え切れないほどの仲間の死を見てきた。

 

 優秀だった者。

 気の良い者。

 未来を語っていた若者。

 

 その多くが、判断の遅れ、経験不足、訓練不足という「ほんのわずかな差」で命を落としていった。

 

 生き残ったのは強かったからではない。

 ただ、“死ななかった”だけ。

 

 その現実を骨の髄まで理解しているからこそ、井上の訓練は徹底している。

 

 彼が教えるのは「勝つ戦い」ではない。

 **「死なない戦い」**である。

 

 無理に撃つな。

 孤立するな。

 退く判断を恥じるな。

 

 前に出る勇気より、帰る判断を重視する。

 それは突撃精神を尊ぶ帝国軍の気質とは相反する思想でもあった。

 

 ゆえに彼の訓練は厳しい。

 

 生きて帰る確率を1%でも上げるためなら、

 嫌われ役になることを厭わない。

 

 鍋島涼介に対しても同様だった。

 

 突撃気質を早期から見抜き、

 その危うさを誰よりも理解していた。

 

「お前は前に出過ぎる。死ぬぞ」

 

 だが涼介は止まらない。

 だからこそ井上は、止めるのではなく――生き残る突撃の仕方を叩き込んだ。

 

 結果としてそれは、後のA小隊の戦い方の基礎思想の一部となっていく。

 

 

 訓練校教官という立場は、戦場に出ない。

 

 だが――

 

 教え子は全員、戦場へ行く。

 

 送り出す側である井上は、常に報告書と向き合うことになる。

 

 戦死。

 行方不明。

 未帰還。

 

 名前の横に並ぶその文字を、何度も見てきた。

 

 心を痛める暇はない。

 情勢は悪化の一途を辿り、訓練兵は次々と前線へ送られていく。

 

 それでも彼は教え続ける。

 

 怒鳴り、叩き起こし、走らせ、撃たせる。

 

 その裏にある感情を、表に出すことはない。

 

 だが――

 

 夜間の訓練場で、一人残り機体を見上げる姿を、整備兵が目撃したという話もある。

 

 

 鬼教官、井上勝。

 

 だが教え子たちが戦場で思い出すのは、怒号ではない。

 

「孤立するな」

「帰るまでが任務だ」

「死ぬな」

 

 その言葉である。

 

 彼の訓練は、恐怖では終わらない。

 生存率として結果に残る。

 

 だからこそ――

 

 彼の教え子は、死地にあっても帰ってくる者が多い。

 

 

 井上勝は英雄ではない。

 前線の撃墜王でもなければ、名を残す指揮官でもない。

 

 だが彼が育てた衛士たちは、戦場で確かに生き抜いている。

 

 鬼と呼ばれ、嫌われ、恐れられながらも――

 その役目を全うし続けた男。

 

 教え子の命を1人でも多く繋ぐために、

 自らの心を鬼にした教官。

 

 それが、新発田訓練校教官――

 井上勝軍曹である。

 

 モデルは作者が通っていた空手道場の師範。

 ちなみに作者は25年程空手を続けてきたのだがその理由は師範が怖過ぎて辞めるの一言が言えなかったからである。

 

井上勝

 

【挿絵表示】

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。